ついに一時1ドル135円台にタッチしました。この円安、多くの意味で「異常」なもので、円安が進むほど次なる円高のマグマが蓄積される面があり、不安定さが募ります。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2022年6月13日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
蓄積される「円高マグマ」
米国の景気後退懸念でいったんは落ち着いたかに見えた円安も、6月6日の黒田総裁発言で再び円安の動きが復活、13日には1ドル135円台を見ました。実に24年ぶりのことです。
この円安、多くの意味で「異常」なもので、円安が進むほど次なる円高のマグマが蓄積される面があり、不安定さが募ります。
異常さは次の2点に現れています。
「異常さ」その1:購買力平価との異常な乖離
まず、現在のドル円相場が、購買力平価(PPP)、つまりインフレ格差から見た為替の均衡値から大きく乖離していることです。
購買力平価は基準時点と物価指数のとり方で変わってきますが、日本の経常収支がおおむね均衡していた73年を基準にとり、物価指数を日米の消費者物価(CPI)、あるいは生産者物価(PPI)で導いたものが一般的です。
まず消費者物価(CPI)で計算した購買力平価は、足元で1ドル110円が均衡値と計算されます。また生産者物価(PPI)を基準に取ると、購買力平価は88円程度となります。この他に日米の輸出物価で計算するものもありますが、物価対象が限られるのでここでは省きます。
過去50年について、現実のドル円相場と購買力平価(PPP)とを比べてみると、PPIで計算したPPPを中心に、現実の円相場がこれを上下して動いています。もっとも85年から2013年までは長期間にわたってこのPPI基準の購買力平価よりも円高で推移していて、13年以降は現実の円相場がPPPよりも円安になっています。そしてCPI基準のPPPは、円安の上限的な位置づけになっています。
このPPPから言えることは、本来の購買力平価からは1ドル88円ないしもう少し円高水準が長期的な均衡水準と考えられ、過去の例からみるとCPI基準の110円が円安の上限ということになります。
ところが、現実のドル円相場は足元で1ドル134円台で、PPI基準の購買力平価からは50%以上も円安に乖離し、CPI基準のPPPからも20%あまり円安に行き過ぎています。
購買力平価という均衡値から乖離した分が大きいほど、いずれ均衡値に戻るときの円高マグマが大きくなることを意味します。