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安倍元首相の国葬騒動は何だったのか?自民旧統一教会との決別宣言で露呈した哲学も情熱もない岸田首相の実相=山崎和邦

自民党は、旧統一教会との決別を宣言した。ではなぜ、旧統一協会と関係の深かった安倍元首相を国葬までしたのか?国葬は岸田首相の英断ではなく清和会におもねるために騒ぎを起こしただけのことになる。安倍離れのできぬ岸田首相に衰退する日本を救うことは期待できないだろう。(「週報『投機の流儀』」山崎和邦)

※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』』2022年10月16日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。

プロフィール:山崎和邦(やまざき かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴61年、前半は野村証券で投資家の資金を運用する「セルサイド」、後半は自己資金で金融運用する「バイサイド」、晩年は現役研究者と、3つの立場で語ることを信条とする。2022年85歳で国際コミュニケーション学博士号を取得。

党員除外対象者の国葬

国際法を無視するのはロシアばかりではない。岸田政権が正規の手続きを踏まずに勝手に独断で決めた国葬は、その後の経緯を知った海外の要人たちから見ると、実に妙なものに映るであろう。現に、G7のトップはどこも出席しなかった(アメリカの副大統領が参加したのみ)。

自民党は、今後は旧統一教会と関係をもつ党員は除名する可能性があることも示唆した。そうなると、旧統一協会と関係が深かった安倍元首相を国葬としたのは妙なことである。国内にいると国葬問題で騒ぐのは一部の人たちだけだと思い込んでいる人が多いから、その理屈に気が付かない。こういうことを繰り返しやるようでは、岸田政権も短命に終わりそうだ。

岸田政権の支持率が急速に落ちたのは、7月の選挙まで静かにしているのは判るが、7月の選挙が終わった途端に哲学と情熱をぶち上げた。例えば、安倍政権スタートの時のように「日本を取り戻す。民主党から政権を取り戻すのではない。経済を取り戻す。そのために三本の矢を用意した」と声高に叫び、具体策を示して、そのうちの二つは直ちに実行した。三本目の矢だけは不発だったが、一本目の矢は実によく効いた。

「日本列島改造」の田中内閣とか、「自民党をぶっ壊す。郵政民営化改革。改革なくして成長なし」を執拗に叫んでいた小泉内閣。「国の形を変えるのだ」と叫んで立った中曽根元首相は、本当に50兆円赤字の国有鉄道を民間鉄道にしたり、国家が独占していた電波を民営化してNTT(株)としたり、たばこの専売公社をやめて日本たばこ産業という民間会社にして上場させたり、国家の形を変えてしまうような哲学と情熱が首相には要る。

岸田首相には筆者は大いに期待していたが、哲学も情熱もない。正規の手続きを踏まずに国葬を独断で決めてしまったのは「素晴らしい突破力だ」と、筆者はそれを評価しようとした。ところが、実はそうではなかった。あれは単純な手続きミスで、騒ぎを起こして拡大したに過ぎないということが後で判った。

「アベノミクス離れ」ができない岸田政権の衰退

こう言い切ってしまえば身も蓋もない言い方ではあるが、本稿の10月9日号第1部(8)に「37年前の9月22日と今年の9月22日という同月同日の意味は、日本が長期続いた衰退期から再び長期の興隆期に入る運命の同月同日ではないだろうかというような妄想」を希望的観測として述べたことに対する反省である。概ね株式市場は自分に都合よく解釈すると、たいていは間違う。特に、罫線の読み方は自分に都合のいいように解釈すると全て間違う。

岸田政権はアベノミクスから抜け出さない限り、つまり「安倍離れ」ができない限り、日本経済の衰退は深刻で、円安メリットも活かせなくなり、円高回帰も期待薄になるということを言いたい。

最大派閥のある旧安倍派(現・清和会)の支持を得るために、アベノミクスを離れることができない。国民世論を大事にするとともに、党内世論を重視しなければ自民党総裁は務まらない。したがって、岸田首相は小泉竹中ラインが敷いた新自由主義との決別を言い、分配重視の「新しい資本主義」を掲げて自民党総裁に勝ったが、最大派閥の清和会は離れることができない。したがって、アベノミクスを離れることができない。

それを象徴したのが、世論を二分した国葬問題である。このままで行くと深刻な産業衰退が起こり、円安のメリットを活かした空洞化の解消も危うくなる。既に半世紀近く経た1973年~74年の第一次オイルショックの時には、日銀の公定歩合は9.25%まで引き上げられ、主要銀行の長期プライムレートは9.9%まで引き上げられた。つまり当時は、金利は流動的だった。ところが、今のような状態に長くいればいるほど貿易赤字は拡大する。そうすると、相場操縦で行われた円安ドル高は貿易赤字というファンダメンタルな面から居座ることになる。

今年は1月~6月の貿易赤字が8兆円弱になり、7月には1.4兆円、8月も2.8兆円であったから、通年では過去最大の貿易赤字に陥ることになろう。これは日本経済の衰退の深刻さを最もはっきり表している。企業で言えば、売上利益の激減である。しかも、中国や米国などの景気後退があるから、本稿が言うところの「世界一の世界景気敏感国ニッポン」への経済の影響は極めて大きいものになる。

筆者とて日本国民であり、適度な(そのつもりの)愛国者でもあり、日本の将来に期待する者ではある。したがって、先週号の第1部(8)のようなことも「妄想」したが、冷静に考えれば37年前の9月22日の為替介入と正反対の方向に相場操縦に入った今年の9月22日とは、偶然の365分の1の月日の一致でしかなかったということになるのかもしれない。

