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なぜ金価格「史上最高値」更新?国家も個人投資家もこぞって買う事情。今から投資するのはアリかナシか。投資手法と注意点も=岩崎博充

金(ゴールド)の国内価格は6月17日、1g=9,876円(田中貴金属工業調べ、店頭小売価格)と史上最高値を更新した。本来、金は保有しているだけでは、利息や配当といったインカムゲインが一切つかない投資商品だが、欧米の中央銀行による金利引上げにもかかわらず高騰を続けている。ロシアによるウクライナ侵攻といった地政学リスクが勃発して以来、「有事の金買い」が機能しているとも言えるが、それだけで現在の金価格高騰の背景を説明できない。金価格は、世界が大きな変革を迎えている時代には注目されることが多いが、これまで戦争勃発ぐらいではほとんど動かないケースが数多くあった。しかし、今回のロシア・ウクライナ戦争で金価格は大きく値を上げた。なぜ、金価格は高騰を続けているのか……。その背景と金価格の市場メカニズムを検証してみよう。(岩崎博充)

プロフィール:岩崎博充(いわさき ひろみつ)
経済ジャーナリスト、雑誌編集者等を経て1980年に独立。以後、フリーのジャーナリストとして主として金融、経済をテーマに執筆。著書に『「年金20万・貯金1000万」でどう生きるか – 60歳からのマネー防衛術』(ワニブックスPLUS新書)、『トランプ政権でこうなる!日本経済』(あさ出版)ほか多数

背景には「基軸通貨」への挑戦か

金(ゴールド)価格の高騰が続いている。米ドル建ての国際価格は1トロイオンスあたり2,000ドルの大台を超えて、5月4日には2055.7ドル(NY金先物価格)と史上最高値(2069.4ドル、2020年8月)の史上最高値に迫った。シリコンバレー銀行(SVB)、シグネチャー銀行、クレディ・スイスといった欧米の銀行の経営破綻を機に、金価格の上昇トレンドは大きくステージを変えたと言っていい。

国際価格と同時に国内価格も上昇の一途をたどっている。この6月17日には1g=9,876円(田中貴金属工業調べ、店頭小売価格)と史上最高値を更新。「1g1万円」の大台突破も視野に入ってきた。

金先物/COMEX 週足(SBI証券提供)

今回、金価格が急騰した大きなきっかけとなったのは、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻と言っていいだろう。エネルギーや食料の限られた資源の獲得競争から価格が高騰。

世界的にインフレが拡大し、さらに欧米で起きた金融システム不安がきっかけとなった。金価格が上昇する要因が立て続けに、短期間で起きたことが大きな原因となった。

もともと金価格が上下する要因とは何か。簡単に整理すると、いくつかポイントがある。

1. 戦争や紛争など「有事」の際の資産防衛法としての変動要因(地政学リスク)
2. 政府の買い入れや投機マネーによる変動要因(需給バランス)
3. 平均株価や金利の変動による変動要因(マーケットリスク)
4. 為替変動による変動要因(為替変動リスク)

今回の金価格高騰は、これらの要因がすべて複合的にかかわっていると言っていいかもしれない。たとえば、地政学リスクではロシア-ウクライナ戦争が大きなきっかけとなり、インフレをもたらしたことで金が買われた。さらに、これまで世界中の紛争を演出してきたロシアが弱体化し、スーダンなどの地域紛争も活発になった。地政学リスクの高まりが、現在の金価格高騰の背景にあるのは間違いないだろう。

最大の要因は「経済制裁」への備え?

地政学リスクの上昇とともに、今回の金価格高騰で注目されているのが、2022年1年間の金保有に関するデータだ。まずは金にまつわるあるランキングを見ていただきたい(2023年3月末、データ出所:ワールド・ゴールド・カウンシル、以下WGC)。

1. トルコ……+140.88トン
2. 中国……+120.06トン
3. シンガポール……+68.67トン
4. ウズベキスタン……+43.86トン
5. カタール……+40.49トン
6. インド……+34.22トン
7. イラク……+33.90トン
8. ロシア……+27.99トン

