「異常さ」その2:50年逆戻りした実質実効レート
もう1つ、中央銀行の中央銀行と言われるBIS(国際決済銀行)の試算によると、日本の円はインフレ格差や貿易ウエイトを調整した「実質実効レート」が今年1月時点で67.55(数字が小さいほど円安)と、72年6月の67.49以来の低水準となり、50年ぶりの円安になったと報じています。
その後名目の円相場が大きく円安になっているので、実質実効レートも足元で計算すれば、さらに大幅な円安となっているはずです。
この実質実効レート、95年4月に150.85をつけ、過去最高の円高となりましたが、現在の水準はその半分にも満たない大幅な円安で、円の実力が50年前に逆戻りしたことになります。
これは海外から見れば日本が「大バーゲンセール」をしているようなもので、日本製品、日本企業が割安となり、旅行者のみならず、海外の投資家は日本企業を安く買収できることになります。
黒田日銀総裁は2015年6月に、やはり実質実効レートでみて大きく円安に振れていたことから、「実質実効レートからみてこれ以上円安になる可能性は低い」と述べ、その後の円高転換のきっかけを作りました。
当時は米国のオバマ大統領が、「ドル高は米国経済に負担」と言っていたことが影響したと見られます。現在は当時以上に円安となっています。
円安のもとは政策格差よりも当局の姿勢
これだけの円安が進んだ背景には、日米金利差の拡大がある、というのが一般認識ですが、これは不正確です。
金利が高い国は一般にインフレが進んでいる国で、前述のようにインフレが進んでいる国の通貨は、通常金利が高くても弱くなります。実際、アルゼンチンやロシア、トルコなどは金利が高くてもインフレで通貨が安くなっています。
米国は確かに利上げが急ピッチで進みつつあります。例えば10年国債利回り3%は日本の0.25%に比べればずっと高く、投資家には魅力的ですが、反面米国のCPIは1年で8.6%も上昇し、3%の金利でも実質では5%以上マイナスになります。
日本は0.25%の金利でCPIは2.5%なので、長期金利は実質でマイナス2%強となります。実質金利では日本のほうがまだ高く、円安の説明にはなりません。
しかし、日々為替の売買に携わる投機筋は、通貨先物市場で最近でも10万枚前後の円売り越しとなっています。円の先安観が強い証拠で、市場は実質金利差で日本優位であっても円安期待を持っていることになります。この期待をもたらしているのが当局の姿勢です。
FRBはインフレを2%台に下げるべく、積極的に金融引き締めで対処すると言う一方で、日銀はゆるぎない姿勢で金融緩和を継続する、と言っています。
黒田日銀総裁はこうした姿勢が市場の期待形成に影響することを認めています。従って、現実の金融政策の差というよりも、当局のインフレに立ち向かう姿勢、政策姿勢がより大きく為替市場に影響していると見られます。実際、最近でも3月18日の総裁会見、6月6日の都内での講演での発言を契機に、円安が大きく進んでいます。