Next: 技術立国から衰退した日本を救うための新機軸



委縮しつつある日本

「世界の中の大国」として足りなかったのは政治力だったような気がする。経済交流が東西で遮断されていた冷戦時代、国際的な製造業の拠点は日本と西ドイツに集中した。その結果、日本と西ドイツは米国に次ぐ経済力や技術力を誇るようになった。

ところが、今は世界第二位の経済・技術の大国ではなく、中国・韓国を含めて、アジアのいくつかの国は日本と同格か日本以上の力を付けた。日本が謳歌してきた米国一極による世界秩序の安定は揺らぎ、強い円も失いつつある。日本の対外政策の前提となった技術立国はもはや存在しない。

例えば、英国は経済大国の地位は既に失って久しいが、エリザベス女王逝去に対する世界の反応を見ても判るように、ソフトパワーは今も圧倒的に強い。日本にはそれさえもない。安倍首相は衰退する日本を再び経済大国に押し戻したという大功績があった。しかし、今はそれもしぼみつつある。

衰退中の日本を救うのは、新機軸しかない

日本経済はあらゆる政策を総動員したにもかかわらず、30年間はゼロ成長が続いてきた。これは第一次オイルショック1973年秋に、当時高度成長論の立役者であった大蔵省出身の下村治博士(池田内閣の所得倍増計画のブレーン)が、突然手のひらを返したように「ゼロ成長」を言い出した。人騒がせなことであるから時の経済企画庁も政権も、これを「安定成長」と言い換えた。しかし、結果的に「下村氏の豹変」は当たっていたことになる。「君子豹変す」とはこれを云うのだろうとさえ思う。

30年間ゼロ成長が続いた。アベノミクス時代に株価は平均株価2.8倍になり、時価総額も3倍近くになり、日本の対外資産も増えたし、年金基金も4割以上も増えたし、雇用も最大になったし、企業の経常利益も創業以来最高が6年間も続いた。

しかし、安倍政権時代の7年間を通算してみると、GDPは1.1%の成長しかなく、ゼロ成長に近い。最もその期間に消費税が5%から8%になり、8%が10%になるというふうに増税して2倍になった。これによって、四半期別のGDPは2期間連続してマイナスになったことが安倍政権時代に二度あった。これを含めているので、通算すれば7年間で1.1%にしかならなかったという事実はある。

しかし、30年間ほとんどゼロ成長が続いたことは事実である。これは日本の景気低迷が、単純に需給ギャップの問題ではないということを端的に示している。したがって、財政出動で需要を増やしても、それだけでは日本経済は救えないということを示している。

財政出動のメカニズムは、ある均衡点から次の均衡に至るまでのものである。景気がなかなか良くならないために経済政策に期待する声が大きいが、日本の場合は経済の仕組みそのものに問題があり、社会の仕組みそのものに問題があるのではなかろうか。

一般的な経済政策では充分な効果は発揮できない。財政や金融といった経済政策は一時的な需給ギャップの解消など転機的な経済の救済にはなるが、自動的な成長を促すものではない。アベノミクスの「三本の矢」の時に言われた「三本目の矢」(「設備投資を呼び込む成長戦略」)が必要なのだ。

古い話しだが、シュンペーターが説いたイノベーションこそ必要である。ところが、政府が技術革新を主導するという官製イノベーションはむしろ逆効果になることすらある。政府はあくまでも競争環境の整備とか、イノベーションに妨げになるような諸々の規制の配慮とか、そういうことに動くべきではないだろうか。

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<山崎和邦の投機の流儀vol.541 10/16号>

第1部:当面の市況
(1)市況コメント
(2)日本市場に織り込まれていない短期的な材料は、NY大幅高or大幅安。
(4)年末までの大まかな見方
(5)日本国内の中長期債、海外勢は8年半ぶりの最大の売り越し。
(6)日銀の景況感
(7)鉱工業生産の9月・10月の見通しは上方修正
(8)「QUICK投資家心理指数は4ヶ月連続で弱気」
(9)ファンダメンタルを無視した相場操縦だけでは、円安は止められない。
(10)「悪い円安論」「良い円安論」
(11)円は12日に146円台後半を付けて、9月22日の為替介入時よりも安値を付けた
(12)日米金利差という為替相場のファンダメンタル要素の落ち着き所
(13)進む円安で、外国人労働者が減った。
(14)米中間選挙、有権者の関心度においてコロナ問題は15位で最下位
(15)個人資金が海外投信へ2.4兆円弱の流入

■ 第2部:中長期の見方
(1)岸田政権の支持率急落は無理もない。
(2)「アベノミクス離れ」ができない岸田政権の衰退
(3)委縮しつつある日本
(4)衰退中の日本を救うのは、新機軸しかない。
(5)プーチンの狡猾さ
(6)ウラジミール・プーチンの奇々怪々─そして誰も居なくなる。
(7)追いつめられたプーチン
(8)日米の金利政策
(9)「次の株価暴落を乗り切る投資法」
(10)「米国株の逆金融相場は年末まで」「激変した株式サイクル」
(11)「資産形成支援と所得格差拡大の二律背反は、避けて通れない。
(12)東電株の行方    

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image by:Frederic Muller / Shutterstock.com

山崎和邦 週報『投機の流儀』』(2022年10月16日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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大学院教授(金融論、日本経済特殊講義)は世を忍ぶ仮の姿。その実態は投資歴54年の現役投資家。前半は野村證券で投資家の資金運用。後半は、自己資金で金融資産を構築。さらに、現在は現役投資家、かつ「研究者」として大学院で講義。2007年7月24日「日本株は大天井」、2009年3月14日「買い方にとっては絶好のバーゲンセールになる」と予言。日経平均株価を18000円でピークと予想し、7000円で買い戻せと、見通すことができた秘密は? その答えは、このメルマガ「投機の流儀」を読めば分かります。

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