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物流危機「2024年問題」の元凶は過剰サービス。送料無料・即日配送で疲弊する運転手たち=原彰宏

物流業界の危機「2024年問題」が話題になっています。働き改革による運転手不足のほか、店舗側の配送料無料・即日配送など「過剰サービス」も重なって、あらゆる荷物が届かない…という事態が現実に起きようとしています。(『 らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2023年4月24日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

物流の「2024年問題」

働き方改革を目的とした改正労働基準法の施行により、2024年4月からトラック運転手の時間外労働に年960時間の上限が課され、年間拘束時間は現行の3,516時間から原則3,300時間へと厳格化されことになりました。

それにより、運転手の労働環境改善が期待される一方で、1人の運転手が1日で運べる荷物量が減るため、人手不足が深刻化して物流が滞るリスクが指摘されています。

人件費増加で中小事業者の利益が圧迫される懸念もあり、輸送効率向上や運賃へのコスト転嫁などが課題となっています。

物流業界では、慢性化している運転手不足がさらに深刻となり、各地で荷物が運べなくなる事態が懸念されています。

野村総合研究所は、この問題により2030年に予想される国内の荷物量のうち35%が運べなくなる可能性があると試算しています。

ラストワンマイル……物流におけるラストワンマイルとは、最終拠点からエンドユーザーへの物流サービスのことを表現したもので、「最後の1マイル」という距離的な意味だけではありません。

お客様へ商品を届ける物流の「最後の区間」のことを「ラストワンマイル」と表現しています。

EC(ネット通販)の普及で、人々の買い物スタイルが、お店に足を運ぶのではなく、PC画面上でマウスをクリックすることで買い物を楽しむスタイルに変わってきています。

人々の買い物のあり方が大きく変わるなかで、物流市場への参入事業者が年々増加していて、他社との差別化を図るために「送料無料」「当日配送」などに取り組む事業者が多く出てきました。

それまで拠点を集約し、配送の部分を宅配業者に委託する形で物流を構築していたものを、よりエンドユーザーに近い場所に配送拠点を設けることで、ラストワンマイルを縮めてサービス強化する動きが活発化してきました。

しかもドライバーの努力によるもので、価格転嫁ができないものです。まさに「サービス合戦」ですね。

全国対応、当日配送、翌日配送サービス…。

ところが、これらのサービスが、今後は継続できないかもしれないという「物流の危機」が訪れようとしています。

「宅配業者への配送料金が見合っていない」「年々増加し続ける宅配貨物の物量」「再配達による業務効率の低迷」など、ECの拡大によって宅配サービスの取扱量が急増しているなかでの、ラストワンマイルの物流サービスのあり方が考えられる時期にきているところに、この「物流の2024年問題」がのしかかってきているのです。

Next: 人手不足は当然?送料無料・即日配送は「過剰サービス」だったかも



過剰サービスだった?

労働人口の減少や作業内容等の物流労働環境の問題により、物流の担い手が年々減っているなかで「働き方改革」が進められているのはよくわかります。

・トラック運転手の時間外労働に「年960時間の上限」設定
・年間拘束時間が、現行の3516時間から原則3300時間へと厳格化

これらを守るということは、1日に運べる量は減少し、即日配達とか翌日配達などの、今までのサービス提供が困難になると指摘されています。

たしかに、健康被害や過労死、人で確保にとっても悪いイメージとなる長時間労働の実態是正は重要です。過労が事故につながることもありますからね。

翌日配達だけでなく、即日配達は顧客にとって本当に必要なのかという「過剰サービス合戦」のあり方も見直すべき時なのかもしれません。

そういった今までの“あたりまえ”となった風潮の見直しも、場合によっては必要かもしれませんね。

ドライバーの収入減も問題に

この残業制限などは、ドライバー側からは“収入が減る”ことを懸念する声も出ています。

ただでさえ、消費者価格を抑えるために中間コストを下げる動きがあり、トラックドライバーの報酬も上げづらい状況にはあります。

燃料費高騰などのコスト増も重なり、物流業界の経営環境は厳しさを増しています。個人事業のドライバーは、実際の手取り額を削っている状況です。トラックを動かすだけでも、様々な経費がかかりますからね。

