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難民鎖国に世界がドン引き。日本独特「避難民」という言葉で難民認定を回避…問題だらけの入管難民法改正案を国会に再提出へ=原彰宏

政府は2021年に廃案になった「入管難民法」改正案の骨格をそのままに、今国会に再び提出しました。世界的にも(悪い意味で)注目されているのが「補完的保護(準難民)」の新設です。ウクライナから逃げてきた人は「避難民」で、難民とは認めないということのようです。日本独特の屁理屈です。(『 らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2023年3月20日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

問題だらけの「入管難民法」改正案を国会に再び提出

2021年、強制退去を命じられた外国人の長期収容問題の解消を目的として提出された法案が、国内外の強い批判を浴びて廃案になりました。

それにも関わらず、なぜ廃案になった旧法案を骨格を維持したまま今国会で再び提出され、それが閣議決定することになったのでしょうか?

そもそも入管法とは「出入国管理及び難民認定法」と呼ばれる、日本に出入国するすべての人を対象とした、日本人を含む出入国の管理をはじめ外国人が日本に在留するための許可や資格、不法に入国した人への罰則、それに難民認定制度などを定めた法令のことです。

今回の改正案のポイントは、以下などになります。

・難民認定申請の回数を原則2回に制限
・収容に代え「監理人」の下での生活を認める「監理措置」の新設
・紛争地からの避難民対象の「補完的保護対象者」の新設

問題となっているのは「難民認定回数2回」という回数制限の部分と、「補完的保護対象者(準難民)」の新設にあります。

上記にある「監理措置」とは、入管施設の代わりに家族や弁護士など入管が指定した監理人の監督のもとで生活する新たな措置です。

おととしの改正案で監理人に義務付けた定期的な報告を、負担が重いという批判を受けて「必要のあるときに報告する」としたほか、3か月ごとに入管での収容を管理措置に移行できないか判断すると修正されました。

でも専門家の中では、そもそも“収容ありき”の制度になっていることが問題だと指摘する声もあります。

収容は、あくまでも逃亡や証拠隠滅のおそれがある場合に限られる例外的措置であるべきで、これだと一時的な収容を解く「仮放免制度」と変わらないと主張する専門家もいます。

世界的にも(悪い意味で)注目されているのが「補完的保護(準難民)」の新設です。

これは、難民条約上の難民には該当しないものの、他国での保護を必要とする人を保護するための仕組みのことで、命の危険や拷問、品位を傷つける取扱いなどを受けるという合理的な危険を有する人が、保護対象として挙げられます。

難民条約による保護を「補完」する枠組みとして、各国において、長年にわたって制度化・運用されてきました。いま現在、我が国にはない制度です。

難民条約上の難民に該当しない人が対象です。

ウクライナからの避難民は「難民」と認めない?

この「補完的保護」の制度は、入管庁としては「ウクライナからの避難民などいわゆる戦争避難民を受け入れるために必要な制度だ」と説明しています。

ん~ん、ウクライナからの避難民は「難民」じゃないの…?

どうやら日本では紛争から逃れて来たというだけでは難民と認定されないようです。「避難民」という言葉がありますが、これは日本独自の用語です。

じゃあ「避難民」は「難民」じゃあないの…?

Next: 世界でも異例「避難民」という言葉を作って区別する日本



世界でも異例「避難民」という言葉を作って区別する日本

そもそも難民条約において、難民とは「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」「人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由とする」「国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができない」等の要素に当てはまる者と定義されています。

この定義に当てはまらないが他国での保護を必要とする人が、補完的保護の対象となります。

補完的保護の対象は「難民ではないが保護すべき人たち」ということになり、その要件として最低でも「恣意的な生命の剥奪、拷問、非人道的もしくは品位を傷つける取り扱いまたは刑罰、無差別暴力による生命、身体の安全又は自由への重大な脅威」を受けるという「合理的な危険を有する者」が保護対象となります。

※参考:補完的保護とは何か? – 認定NPO法人 難民支援協会(2023年1月23日配信)

で、日本独特の「避難民」はどうなるでしょう。

日本においては、保護の拠り所となる条約や法律がない「避難民」という用語を用いることで、どのような地位や権利が保障されるかが曖昧であることや、長期的な滞在を前提としない対応がとられることが懸念されます。

