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「天皇制国家」と日本会議~現代日本人を虜にする国家神道的メンタリティ=高島康司

今回は、いま我が国で復活しつつある国家神道的なメンタリティと「日本会議」、自民党が推し進める改憲論の関係について詳しく解説する。最近では周知のことだが、安倍政権を支える中心的な政治勢力は、293名の国会議員と1000名の地方議員が参加する「日本会議」である。(未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ・高島康司)

自民党は「スピリチュアリズム」を武器に改憲に突き進む

「日本会議」と安倍政権の親密な関係

このメルマガの記事でも何度も書いてきたし、最近では周知になっていることだが、現在の安倍政権を支えている中心的な政治勢力は、293名の国会議員と1000名の地方議員が参加する「日本会議」である。

【関連】安倍政権の背後にある「日本会議」の知られざる実態と自民党=高島康司

「日本会議」は「日本を守る会」と「日本を守る国民会議」という2つの右翼系政治団体が1997年に合体してできた組織だ。神道系、仏教系、キリスト教系の宗教団体も加盟している。

組織の実質的な運営は、「生長の家」の創始者で天皇制国家の復活を掲げる谷口雅春氏の信奉者が結集する「日本青年協議会」が担っている。その総責任者の椛島有三氏が実質的な運営者だ。この会は1966年の「建国記念の日法制化」や1979年の「元号法制化」を実現させた長い草の根の政治活動歴がある。

日本会議が目指すもの

「日本会議」の公式サイトでは、「日本会議が目指すもの」として次のような目標を掲げている。

  1. 美しい伝統の国柄を明日の日本へ
  2. 新しい時代にふさわしい新憲法を
  3. 国の名誉と国民の命を守る政治を
  4. 日本の感性をはぐくむ教育の創造を
  5. 国の安全を高め世界への平和貢献を
  6. 共生共栄の心でむすぶ世界との友好を

一見するとほとんど当たり障りがない目標だが、「日本会議」の実質的な目標は、憲法改正による戦前に近い天皇制国家の復活である。結局「日本会議」とは、戦前回帰のナショナリズムを志向する団体であることは間違いない。

そして、このような組織の支配を受け入れるようになったのが、現在の自民党の特徴である。「自民党をぶっ壊す」をスローガンにして誕生した小泉政権は、構造改革の実行で自民党の選挙基盤を崩壊させてしまった。

その結果、「日本会議」が自民党の有力な支持基盤として登場した。現在の安倍首相は「天命を担った」存在として目されており、安倍政権の存続期間中になんとしてでも憲法改正を断行する意志を鮮明にしている。

こうしたことは、戦後日本の右翼の歴史とともに、第342回配信のメルマガ記事にも書いた。またその一部は、「マネーボイス」にも掲載されている。詳しく知りたい方はあわせて読んでほしい。

Next: 自民党「憲法改正草案」に滲み出る、現行憲法とは真逆の国家観



国民の権利より義務が優先の「憲法改正草案」

ところで、現在の自民党と「日本会議」が強く志向する憲法改正だが、改正の対象はよく議論になる9条だけではない。主権在民を骨子とした現在の憲法そのものの基本的な枠組みが改正の対象となっているのだ。

それは、自民党が公開している「憲法改正草案」を見ると明確だ。長くなるので詳述はしないが、草案の基本的な改正点は、国民の権利よりも、国家に対する国民の義務を優先させている点だ。

現行憲法では国家の権力から国民の権利を保護するために、国民に主権があることが明記されている。それに対して自民党草案では、国家に対する義務を果たすものにだけ権利を与えるとされており、国家の存在を国民の上に置くような明治憲法に近い規定になっている。

現行憲法とは根本的に異なる国家観

これは小さな違いではない。現行憲法と自民党における憲法改正草案では、国家に対する考え方が根本的に異なっているのだ。

現行憲法では国民が最高の主権者であり、国家は国民の権利を侵すことはできない。これはつまり、社会や国家というものは、基本的には国民という個々の人間によって構成されているという見方だ。これは欧米の憲法が広く共有している認識でもある。

