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ロシアが勝ち切れない3つの理由。米国の戦争「長期化」準備が第三次世界大戦を引き起こす=矢口新

ロシアがウクライナに勝ちきれず苦戦しているのには3つの理由がある。そろそろ世界が一丸となって幕引きを考えるべき時期だが、米国はさらなる戦争拡大を懸念して長距離兵器を提供すべく備え始めている。ここからは何が起きても不思議ではない。日本人も、あらゆる事態を想定し、何が起きても慌てることがないよう覚悟を決める必要がある。(『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』矢口新)

※本記事は矢口新さんのメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』2022年5月30日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。配信済みバックナンバーもすぐ読めます。

プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

ロシア軍が「勝てない」3つの要因

ウクライナ戦争でロシアが苦戦している。

ウクライナ東部で5月8日行われたドネツ川(シヴェルスキードネツ川)渡河作戦では、ロシア軍の70台以上の戦車・装甲車が破壊され、最大1,000人とも言われる部隊が全滅させられたという。

英タイムズ紙によれば、舟橋を渡河中の部隊が狙われた。
※参考:Russian battalion wiped out trying to cross river of death | News | The Times(2022年5月12日配信)

一方、米ニューヨークタイムズ紙はおそらく同日の戦闘で、ロシア軍はセベロドネツク市の近郊でドネツ川とウクライナ軍に挟まれて、少なくとも400人の兵士が砲撃を受けて死亡したと報道した。
※参考:A Doomed River Crossing Shows the Perils of Entrapment in the War’s East – The New York Times(2022年5月25日配信)

ロシア軍苦戦の第1の理由は、ウクライナ軍がロシア軍の動向をかなり正確に把握していることだ。それは米国などの情報機関が人工衛星などによる戦況の把握を逐一ウクライナ軍に提供していることと、日本を含む西側諸国がウクライナに提供したドローンによる偵察が大きい。

第2の理由は、ウクライナ軍の装備が、事実上、ロシア軍を上回っているためだ。これは、米国など西側諸国の提供によるものだ。

令和3年版防衛白書よれば、ロシア軍の総兵力は約90万人で、米国1国と比べてもはるかに少ない。また、経済規模は比較にならないくらい小さい。

ロシア軍の兵力(出所:令和3年版防衛白書)

一方、ウクライナ軍の兵力は12.5万人とされているが、女性を含む民間人の多くが戦闘に参加している。60歳以下の男性には出国を認めず、国防に従事させるという話もあり、その話が事実だとすれば、4,000万人を超える人口の相当数が兵力として見込めることになる。これがロシア軍苦戦の第3の理由だ。

ウクライナの兵力(出所:narudora media)

つまり、ロシアは1国(ベラルーシを加えれば2国)だけで、米国などNATO29カ国、及び日本やオーストラリアなどの西側支援国と戦争している。

加えて、親せきや知人も多く住んでいる兄弟国を蹂躙しているロシア軍と、祖国で家族や街を守っているウクライナ軍の士気の違いを鑑みれば、ロシアが勝てるはずがないのだ。

Next: ロシアを追い詰めるほどリスクも増幅。幕引きを考えるべき時期だが…



ロシアを追い詰めるほどリスクも増幅

では、ロシアは攻め込みながらむざむざと負けるのか?あるいは、プーチン大統領が当初から言っているように、追い詰められれば「核兵器」の使用も考えられるのか?

核兵器は1発でも破壊的だが、ロシアは世界一多くの核弾頭を保有しており、西側諸国全部を合わせても、世界の半分に満たないのだ。

世界の核保有国(出所:長崎大学)

つまり、ロシアを経済力や通常兵力などといった弱みをついて追い詰めることは、ロシアの核兵器という強みを引き出すことにもなりかねないのだ。

幕引きを地球一丸となって考えるべき時期だが…

そこで、核戦争を恐れる世界は、ロシア・ウクライナ戦争の出口戦略を提供する必要が出てきている。バイデン大統領が失言したように、プーチン政権転覆までロシアを叩くというのでは、核戦争を覚悟せねばならず、話にならない。

キッシンジャー元米国務長官は、スイス、ダボスで開かれている世界経済フォーラムにオンラインで参加し、ロシアとウクライナの国境を「2月のロシアの侵攻前の状況」とすることが望ましいと提言した。これはロシアのクリミア半島領有を認めるものだ。西側諸国にも戦争が長期化すれば「ロシアに対する新たな戦争になる」とロシアへの配慮を呼びかけた。

