今回は「インボイスから始まる“大増税時代”の幕開け」特集をお送りします。副業や個人事業主にとっては逆風ともいうべき、消費税のインボイス制度(適格請求書)が、2023年10月1日より始まりました。導入から1ヶ月、現場の混乱はいかほどか?個人事業者はどう対処すべきか。よこた税理士事務所代表の横田秀作さんに詳しくお伺いしました。( 俣野成敏の『サラリーマンを「副業」にしよう』実践編 俣野成敏の『サラリーマンを「副業」にしよう』実践編 )
※本記事は有料メルマガ『俣野成敏の『サラリーマンを「副業」にしよう』実践編』2023年11月5日号の一部抜粋です。続編にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:俣野成敏(またのなるとし)
リストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳で東証一部上場グループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。2012年独立。フランチャイズオーナーや投資家として活動。サラリーマン時代に副業で出版した『プロフェッショナルサラリーマン』でビジネス書作家デビュー。「仕事術」「お金」「コンディション」「副業」などテーマは多岐にわたり、異分野で10万部超えを3度達成。著者累計は49万部。これからは、サラリーマンでも副業やお金の知識向上が不可欠と実感し、啓蒙に尽力している。ビジネス誌やwebメディア掲載実績多数。『まぐまぐ大賞』を7年連続受賞。
インボイスから始まる“大増税時代”の幕開け
今回は「インボイスから始まる“大増税時代”の幕開け」特集をお送りします。
副業や個人事業主にとっては逆風ともいうべき、消費税のインボイス制度(適格請求書)が、2023年10月1日より始まりました。
9月末には、個人事業主などから集められた54万筆にも上る反対署名が、岸田首相の秘書を通じて提出されましたが、彼らの悲痛な叫びが聞き入れられることはありませんでした。
今回は、よこた税理士事務所代表の横田秀作さんをゲストとしてお迎えしています。インボイス制度導入後の現場の様子や、副業をしている人々は今後、どのような対応をしていけばいいのかなどについて、横田さんに詳しくお伺いしたいと思います(本特集は、会話形式でお送りします)。
プロフィール:横田秀作(よこたしゅうさく)
神戸大学大学院機械工学専攻修了後、富士ゼロックス(株)に入社。光学部品の技術開発とハード設計に従事し、社長賞を2度受賞。モノづくりを通したコスト感覚を活かしてコンサル型税理士を志し、退職2年後に税理士試験に合格。法律と経営に精通するため、MBAを取得しながら実務経験を積む。現在、よこた税理士事務所代表として、製造業・医業を中心に税務をサポート。その傍ら、企業の経営者向け節税セミナーや副業サラリーマン向けの節税セミナーなどを実施している。
※本記事は、横田さんへの取材をもとに、筆者(俣野)が適宜内容を補って執筆しています。
「現場はどうなっている?」インボイス制度導入後の状況
俣野:インボイス制度が始まりましたが、状況はいかがでしょうか。
横田:現場は、かなり混乱しています。
免税事業者に限らず、課税事業者にとっても、インボイス処理に関しては不明点が多く、対応に苦慮しています。細かい点になると、税理士でも判断が難しい場合があります。
そもそも事業者は、消費者から預かった消費税を、国に納税する義務があります。これまでは、年間売り上げが1,000万円以下の事業者に関しては、免税事業者として、消費税の納税が免除されてきました。
しかし今後は、課税事業者が発行したインボイス番号が付与された請求書しか、税務署で認められなくなります。免税事業者がインボイス番号を取得するには、課税事業者になる必要があり、そうなれば消費税を納めなければなりません。
もし、免税事業者のままだった場合、取引先は、その分の消費税が経費として計上できなくなるため、この機に免税事業者切りが始まるのではないかと危惧されてきました。
実際、「インボイスに登録していない外注の業者とは取引を停止しました」という話もちらほら聞きます。
俣野:インボイスの混乱ぶりは、私も耳にしています。
私の知り合いに、中古品をネットオークションで代理出品している人がいるのですが、「税理士や税務署の職員でさえ見解が分かれている有様で、一時的にサービスを中止しています」と話していました。
特に仕入れが発生するビジネスの場合、消費税の扱いで利益が大きく変わってきますから、まずは状況を見極めたい、とのことです。
横田:インボイスに対する税理士事務所の対応も分かれていて、顧客と対応費用の上乗せ交渉をしているところや、もしくは最初から「インボイス登録番号は、お客様が確認してください」と宣言しているところもあります。
これまでは、クレジットカードの利用明細が領収書代わりに使えたのですが、今後は取引の1つ1つに対して、登録確認をしなくてはなりません。
俣野:税理士の手間も大幅に増えているわけですね。
Next: インボイスで仕事を切られても、弱者いじめには当たらない…
インボイスで仕事を切られても、弱者いじめには当たらない!?