「避難民」は「難民」ではないので「補完的保護」対象者ということですか。

いや、そもそもウクライナから避難してきた人は「難民」じゃないのですか。よくわかりませんね。

日本の難民認定率は「たった0.3%」

「補完的保護」制度新設の前に、難民条約上の難民は、きちんと難民認定して保護すべきです。諸外国のように紛争地域から逃れて来た人も難民として認めるべきだという指摘もありますね。

よく言われる、日本の難民認定率は「たった0.3%」だとのことです。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の2021年発表によると、世界では8,930万人が故郷を後にしなければならず、他国や他地域への移動を強いられています。

2021年の統計によると世界の難民のうち日本の難民認定申請者数は2,413人でした。これら大勢の難民認定申請者数のうち、実際に日本で難民認定を受けることができた人は74人となり、認定率は0.3%なのです。

国際社会の一員として、この数字、日本人として恥ずかしくはないですか…。

Next: 「難民認定申請を原則2回に制限」の影響は?日本は“難民鎖国”…



さらに認定が減る?「難民認定申請の回数を原則2回に制限」

この状況を踏まえて、もう1つの改正点「難民認定申請の回数を原則2回に制限」を、どう考えたら良いのでしょうか。

難民申請の厳格化……世界ではそう受け取られています。これは、大きな反発が上がっている難民申請中の送還を可能にする規定と言わざるを得ません。

入管は申請の濫用を防ぐためとしていますが、申請中の人を迫害のおそれがある本国に送還するのは難民条約違反だと国連も指摘しています。犯罪歴を理由に難民かどうかの審査を行わず送還することにも批判が強まっています。

さらに祖国に戻れば命が危ういという人が少なくないだけに、罰則を強化しても送還を拒む人はなくならないのではないでしょうか。

入管庁は、退去強制の対象者は犯罪歴のある人が多いと主張しています。しかし、刑事事件を起こしたことが理由で在留資格を失った人は全体のわずか3%にすぎず、専門家は偏見を助長すると異議を唱えています。

出典:入管法改正 十分な審議を NHK解説委員室(2023年3月14日配信)

「難民鎖国」と呼ばれる日本…。

NHK「入管法解説」記事にはこうあります。

入管庁は、在留資格のないいわゆるオーバーステイなどを理由に退去を命じられた外国人を速やかに送還するため法改正をめざしてきました。しかしおととし改正案が提出された後、名古屋入管で収容中のスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんが医療体制の不備により死亡したのを機に、入管への批判が強まり国会での法案採決が見送られ、去年は再提出に至りませんでした。こうした経緯を経て再び改正案が提出されたわけですが、その内容は大筋で変わらずこの数年間で浮き彫りになった様々な問題点が解消されているようには思えません。

出典:同上

また琉球新報社説では、このような意見が書かれています。

難民申請中は強制送還が停止されるため、収容者が申請を繰り返し、収容が長期化するというのが政府の主張だ。しかし、複数回の申請で認定される事例、人道的配慮によって在留を許可される事例がある。回数制限は送還すべきでない人を送還する危険がある。難民認定の質を向上させる方が先ではないか。

出典:<社説>入管法改正案再提出 反省なき改悪でしかない – 琉球新報デジタル|沖縄のニュース速報・情報サイト(2023年3月16日配信)

「15年、20年、30年もの間、難民申請を続けている人々の権利を認める法であってほしい」東京新聞の記事では、このようにトルコ国籍のクルド人男性の声を載せています。

出入国在留管理庁はホームページでは、法改正の必要性として、退去を拒む外国人の増加、収容の長期化、仮放免者の逃亡の増加などを挙げています。

政府側に立って表現すると、改正の考え方として“保護すべき者を確実に保護する”上で、“在留が認められない外国人は速やかに退去させる”とし、退去までの間も、“不必要な収容はせず、収容する場合には適正な処遇を実施する”もの……となるようです。

う〜ん、申請回数制限においても「申請の乱用があるとみているため(法務省)」としています。

本当にこれで良いのですか。これで国際国の一員として、日本は認められるのでしょうか。なにより、本当に世界に対して、恥ずかしくはないのでしょうか…。

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