これに対してウクライナのゼレンスキー大統領は、譲歩は考えられないと強く反論。「領土分割論を唱える者は、その地域に住んでいるウクライナ人を考えていない人だ」と訴えた。「キッシンジャー氏のカレンダーは2022年でなく1938年になっている」とも指摘した。

英仏が台頭するナチス・ドイツに融和姿勢を示し、第2次世界大戦の惨禍を招いたとされる歴史の経緯を引き合いにした非難だ。

とはいえ、クリミア半島をウクライナが領有していたのは、1954年に当時のソ連フルシチョフ書記長がロシアから譲渡してから、2014年にウクライナのクーデターで反ロシア政権が成立しためにロシアが取り戻すまでの60年間だけだ。現在も「その地域に住んでいる」住民の7割はロシア人だとされている。残りがコサック人とウクライナ人だ。

クリミア半島のセヴァストポリには、1783年からロシア黒海艦隊の海軍基地がある。それをロシアが「敵国」に明け渡すことは、敗戦以外に考えられないと言える。

ロシア軍の配備(出所:令和3年版防衛白書)

少なくとも、クリミア半島に関してはゼレンスキー大統領の主張にこそ無理があるのだ。これでは、停戦すら望めない。

Next: 備える米国。バイデン大統領は戦争拡大を懸念し始めた



備える米国。バイデン大統領は戦争拡大を懸念し始めた

また、米国がウクライナによる戦争拡大を懸念し始めているというスクープ記事がロイターに出た。

■米国とウクライナ、新兵器で射程伸び、戦争が拡大する危険を議論

米国とその同盟国らがウクライナにますます洗練された武器を提供していることで、米政府はウクライナ政府と、ロシア領内深くを攻撃した場合の戦争拡大の危険について議論を持ったと、外交当局者たちがロイターに語っている。

この水面下の話し合いは機密性が高く、これまで報道されたことはないものだが、ウクライナ軍に供給されている武器には明確な地理的制限がない。しかし、この会話は戦争拡大のリスクについて共通の理解に達することを狙っていると、3人の米当局者と外交筋が述べた。

ジョー・バイデン大統領政権と米国の同盟国らは、ウクライナにM777榴弾砲を含む長距離兵器を与えることにますます前向きになっている。ロシア侵攻軍に対するウクライナ政府の戦闘が米国の情報当局者たちが予測していたよりも成功しているからだ。米国防省の発表によれば、デンマークはハープーン対艦船ミサイルを提供する予定で、ウクライナ政府の射程距離が更に伸びることになる。

残る問題は、もし戦争が悪化した場合に、ウクライナが戦略を変更し、米国が提供した兵器を当初に想定した方法とは異なった使い方をする可能性があるかどうかだ。

出典(※筆者翻訳):Exclusive: U.S. and Ukraine discuss danger of escalation as new arms extend Kyiv’s reach | Reuters(2022年5月27日配信)

ロシアが事実上NATOと戦っているために苦戦を強いられるなか、ウクライナがロシア本土への攻勢に転じるのではないかとの懸念だ。

ウクライナの立場に立てば、やられるばかりではたまらない。「復讐」したい気持ちは理解できる。

とはいえ、米国から見ればNATOの支援があってこそのウクライナの善戦だ。勝手に戦況を拡大し、核戦争のリスクを高めて、西側諸国に火の粉がかかってはたまらないのだ(編注:バイデン大統領は5月30日、ホワイトハウスでの記者会見で「ロシア領内を攻撃可能なロケットシステムは供与しない」と明言しています)。

日本人もあらゆる事態を想定していく必要

NATOをロシア国境線にまで拡大し、ウクライナもクーデターで反ロシア政権にして、マッチ1本の火でも燃え上がるようにしたのは米国だ。そして、2014年にクリミア半島を奪還し、2022年にはウクライナ本土にも攻め込むことで、実際に火をつけたロシアを世界中で追い詰めようとしている。

その最前線で、命を掛けて戦っているのはウクライナ人たちだ。ゼレンスキー大統領は「ロシア憎し」で、復讐の炎に包まれているように見える。

米国がゼレンスキー大統領を止められなければどうなるか?モスクワを攻撃されたプーチン大統領が核兵器を使えばどうなるか?

命がけのゼレンスキー大統領も、やはり命がけのプーチン大統領も、覚悟を決めているように見える。これまでのような脅しや制裁だけでは止められないかもしれない。

日本人も、あらゆる事態を想定し、何が起きても慌てることがないよう覚悟を決める必要があると思う。

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image by: Harold Escalona / Shutterstock.com

相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』(2022年5月30日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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