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“風見鶏”岸田首相が組閣で隠した爪。安倍派の首を真綿で締める策士の仮面はいつ外すのか=山崎和邦

岸田首相は8月9日に組閣人事を決めた。各派閥に気遣いしたように見えるが、策士・岸田の本音は他にある。派閥の力がない岸田首相は時間をかけて安倍派の弱体化を狙っている。(「週報『投機の流儀』」山崎和邦)

※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』』2022年8月14日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に購読をどうぞ。

岸田首相が組閣を早めた理由

まずは、安倍元首相を国葬にすると素早く決めてしまったところに、岸田総理の見かけによらぬ策士ぶりが現れている。国葬が済むまでは喪に服している期間であるから、喪中に組閣人事や入閣や派閥同士のバランスなどについて騒ぐものではないと言って、まず党内を鎮めた。言わば口封じである。そしてフリーハンドで人事を行おうということで、まずは「8月10日に組閣する」と言った。

ところが、それを1日早めた。これは党内がうるさいからであろう。自分は四番目の派閥にしか属さなくて、亡き安倍元首相は最大派閥の領袖だった。その最大派閥に配慮しているように見せているところが、岸田総理の本当の策士ぶりである。今のところは安倍派(清和会)の協力がないとうまく行かないのは事実であるが、やがては安倍派のクビキを離れて自在に腕を振るいたいというのがホンネであろう。

時間をかけて安倍派弱体化を狙う

河野一郎や大野伴睦という超大物が死亡して「長老政治のクビキ」から離れた佐藤栄作元総理は、自在に振る舞って、大きな仕事を成し遂げた。

また、田中角栄が死亡して田中のクビキから離れた中曾根内閣は、三公社五現業を民営化するという大きな仕事をして国の形を変えた。

小泉元首相は「変人」をウリものにして、逆手にとって「自民党をぶっ壊す」をあからさまに標榜して、自在にふるまって郵政民営化を果たした。

あれと同じように最大派閥の安倍派(清和会)のクビキから離れなければならないが、今はそれをやると混乱する。清和会潰しをあからさまに行うわけにはいかない。したがって、派閥同士のバランスを保ちながら清和会の顔を立てて、時間をかけて安倍派弱体化に手を打ったのが今回の組閣だと思う。

総裁の座を争った河野太郎氏と高市早苗氏はともに野放しにしておくよりも入閣させて手元に置いておいた方が安全だということで、入閣させて見張っているつもりなのだ。

松野官房長官(59歳)、萩生田政調会長(58歳)、西村経済産業大臣(59歳)が次の総理を狙って出てくるであろう。安倍派の弱体化を狙い、次の総理が自分の手元で自分に協力してくれるようにした人事が今回の組閣であると筆者は見る。表面的には各派閥のバランスをとっているように見える。

統一教会問題を好機として、これに関連した者は外すという口実もできた。ところが、統一教会に関連したとされた2人を入閣させている。

目玉の防衛大臣の選択も見事

防衛大臣は今の状態では目玉である。これを防衛大臣経験者だからという理由で、無派閥の浜田靖一氏を防衛大臣に据えた。この目玉ポストに無派閥を持ってきたのは岸田氏の策士たる所以である。以前に稲田朋美とか小池百合子などという無能力者(小池百合子は権力者に擦り寄ることと自分を目立たせることにおいては特異な才能を発揮するが、政治的手腕や政治的思想は皆無だと筆者は思っている)に防衛大臣をやらせた。

その時に、無能な彼女らに対して挙手の敬礼をする自衛隊員が気の毒だと筆者は思いながら、テレビを見ていた。当時は、海外の駐在武官から防衛省に情報が集まり、制服組の幹部と省内ベテランが大枠を決めて、大臣はそれを語っていれば済んだから、無能者でも務まったのだ。

今回は経験者の浜田靖一大臣であるし、千葉県出身の暴れ者だった浜田幸一の息子でもあるから、稲田朋美や小池百合子を据えるよりは何倍もマシであろう。防衛大臣は、現在では目玉である。そこに経験者の無派閥の者を据えたのは正解だったであろう。