このランキングは、「世界の中央銀行・公的機関が2022年3月末までに金保有数量を増やした量(前年比)」のベスト8を示したものだ。ランキング上位の国名を見て気が付くと思うが、いずれも米国を中心とする西側諸国とは距離を置く国が多い。要するに、米国などから「経済制裁」を受けた時の防衛策として、外貨準備補強のために金の保有量を増やしたと考えられる。経済制裁を受けて、外貨(米ドル)不足に陥った局面に備えて、普遍の価値を持つ金を購入したわけだ。

これが、2022年の継続的な金価格高騰の背景のひとつと言っていいだろう。

Next: 2022年の金需要は18%増!国家も個人投資家も危機に備えている



日本以外のG7は着々と金を増やしている

2022年は、周知のようにFRB(米連邦準備制度理事会)を中心に、インフレ政策の一環として金利を大きく引き上げる「金融引き締め政策」がとられた。本来であれば、利息も配当もつかない金の価格は、金利上昇とともに下落するのが市場のメカニズムだが、ロシアが経済制裁を受けて原油や天然ガスの米ドル決済を禁止されたことから、ロシアの支援に動くトルコや中国、ウズベキスタン、インドが金買いに動いたとみられる。

ちなみに、金の保有量ランキングでは次のようになる(資料:WGC)。

1. 米国……8,133トン(外貨準備に占める割合:68.7%)
2. ドイツ……3,354トン(同68.2%)
3. IMF(国際通貨基金)……2,814トン
4. イタリア……2,451トン(同65.4%)
5. フランス……2,436トン(同67.0%)
9. 日本……845トン(同4.3%)

こうしてみると、日本を除くG7諸国の外貨準備に占める金の保有量が、非常に大きいことがわかる。その点、ロシア(6位、2,326トン、24.9%)や中国(7位、2,068トン、3.9%)は少ない。今後も、ロシアや中国が「米ドルを基軸通貨としない世界のシステムづくり」に挑戦するとすれば、まだまだ金は買われる可能性が高いと言っていい。

日本の外貨準備高はざっと22年9月末で1兆2,380億ドルで世界第2位。他のG7諸国の4~13倍もあるが、その大半が米ドルで、財務省所轄の「外国為替資金特別会計(外為特会)」にその大部分が保管されている。将来的に、日本円が暴落したときに円を買い支えるために準備されていると言われる。

莫大な財政赤字を抱える日本政府が発行する「円の紙幣」に対して、少なからぬ不安を抱いている人は、やはり将来的な円の暴落に備えて、たとえば金などに投資しておくのもひとつの方法というわけだ。

個人投資家のインフレ対応で2022年の金需要は18%増!

2022年は、金が世界の中央銀行や政府に買い上げられたことで、その価格は大きく上昇したのだが、実はそれだけではない。個人投資家による金需要も大きかったようだ。WGCのデータによると、2022年の金の総需要は4740.7トン、前年比18%と大幅に増加したことが分かった。

近年、金の供給量はトップの中国が生産量を増やし続けてきたこともあり、全体的に増え続けてきた。WGCのデータによると、ここ10年は年間3,400トンの金を世界中で産出しており需給のバランスがとれていたのだが、2020年のコロナ以降、金の生産量は頭打ちになっていると言われる。現在は金の需要が供給を上回っている状態と言っていい。

2022年以降は、世界的にインフレが進行。価値が目減りしにくく、インフレに強い金が世界中で買われた。とりわけ、中央銀行や公的機関による金の購入は2.5倍に増加。中央銀行の金準備100トン当たりで、金の国際価格は1トロイオンス当たり40ドル程度の上昇圧力になると報道されている(日経新聞、2月18日朝刊)。

加えて、インフレや地政学リスクの高まりなどから個人による金投資も増えており、2022年
は金地金や金貨といった個人投資家が投資するタイプの金投資でも、1,217.1トン(資料:WGC)、前年比で2%増えているそうだ。インフレの進行で紙幣に対する信頼感の喪失から個人投資家の金需要が増えた、ということだろう。

そして、もう1つ忘れてならないのは為替の影響だ。周知のように、ドル円レートは瞬間的に1ドル=150円台を付けるなど円安が進んだ。金価格は、米ドル建ての国際価格と円ベースの国内価格で形成されているが、急速な円安を追い風に金価格は急騰した。

たとえば、1ドル=115.86円だった2022年1月の国内金価格は平均で1g=6,755円(田中貴金属工業調べ)、一方の国際価格は1トロイオンス=1,816.77ドル。2023年4月の金価格は1g=8,620円(同、1ドル=134.40円)、国際価格は1トロイオンス=2,000.42ドルだった。米ドル建てでは10.1%の上昇となったが、国内価格では27.6%も上昇したことになる。

Next: 戦争・インフレ・金利……不安定な時代にこそ輝く金価格の今後は?