他方、自民党の憲法草案は国家こそ神聖な存在であり、それは個々の国民の存在を超越しているという信念が基礎にある。つまり、国家は国民が存在する以前にすでにあり、国民とは関係のない独自の神聖な実態性を有しているということだ。

この2つは正反対の認識だ。主権在民の憲法では国家を構成している存在は国民であるので、国家の定義は明白だが、国家の国民を越えた神聖性を主張する自民党の憲法草案では、この神聖性を証明するなんらかのイデオロギーがどうしても必要になる。

明治憲法では、神の直系である天皇が統治する日本という記紀神話に基づく国家神道のイデオロギーであった。そして、神聖な日本に住まう日本人は、神の血が流れている天皇の赤子であった。

自民党の憲法草案では国家神道の言及はあえて避けているものの、万世一系の天皇が統治する神聖な国という信念は、安倍政権および「日本会議」では広く共有されていることは明白である。

だが、自民党の憲法草案の基盤にあるこうした考え方は、現在の日本人には到底受け入れられるものではない。

Next: 国民にとって受け入れがたい憲法改正を可能にするウルトラCとは?



国民にとって受け入れがたい憲法改正

戦前の明治憲法下の日本では、国家の神聖性の基盤となる記紀神話と国家神道は公教育で徹底して教えられていた。

そのため、国家に国民を越えた超越性があることは、なんら問題となることはなかった。

ところが、主権在民の戦後憲法下の日本では、記紀神話や国家神道を信じるのは特殊な宗教集団から政治集団に限られる。国民の存在を越えた国家の神聖性は、戦後70年間教育の対象から完全に排除されてきた。

そのような状況では、この認識が普通の国民にすんなりと受け入れられるとは到底考えることはできない。

ということは、憲法9条だけならいざしらず、安倍政権と「日本会議」が主張するような方向での戦後憲法の全面的な改正ということは、国家の神聖な実在性が基本的に拒絶されている現在、実質的には不可能と見たほうがよいだろう。

不可能を可能にする日本のスピリチュアリズム

だが、それを可能にする方法が存在する可能性がある。それは、現在ものすごく流行っている日本のスピリチュアリズムを利用し、国家の超越的な神聖性をまったく異なった角度から正当化する方法である。

周知のようにいまの日本では、占い、前世リーディング、予言、死者との交信、ソウルヒーリングなどスピリチュアル系が大流行している。

これらは60年代に始まったアメリカのニューエイジ系の文化に起源をもつが、日本で独自に発展した潮流となっている。これは、十数年前の「オーラの泉」というテレビ番組の大ヒットなどを通して、広く一般にも受け入れられるようになった。

いまでは、スピリチュアリズムにはまったく関心がないという日本人のほうが少数派になりつつあるといってもよいだろう。

この日本版スピリチュアリズムが、安倍政権や「日本会議」が希求する国家の神聖性の基盤を提供するように利用される可能性が大きいのである。

「自己救済」としてのスピリチュアリズム

それがどういうことなのか説明してみよう。

占いにしろ、ヒーリングにしろ、また前世カウンセリングにしろ、その目標となっているのは直接体験による自己救済である。「ハイアーセルフ」や「神」、また「宇宙人」のような高次元存在とつながり、それを直接体験しているヒーラーか、ないしはワークを通してそうした存在を体験した本人が、自分の生まれてきた目的や、いま悩んでいる問題への対処法を高次元存在からの啓示という形で得るのがスピリチュアリズムのもっとも一般的な手法だ。

これはスピリチュアリズムが日本でブームになり始めた30年前も、いまとさほど変わらない。しかし、いま顕著になっている特徴がある。過去のスピリチュアリズムでは啓示を受けるためにつながった高次元存在は、「ハイアーセルフ」や「神」、そして「宇宙人」など特定の民族や国家とは関係のない比較的に普遍的な対象が多かった。

