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日銀、保有国債17年ぶり評価損1571億円は債務超過の前兆か?「心配無用」と言えるワケ=塚崎公義

日本銀行は2022年度の決算を発表し、保有する国債で1,571億円の評価損が生じたことを明らかにしました。評価損が出たのは2006年以来の17年ぶり。今後さらに長期金利が上昇して国債価格が下落すれば、日銀が債務超過に陥るとの懸念の声も聞かれます。本当に債務超過に陥るリスクはあるのでしょうか?筆者は「心配は不要」と考えています。(経済評論家 塚崎公義)

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プロフィール:塚崎公義(つかさき きみよし)
経済評論家、元大学教授。東京大学法学部卒。日本興業銀行(現みずほ銀行)、久留米大学商学部教授を経て2022年に定年退職。現在は経済評論家として執筆活動を行う。著書に『よくわかる日本経済入門』『大学の常識は、世間の非常識』『老後破産しないためのお金の教科書』など。

国債の価格下落で日銀が債務超過に?

昨年末、日銀の姿勢の変化によって長期金利が上がりました。上昇幅はわずかでしたが、今後もインフレが続くようならば、日銀が金融政策を変更して長期金利がさらに上がるかも知れません。植田日銀総裁が引き上げに動くと考えている専門家も多いようです。

長期金利が上がれば、長期国債の価格が下落します(前回の拙稿をご参照)。日銀は巨額の長期国債を保有している一方で、純資産は小さいため、国債の価格下落で債務超過に陥るのではと心配している人も多いようです。

実際には日銀は保有国債を時価評価せず、取得価格で決算書に載せるでしょうから、今期末で日銀が債務超過に陥ることは無いと思いますが、人々が「日銀が保有国債を時価評価すれば債務超過のはずだ」と考えるようでは、日銀に対する信頼感が薄れてしまう、と心配している人も多いようです。

満期まで持てば問題無いと言えるか?

日銀としては、保有国債を途中で売却することは考えておらず、満期まで持つつもりなのかも知れません。そうであれば、満期には額面で償還されるでしょうから、今の時価を気にする必要は無いのかも知れません。

もっとも、今後の短期金利の予想値については気にする必要があるでしょう。保有国債が満期になるまで短期金利がゼロのままならば問題ないのですが、短期金利が上がると面倒なことになるからです。

日銀が金融政策を変更して、銀行間貸借の金利を1%に変更するとします。

資金の足りない銀行は、他行から借りるより日銀から準備預金を引き出そうとするでしょうし、そうでない銀行も準備預金を引き出して他行に貸し出して金利を稼ごうとするでしょう。

準備預金の引き出しに対して紙幣を印刷して応じるならば、世の中に紙幣が出回りすぎてインフレになりかねません。また、保有国債の売却で応じようとするならば、国債価格が暴落して経済が混乱しかねません。

したがって、日銀としては銀行が準備預金を引き出さないように誘導する必要があり、そのためには準備預金に1%の金利を払う必要が出てくるわけです。日銀の資産は金利ゼロの長期国債で、負債に1%の金利を払えば、日銀は赤字になり、債務超過に陥りかねません。

今後も日銀は長期国債の購入を続けるでしょうから、それらがすべて満期を迎えて償還されるまで短期金利がゼロを続けなければならないわけで、それを考えると日銀が債務超過に陥るリスクは決して小さく無いように思われます。

Next: 心配ご無用?本当に債務超過になったら政府が埋める



本当に債務超過になったら政府が埋める

しかし、日銀が債務超過に陥ったら直ちに困ったことが起きる……というわけではなさそうです。

民間企業が債務超過に陥れば、借金が返せなくなるので倒産でしょうが、日銀が借金を返せなくなることはありません。日銀の主な借金は銀行の準備預金ですから、紙幣を印刷して払い出しに応じれば良いからです。

それ以前に、日銀が債務超過に陥っても、銀行が落ち着いて何もしなければ、何も起きません。焦って準備預金を引き出す銀行も皆無とは言えませんが、あまり意味のある行動とは思えません。その銀行が手にするのは日銀券ですから(笑)。

もちろん、多くの銀行が一斉に準備預金を引き出す可能性も皆無ではありませんし、その場合に紙幣を印刷して払い戻しに応じると、ハイパーインフレを招きかねません。そうでなくても投資家が動揺して株を売ったり円資産をドル資産に移したりすれば、市場が混乱する可能性もあるでしょう。

そうなっても、心配は不要です。

政府が日銀の増資を引き受ければ良いのです。日銀が10兆円の債務超過に陥ったとして、政府が10兆円の国債を発行して日銀の新株を引き受ければ良いだけです。

日銀は債務超過が消えて健全になるでしょう。政府の借金は1,270兆円から1,280兆円に増えますが、誤差の範囲ですね。

赤字になっても、いずれは黒字に戻る

ここで理解しておきたいのは、日銀の赤字は永遠に続くわけではなく、しばらくすれば黒字を回復する、ということです。それなら、政府は日銀に出資した10兆円を将来的に回収する事が出来るでしょう。優先株を買い戻させても良いですし、配当させても良いですし、日銀納付金で吸い上げても良いでしょう。

日銀は、利上げ初年度は巨額の準備預金に金利を払う必要がありますが、翌年は保有国債の一部が満期で償還され、その分だけ準備預金が減るでしょうし、その後も準備預金は減り続けるでしょう。

あるいは、準備預金は減らずに日銀が新たな国債を買うかも知れませんが、短期金利がプラスになってから新たに買う国債は利子付きでしょうから、逆ザヤは生じないはずですね。

そして、日銀は紙幣を印刷して国債を購入した分については、金利収入が得られる一方で金利を支払う必要が無いので、その分だけ黒字になる、というわけです。

Next: 政府の借金が増え続けても問題ナシ?円の価値が暴落するとすれば…



円の価値が暴落するとすれば、原因は「政府の債務」

円の価値が暴落する可能性は、皆無ではないでしょうが、それは日銀が債務超過に陥ったことを原因とするのではなく、政府の債務が巨額であることから日本政府が破産すると人々が考えることによるものでしょう。

今まで政府の借金が膨らみ続けても何も起きなかったのだから、今後も何も起きないだろう、と筆者は期待していますが、そこは「神のみぞ知る」ですね。

もっとも、仮にそうした事態に陥っても、実際に日本政府が破産することはないだろう、と筆者は考えています。その場合には国債が暴落し、円が暴落することになるはずです。そうなれば、日本政府が持っている巨額のドルが高く売れることになるからですが、そのあたりの話は別の機会に。

(筆者注:本稿は厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。)

image by: Leonid Andronov / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2023年5月31日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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