このようにして、岸田総理は自分の策士ぶりを見せずに派閥のバランスが取れた手堅い人事であり、喪中に行ったフリーハンドの人事であるという素振りを見せて、時間をかけて最大派閥の安倍派を弱らせてそのクビキから離れる手を打った。その一歩が8月9日の組閣である。筆者はこう見る。

Next: 岸田首相はいづれ風見鶏の汚名を返上する



爪を隠す風見鶏の岸田

元々、宏池会は「公家集団」と言われていた。「インテリではあるが、剛腕ではない」の意である。しかし、宏池会というのは本来、保守本流である。

中曾根康弘は、田中角栄生存中には「風見鶏」と言われていた。その風見鶏が田中角栄のクビキから離れた途端に大きな仕事をして、日本の形を変えた。岸田は今、風見鶏だ。経済政策も何か言い出して、市場の反乱に遭遇すると直ちに「…という選択肢もあるという意味です」と言い換えて、事実上撤回してきた。

これでは腰の据わった経済政策は行えない。こういう経緯が株式市場に全て表れている。「風見鶏・岸田」の経済政策が今の株式市場によく表れている。ところで、時間をかけて安倍派を弱らせて、風見鶏が風見鶏でなくなった時に開成高校出身者から優れたブレーンの候補が生きてくると思う。そこから先でなければ、岸田内閣の経済政策は読めない。

今は、風見鶏を演じている最中である。株式市場にもよくそれが表れている。

間近に迫るデフレ脱却

「日銀の異次元緩和」は安倍内閣になって黒田日銀総裁から始めたと錯覚している人が多いが、実はこれは10年前の4月、つまり民主党政権の末期の白川総裁の時代から始めたものだ。

異次元緩和というのは利子の操作だけではなくて、札束の量を操作することを当時は言った。それを開始してから10年目の今、消費者物価指数は日銀が標榜する2%目標を初めて超えた。皮肉なことに、日銀の力によるよりも海外要因によるところが多かった。日銀短観の6月期では販売価格判断の上昇幅が仕入れ価格判断の上昇幅を上回り、企業の価格転嫁の進捗を示していたように見える。

これを見て、黒田総裁が「家計の値上げ許容度が高まっている」と言って、世論の批判を浴びて、撤回を余儀なくされたことがあった。しかし、調査結果で言えば、値上げ後も同じ店で購入を続ける消費者が増えているという結果が出ていることは事実である。

消費者物価指数の伸び率が2%を超えたのは、2008年夏の商品相場の高騰期であった。2008年当時は、仕入れ価格が大幅に上昇しても販売価格の上昇はわずかだった。最近の円安の影響を考え合わせると、今年の秋にはインフレ率が3%に接近するシナリオも視野に見えてくると言っているのは早川英男(元日銀調査統計局長)である(週刊東洋経済誌8月13~20日号)。

予想をはるかに上回る最近の欧米の物価上昇は、インフレ見通しの不確実性の大きさを改めて確認するものになった。金融政策でも、財政政策でも、デフレは簡単には脱却できないという思い込みに依存することは避けるべきであろう。

金融危機、25年前は日本発、今回は中国発か

「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」

投資家としても有名な米作家のマーク・トウェインが残した言葉である。

差し当たって現在の「韻を踏む」から言えば、1995年から25年目の今日現在、25年前の世界2番目の規模の日本発の金融危機だった。1997年11月に山一證券・三洋証券という世界的大手証券と北海道拓殖銀行という大手都銀が1ヶ月で連続破綻。バブル崩壊後の不良債権処理の遅れが金融危機の形で表面化した。日銀特別融資などを駆使して、日本の危機が世界に連鎖するのを防いだ。今回の発信源は日本ではなく、中国だ。

当時、日本が世界で二番目の経済規模だったが、今は世界で二番目の規模は断然中国である。しかも当時のような純粋な金融部門の危機ではなく、中国が発信する危機は米下院議長の台湾訪問などの地政学上のことも含む(97年にも当時の下院議長が台湾を訪れて台湾総統と会談した)。今回も似たようなことをやった。当時は軍事大国ではなかった中国は、今度は軍事大国であるから軍事演習で応じて米中の緊張が高まった。25年前の韻を踏むならば、中央銀行が「日銀特別融資」を駆使して日本の危機が世界に連鎖することを防いだが、中国は何をやるだろうか? この点が不明である。