それが近年、啓示を与える存在が、記紀神話に出てくる神道の神々であるケースが非常に多くなっているのだ。これらの日本の伝統的な神々は、これにつながった人間の口を通して個人の悩みに答えたり、またその人間の将来を予言したりする。

そして、そうした啓示には日本の未来についての内容も非常に多い。記紀神話に出てくる日本の古代の神々が実際に降臨し、国家と民族の未来に対する啓示を与えるというわけだ。

Next: 戦前の国家神道もスピリチュアリズムを基礎としていた



戦前の国家神道もスピリチュアリズムを基礎としていた

実は、戦前の日本の国家神道にも、記紀神話を通して日本古来の神々とつながり、これを直接体験するケースが非常に多かったのだ。戦前の日本特有のスピリチュアリズムである。

たとえば、1920年代に日本の神聖性を強く訴え、超国家主義を主導して後続の世代に大きな影響を与えた渥美勝という人物は、日本神話による自己救済という境地を開いたとされる。

渥美は記紀神話の意味を直観的に感じとることを通して、自分を神国日本の精神と同一化し、古代の神々を身近な存在として体験した。この体験から得られた啓示によって、自分の生きる意味を見いだした。

さらに、1932年に「血盟団事件」を引き起こし、大蔵大臣だった井上順之介や三井財閥総帥の団琢磨を暗殺した日蓮宗の僧侶、井上日召の神秘体験は壮絶だ。日召の自伝から引用する。

「最初にもちこんだ米がなくなると、草をたべて腹をみたし、坐りつづけて題目を唱え、唱えつづけて死のうと決心した。幾十日すると心身に異常をおぼえ、半ば発狂を呈した。くるわば狂えとなおも精進、ついに一道を見いだした。見るもの悉く大光明の世界」

「自分の暗殺は神秘的な暗殺である。目的を果した時に自分は始めて、自分と云ふ者を認め、団と云ふ者を認めた」

「一種不可思議な気持になって、突然ニッショウーと叫んだ。その後、お堂に入って、お題目を唱えていると、突然薄紫の、天地を貫ぬくような光明が、東の方からパッと通り過ぎた!すると、なんだかひとりで立上りたい気持になって、あたりを見渡すと、目につくものが、なにもかも、天地万物がことごとく一大歓喜している。

しかも、そのまま私自身なのだ、という感じがする。宇宙大自然は私自身だ、という一如の感じがする。『天地は一体である』『万物は同根である』という感じがひしひしと身に迫る。かつて覚えたこともない、異様な神秘な心境である!『妙だなあ』と思って、試みに、これまでの疑問を、今悟り得た境地に照らしながら、静かに繰返して考えて見ると、驚くべし、三十年間の疑問が、残らず氷解してしまったではないか!」

井上日召のこの体験も、神国日本の神聖な源泉である神々の生命力を直接体験し、それによって得られた啓示であるとも見ることができる。

明治末期から急に増えた記紀神話の神秘体験

このような神秘体験は、「日本改造法案大綱」を著し戦前の日本の右翼思想の骨格を形成した北一輝や、日米開戦を予言する著作を著し、満州事変を主導した石原莞爾のような超国家主義の大物も多く接していることは有名だ。

しかし当時、こうした神秘体験は決して特殊なものではなかった。明治の末期から、神秘体験は当時の青年層に比較的に広く広まっていたようだ。明治の末期は日本の産業革命が進展し、伝統的な農村共同体の解体が急速に進んだ時期だ。

この時期には農村から放逐された青年が都市にあふれ、スラム化していた。こうした人々は、所属する共同体が存在せず、生活が不安定で将来の見通しも立たない孤立した個人だった。

こうした青年層が引きつけられたのは、記紀神話による神秘体験だった。先に書いた渥美勝と同じように、記紀神話の直観的な読み取りを通して神国日本と自己同一化し、日本の神々と交信して自分の生きる意味を見い出す道だった。当時の日本にはこうした神秘体験をする人々が多く存在し、それらは生き方に迷った青年を多く引き寄せていた。

そうした日本独特のスピリチュアリズムは、関東大震災や度重なる恐慌で疲弊した昭和初期の日本ではさらに勢いを増していたと思われる。

Next: スピリチュアリズムを利用するであろう安倍政権と日本会議



では現代は?

