コロナ禍で苦しい状況を強いられた旅行業界が復活の兆しを見せている。それもそのはず、インバウンドが2月の過去最高を大きく更新するなど、今後も多くの外国人観光客が訪れることが予想され、旅館やホテルでは正社員雇用に力をいれている。しかしながらまだまだ十分とは言えず、働き手が足りていない業界・業種も少なくない。さらに正社員を採用する企業が3年ぶりに減少するなど、全体での人手不足が改善されるのはもう少し先になるかもしれないのだ。
正社員を採用する企業が3年ぶりに減少

出典:帝国データバンク
帝国データバンクが発表した2023年の平均有効求人倍率は1.31倍と、前年(1.28倍)から0.03ポイント増に。原材料価格の高騰など、諸々の影響を鑑みると2019年の1.60倍からそこそこに推移していた。ただし、雇用動向を見てみると、「正社員の採用予定がある」と回答しているのは61.5%で、3年ぶりに“低下”していた。
正社員を採用する割合は圧倒的に大企業(84.9%)が多く、中小企業(57.5%)と続く。企業からは、「運転職の平均年齢が上昇しているため、定員確保に苦慮している新卒・中途ともに、女性ドライバーの雇用や定年退職者の継続雇用に力を注いでいる」(運輸・倉庫)、「働き方改革などで労働時間の減少や休日を増やす傾向があり、人員を多く採用せねばならない」(医療・福祉・保健衛生)といった声が聞かれた。
逆に「正社員の採用予定がない」企業からは、「社員募集をしても応募がなく、中小企業の雇用は難しくなっている」(飲食料品卸売)との声もあがっている。厳しい経営状態から採用を控えざるを得ない様子もみられたが、その中で注目すべきは「旅館・ホテル業」である。
最も正社員雇用に力をいれている業種は「旅館・ホテル」

出典:帝国データバンク
業界別での「正社員の採用予定がある」割合は、先ほどの「2024年問題」が懸念されている「運輸・倉庫」が69.7%で最も高い数値となり、次に「建設」「サービス」がともに66.6%と続いた。細かい業種でみると、インバウンド増加に伴い人材確保が急がれる「旅館・ホテル」が8割に。
採用予定がある企業からは、「インバウンドが戻りつつあるなかで、受け入れ施設としてはそれに対応していく必要性を感じている」(旅館・ホテル)や「非正規パートタイマーの人手不足感が強い。行政には年収106万円の壁の撤廃を前向きに検討してもらいたい」(飲食料品小売)などの声が上がった。正社員だけではなく、非正社員としての採用も本格的に力を入れていかなくては、今後の人員強化に繋げることはできないのだ。
非正社員としての採用が多い業種は「飲食店」がトップに

出典:帝国データバンク
業種別で「旅館・ホテル」は、両雇用形態で採用予定がある企業が8割台にのぼっており、採用意欲が非常に高い水準となっている。両雇用形態とは、正社員・非正社員とも採用するということだが、かつて正社員になりたくても非正社員でしか働けなかった時代を振り返ってみると、今後どうなっていくのか要注目だ。
特に中小企業においては、人手不足が深刻化し、採用意向はあるものの、コストが上がっていることで収益面が悪化。賃上げができないために、大企業に条件面で及ばないということが多くあげられる。なかには物価高によるコスト圧迫で経営状態が悪化し、採用自体を控えている企業も増えているようだ。
もちろん採用活動に関しては、企業の収益に左右されるところが多いだろう。採用を絞ってでもその分、賃上げに繋げることを検討している企業も少なくないが、人手不足が囁かれて何年も経った今、外国人雇用など多様な人材の確保といったシフトチェンジが求められているのかもしれない。一会社員としては、中小企業を支援する制度の強化を強く願うばかりである。
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