荷主が運賃を上げることで今までの収益を確保して、ドライバーの収入が減らないようにして欲しいという声もあります。

特に危惧されているのはトラック輸送の下請けを担う数多くの中小企業へのしわ寄せです。日本の場合、トラック運送事業者の99%超を中小が占めているのですからね。

業務が大変な割には儲けが少ないと、ドライバーの“成り手”が減っていきます。そうなると、ものが運べなくなるのです。

企業側も対策しているが…

人手不足対策として物流網維持のためには、
・料金割増し
・運送頻度低下
・輸送の効率化(ダブル連結トラック活用)
・トラック輸送から船や鉄道に転換
・複数の会社での共同輸送
など、様々なことが試みられています。

また、再配達の多さや荷受け・荷降ろし時の待ち時間の長さも長時間労働を招く要因となっています。

荷主企業に対して国が、待ち時間削減などの物流改善計画の提出を義務付けることも検討しているようです。駅や商業施設で好きな時間に荷物を受け取れる宅配ロッカーの設置スマホなどで利用者が配送場所や日時を手軽に変更できるサービスも提供し再配達を回避する…などなど、企業側も変わってきています。

ローソンは、これまで1日3回コンビニエンスストアへ配送を行なっていたチルド・定温商品について、2回に削減することで、コスト抑制とCO2排出量の削減を行なうとしています。

これも2024年4月に施行される働き方改革関連法に向けての取り組みになります。

元々コンビニエンスストアへの配送業務は長時間拘束になりやすい配送体制で、新しい基準を満たすために、現状の配送スケジュールを実現するには、配送車と配送ドライバーの追加が必要となり、年間約20億円のコスト増が見込まれるそうです。

このため、配送スケジュールを見直すことで、コストを抑えようとしているのです。

Next: モノが届かなくなる?2024年には社会のあり方が大きく変わる可能性



自動運転トラックやドローンが活躍する時代へ

2024年問題は、社会のあり方そのものを問うているのかもしれません。

私たち消費者側の意識の変革も必要ですが、なぜ賃金が上がらないのかという根本の問題や、なぜ消費者価格が値上げできないのかというマインドの問題も絡んでいるのでしょう。

なにか、いろんなものをリセットすべきところがあるように思います。ロジスティックな世界にこそ、テクノロジーの普及が必要なような気がします。

自動運転技術が日本の物流を支える……「デジタル田園都市国家構想実現会議」では、物流の人手不足や過疎地の交通網の衰退に対応するため、政府は自動運転や配送用ドローンを本格的に普及させるための検討方針をまとめました。

2024年度をめどに、新東名高速道路の駿河湾沼津サービスエリア(SA)~浜松SAの約120キロの区間で、深夜帯に自動運転のトラックが走行できるレーンを設置するとしています。路肩などにセンサーやカメラを設置して落下物や障害物を監視し、安全に止まったり避けたりできるようにするようです。

今年4月の改正道路交通法の施行で解禁される、特定条件下での無人運転ができる自動運転の「レベル4」での走行も想定しています。2027年度には自動運転の車が走れる区間を全国100カ所に増やす目標だそうですよ。

目視外で飛ぶドローンを使った配送ルートも開拓します。2024年度をめどに埼玉県秩父市を中心に約150キロのルートを設定し、実際に荷物を運ぶドローンを飛ばす構想があるようです。

電力会社の送電網をはうようにルートをつくることで、中山間地で荷物を運ぶほか、電線の点検やドローンの充電もできるようにするとのことで、将来は4万キロ超のルートの整備を目指すようです。

テクノロジーが物流の未来を変えるときは、もうすぐ目の前ですかね…。

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らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』(2023年4月24日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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