もちろん、当時と現代とでは状況は根本的に異なっている。

しかし、バブルが崩壊して長期的な低迷期に入り、終身雇用制や年功序列などの伝統的な雇用環境が崩壊した90年代以降の日本でも、雇用の不安定な契約社員や派遣社員が激増し、所属する共同体のないネット難民化した人々が急増している。

そしていまの日本でも、そうした人々を強く引き付け、生きる目的を実感するひとつの手立てになっているのが、いまのスピリチュアリズムなのではないだろうか?神秘体験を通して神々とつながったカリスマの与える啓示や、または自分自身の神秘体験を通して神々の存在を実感し、自分という存在に新しい意味を与える方法だ。

スピリチュアリズムを利用するであろう安倍政権と日本会議

そしていま、このような日本版スピリチュアリズムがつながる先は、「ハイアーセルフ」や「高次元存在」のような普遍的な存在ではなく、日本の神々へと急速にシフトしている。

このシフトにともなって、日本を神国「ヤマト」として崇め奉り、その国の一員としての国民を神の子孫である天皇の「赤子」とする心的傾向がかなり強くなっている。

日本人は神の「赤子」なのだから、世界のどの民族からも隔絶した特殊な存在であるというわけだ。これが孤立し生き方に迷う人々のプライドの根拠となる。

さて、現在の安倍政権とその背後にいる「日本会議」は、憲法改正を急いでいる。それは戦争放棄をうたった9条の改正に限定されるものではない。個人の存在を国家に優先させた主権在民の現行憲法を、神聖な天皇制国家に国民を臣民として組み込む自民党憲法草案の方向での全面的な改憲を最終目標にしている。

しかし、先に書いたように、現代日本の市民社会は、国民を越えた国家の神聖性などという概念を受け入れる素地はほとんどない。いまだにこの概念は戦前の過去の遺物として見られている。

だがいま、古代の日本の神々とつながり啓示を得る方法がスピリチュアリズムの主流になりつつあるとき、天皇制国家の神聖性は自明のものになる。

その神聖性は、記紀神話を感じることを通して、直接的に体験できるものになりつつある。

おそらく憲法改正を急ぐ安倍政権と「日本会議」は、現代の日本のこうしたスピリチュアリズムを全面的に利用し、政権基盤の一部として取り込むことだろう。

Next: これは宗教の取り込みではない/7月参院選に立候補する「カリスマ」



これは宗教の取り込みではない

しかし、間違ってはならないのはこれは「宗教の取り込み」ではないということだ。「日本会議」には多くの宗教団体が結集しているので、右翼系の宗教団体の取り込みはすでに行われている。

スピリチュアリズムはいわゆる宗教団体ではない。神秘体験を信奉する膨大な数の人々が、組織されずに存在しているのである。その数は宗教団体を圧倒するはずだ。

いまからはじまるスピリチュアリズムの政治的な取り込みは、こうした層を対象にすることで、天皇制国家の神聖性を自明のこととして実感する人々を増やし、憲法改正の追い風にしてゆく可能性が大きい。

7月参院選に立候補する「カリスマ」

おそらく次の参議院選挙では、スピリチュアル界のカリスマ的な人物が立候補し、注目を集めることになるだろう。彼らは日本と日本民族の神聖性を強調し、スピリチュアルな啓示を与えることだろう。

もしこうしたことが起こるとするなら、それは歴史的な転換点にもなるはずだ。7月はすぐそこまで来ている。

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未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』(2016年5月6日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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