参院選で争点となった物価上昇。「日本は30年間、賃金が上昇していない」と連呼されていました。しかし、データを精査すると賃金は上昇しています。しかし、その上昇を感じられないのには、2つの理由が考えられます。(『徒然なる古今東西』高梨彰)
日本証券アナリスト協会検定会員。埼玉県立浦和高校・慶応義塾大学経済学部卒業。証券・銀行にて、米国債をはじめ債券・為替トレーディングに従事。投資顧問会社では、ファンドマネージャーとして外債を中心に年金・投信運用を担当。現在は大手銀行グループにて、チーフストラテジスト、ALMにおける経済・金融市場見通し並びに運用戦略立案を担当。講演・セミナー講師多数。
賃金は本当に上がっていないのか?
参院選でも話題になった物価。日本の場合、「モノの値段は上がっているが、賃金は上がらない」と言われることが多いかと思います。
一方で、与党を中心に「企業に賃上げを働き掛け、実際に賃金は上昇している」との声も。
改めて数値を並べると、何となく分かることが1つ。そして、「昔ながらの野党」の牙は抜かれてしまったのでは?と思うことも1つありました。
毎月勤労統計と春闘のデータを比較
具体的には、中小企業から大企業まで幅広くデータを集める「毎月勤労統計」と、春になるとメディアでの扱いも多くなる「春闘」の比較です。
これらのデータ、どちらも厚生労働省のサイトから入手可能というのも意味あり気でして。
まず「毎月勤労統計」から「事業所規模5人以上の現金給与総額」の「賃金指数」を出してみます。
2014年から2021年までの指数を見ると、平均上昇率は年0.46%です。アベノミクス推進のもと、賃金上昇率はプラスを確保しています。
一方「春闘」での賃上げ要求・妥結額を2014年から2022年まで並べると、こちらは平均上昇率2.15%。日銀の「物価安定の目標」となる上昇率2%を上回っています。
ただし「春闘」で公表される企業群は「資本金10憶円以上かつ従業員1,000人以上の労働組合のある企業」です。2022年は343社でした。いわゆる大企業です。
消費増税で吹き飛ぶ0.46%の賃金上昇
この両者を並べると「大企業と中小企業との比較だから」程度で終わりがちです。でも、厚労省のデータには「実質賃金」実際に貰う金額(名目賃金)から、物価上昇率を引いた分の賃金もあります。こちらを見ると、0.46%の上昇率は厳しいとの結論に至ります。
最も分かりやすいのが消費税の増税です。増税分だけで0.46%の上昇分は簡単に吹き飛びます。増税時の実質賃金上昇率はマイナスですから。
加えて年金保険料や健康保険料などの控除も年々重くなっています。そりゃ景況感だって上がりません。
Next: 野党の主力部隊だった「労働組合」も賃上げ提示で骨抜きにされた
野党の主力部隊「労働組合」も骨抜きに
また「春闘」で登場する「労働組合」は戦後55年体制下での野党の主力部隊そのものです。平均2%超の賃上げ提示があれば、妥協だってしちゃいます。
今回の参院選でも労働組合からの候補者が居ました。しかし結果は今一つだったようです。これが昔ながらの野党が骨抜きにされた結果だとすれば、賃金面でも「もはや戦後ではない」と言えるのかもしれません。
同時に、「そりゃユーチューバーの方が響くよなぁ」とも感じる次第です。
そういえば、かつて勤めた複数の大企業(系)でも、労働組合の「専従」者は、後に人事や企画部門の幹部になる人が多かったことを思い出します。
「企業官僚」という言葉が有るのか
まとめ
・「賃金が上がらない」という割に「春闘って何時も景気良い値だった」気もして
・毎月勤労統計と「春闘」との差を改めて並べると、違いの大きさを痛感します
・「労働組合」って戦後骨抜きにされ続けてきただけかも、とも
『徒然なる古今東西』(2022年7月13日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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