ただ、中国もバカではない。不動産バブルの危機や地政学上の危機を自ら抑えこまなければ、世界に冠たる大国にはなれないことは、自ら承知しているはずである。

Next: 老齢化した米国政治家では、習近平に対抗できない



政治の延長が戦争である

クラウゼヴィッツの言い分である。「戦争とは外交以外の手段で遂行する政治の延長である」。したがって、経済制裁も戦争の一種である。今、中国は日本と並ぶ米国国債の大量保有国である。中国が米国債を売却し始めれば、米国国債は暴落する→長期金利は暴騰する。米FRBは既に量的引き締めにかかっている(米国債の保有額を減らしている)から、既に長期金利は上昇しているにもかかわらず、債券価格が下落している時に何故、中国が米国債を売るのか?

中国が米国債の保有額を「2010年以来の低水準」まで徐々に減らすという。この傾向は当面継続する可能性があるという。出所は中国共産党機関紙人民日報系のタブロイド判(週刊Newsweek8月2日号)。

アベノミクス相場の壮年期相場の真っ最中に大幅急落したのは「チャイナショック」と言われた。今の中国は経済大国として米国に次ぐ二番目であるが、以前の経済大国は日本であり、米国とはイデオロギーが合致していた市場経済を重んじ、民主主義を重んずる点において世界経済を脅かす存在ではなかった。今の中国は異なる。

米政治家の老化進行で「習近平にしてやられる」

バイデン米大統領は今年11月で満80歳になる。ペロシ下院議長は82歳、マコーネル共和党上院議員も80歳となる。

次の大統領選挙でバイデンとトランプの再戦となれば、米国史上最高齢対決となる。バイデンが仮に二期連続して勤め上げれば、退任時には86歳になっている。バイデンの支持率は各世論調査で36%前後まで落ち、不支持率は56%前後まで上がったという開きが出ている。

日本の政治は長らく「長老支配」と呼ばれてきたが、昨年の総選挙で当選した衆院議員は平均55.5歳であり、米国の上下両議員のどちらよりも平均年齢は若い。米国は大統領を始め、議員全体の平均が老化してきた。

この現象に中国がどういうふうに食い込むか、決して良い方向には行かないだろう。

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<山崎和邦の投機の流儀 vol.527 8/14号>

第1部:当面の市況
(1)市況コメント
(2)週末の大幅高、大商い金額
(3)23年3月期の通期の予想ベースでは、企業数で62%企業がコロナ前を上回る純益と見
込まれる
(4)日経平均の1ヶ月後の予想が半年ぶり高水準
(5)国内のファンダメンタルズは決して悪くない。
(6)8月第1週の週末で、日経平均が2ヶ月ぶりに2万8000円を回復 
(7)「8月の金融市場はショックが起きやすい

■ 第2部:中長期の見方
(1)野村が日本株強気論のシナリオを修正した。
(2)世界の企業業績は7四半期ぶりに減益
(7)ドイツが「原発ゼロ政策」を見直し―この事実は、やがて「東電株」にも波及する。
(8)財務諸表に直結する人材力―「人への投資」が企業価値を左右する。
(9)「GNP」と「GDP」と「GNI」

■ 第3部:株価変動と景気循環との関係
(1)戦後16回の景気循環と株価変動(戦後32回の景気動向変化と株価方向変化の
比較表)
(2)高低のレベルや景気変動の高度深度は無視して、専ら方向のみを見るグラフ

■ 第4部;読者との交信蘭
(1)A様との交信 (8月9日)
(2)K・I様との交信(8月9日)

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山崎和邦 週報『投機の流儀』』(2022年8月14日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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大学院教授(金融論、日本経済特殊講義)は世を忍ぶ仮の姿。その実態は投資歴54年の現役投資家。前半は野村證券で投資家の資金運用。後半は、自己資金で金融資産を構築。さらに、現在は現役投資家、かつ「研究者」として大学院で講義。2007年7月24日「日本株は大天井」、2009年3月14日「買い方にとっては絶好のバーゲンセールになる」と予言。日経平均株価を18000円でピークと予想し、7000円で買い戻せと、見通すことができた秘密は? その答えは、このメルマガ「投機の流儀」を読めば分かります。

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