戦争・インフレ・金利……不安定な時代にこそ輝く金価格の今後は?

問題は、史上最高値を更新した金価格が、今後どんな動きになっていくかだ。2022年の金融マーケットは、株式市場や債券市場、そして暗号通貨に至るまで、近年まれに見る下落相場に終わった。とりわけ、暗号通貨は価格が半分以下にまで下落し、米国のナスダック市場も大きく下げた。その点、金はほぼ横ばいをキープし、欧米の金融不安などを機に、再び史上最高値を更新するレベルにまで上昇している。

現在(6月28日現在)、金価格は1,920ドル台に落ち着いているが、今後の展開次第では、さらに金価格が上昇する可能性がある。もともと金価格は長期に渡って価格が低迷していた時代もあり、金投資の基本は長期運用と言われてきた。しかし、現在のように戦争やインフレ、パンデミックといった不安定な時代には、金の長期的な価格上昇が望める可能性が高い。株式市場や債券、暗号通貨などが最悪な状況になっても、金価格はさほど大きく下落しない……。それが現在の金投資の共通の認識になりつつある。

理想は現物の積立だが、現物保有やETF投資も……

不安定な時代の中で、人々の関心はいかに自分の資産を守ればいいのかに集中してくる。そこで金投資が注目を浴びてくるのだが、注意したいのは比較的安心感のある金に自分の資産をどんどんシフトしていこうと考える人がいることだ。金投資は、現時点では確かに魅力ある金融資産のひとつだが、あくまでも全資産の10~30%の範囲内に抑えるのがセオリーと言われている。億単位の潤沢な資金を持っている人なら3割程度まで金を保有しても問題はないが、通常はせいぜい10%程度と考えるべきだろう。

金投資にはメリットもあればデメリットもある。金は世界で価値が統一されているために、いわゆる「ソブリンリスク」がなく、国家間の紛争や通貨の変動に強い。さらに希少金属のひとつ
であり、産出量などに限界があり、紙幣や暗号通貨のように、ただの紙くずや無価値にはならない。

しかしその反面で、預貯金や株式と異なり利息や配当を産まないために、保有しているだけでは1円の得にもならない。さらに、日本の場合は為替の影響を受けるため、円高時には損失を出すことになる。そうした現実を踏まえて、昔から金は「基本は長期投資」と言われてきた。これから投資するのであれば、それなりの覚悟が必要だということだ。

その金投資には、次のような投資法がある。簡単に紹介しておくと――

<純金積立>

文字通り金を少額ずつ積み立てていく方法で、ドルコスト平均法で長期にわたって積み立てていく方法。純金だけではなく、最近では金価格に連動するETF(上場投資信託)を使って積み立てていく方法もある。ただ、金投資にはどうしても売買に手数料や税金がかかる。そうしたコストを考慮に入れるべきだ。

<スポット投資>

金価格が大きく下落したときに、まとめて投資する方法。現物投資でもいいが、現物投資に比べて手数料などコストの面でETFのほうが気軽に投資できそうだ。

<金関連株投資>

金鉱山などを保有している銘柄の株式に投資する方法……住友金属鉱山(5713)などに代表される金鉱山を保有する銘柄に投資する方法だ。株式市場全体が下落しても、金関連銘柄は、市場全体とは逆に動く場合もある。株式投資のリスクヘッジとしての機能もありそうだ。

今後、金価格がさらなる高値をチャレンジするチャンスはいろいろありそうだ。「ウクライナ戦争の状況悪化」「資源価格高騰によるインフレの悪化」「金利のさらなる上昇」「日本円や日本国債の暴落」といったことが直近で考えられる。その反面で、これらの問題が解決していくたびに、金価格は下落する可能性がある。いずれにしても、金投資で短期間によるリターンを狙うことはやめたほうがよさそうだ。

image by: RomanR / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2023年6月28日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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