俣野:免税業者のままでは、取引先に嫌厭され、仕事を切られる可能性があるというのは、以前から指摘されてきたことです。
たとえばアニメの声優などを生業にしている個人事業主のうち、インボイス導入後は3割弱が廃業するのではないかとネットで騒がれていましたよね。
横田:日本には、下請けいじめを防止する目的で、下請代金支払遅延等防止法(下請法)があります。インボイス未対応の免税事業者に対して、仕事の依頼者が、立場を利用して消費税を支払わなかったり、価格の引き下げを行ったりした場合、下請法に抵触します。
ところが、公正取引委員会が「免税事業者であることを理由に取引を停止しても、法律に違反しているとは言えない」との見解を示しました。誰と取引するのかは、商取引の原則で自由だというのです。
※参考:[農家の特報班]インボイス理由で取引停止 一方的通知「寝耳に水」 – 日本農業新聞(2023年10月18日配信)
俣野:確かに、法律には抵触していないかもしれませんが、今回の改正が、そうした行為に口実を与えてしまったように見えなくもありません。
横田:インボイス開始後、クライアントからよく問い合わせを受けるのが、「振込手数料は、売り手と買い手のどちらが支払うのが正しいのか?」といったことです。
振込手数料は、買い手が支払うのが通例だとは思いますが、中には最初の交渉で売り手側が支払っている場合もあります。
しかし今後は、売り手が払うとインボイスの処理がやや複雑になるため、改めて「どちらが支払うか?」といった蒸し返しが起きているのです。
俣野:今まで惰性で動いていたものが、今後は惰性のままではいられなくなりそうだ、ということですね。
(参考文献:毎日新聞Web:2023年9月7日、公正取引委員会HP、ほか)
政府がどうしてもインボイス制度を広めたい事情
俣野:反対者多数で今後、インボイス制度が撤回されるようなことはないのでしょうか。
※参考:インボイス反対署名54万筆 小規模事業者の不安渦巻くなか導入へ – 朝日新聞デジタル(2023年9月29日配信)
横田:難しいと思います。ですから、今後は「どのように適応していくか?」が大事になってくるでしょう。
俣野:横田さんは、今後はどうなっていくとお考えでしょうか。
横田:インボイス制度の導入は、政府が思い描いている未来を実現するためのスタートに過ぎません。
もともと電子化の推進は、政府の悲願です。現在は欧米諸国を中心に、国際規格の電子インボイスが進行していますから、日本もこれを追随しているのだと思います。
もし、電子インボイスのフォーマットを統一できれば、国際取引にも対応でき、不正もしにくくなります。今は書式もバラバラで、手書きの領収書なども認められていますが、これらがすべて電子化に一本化されれば、経営の自動化が一気に進むに違いありません。
現在、中小企業に認められている簡易課税制度や免税事業者は、国がインボイス制度を徹底させる上での障壁になっているとも言えるのです。
俣野:いずれは、免税業者が淘汰されていく、と。
Next: 増税しやすくするための伏線?個人事業者が生き残る術は…
インボイスは増税をしやすくするための伏線
横田:軽減税率が導入され、複数の税率が併用される取引では、インボイス制度が不可欠です。そして、これらを推進する真の目的とは“増税”です。
おそらく、生活必需品に対する税率は、今後もほとんど手をつけないと思います。その代わり、それ以外の税率を上げていく。
欧米では、すでに軽減税率とそれ以外の税率の差が、かなり大きくなっています。日本も軽減税率を導入したことで、それ以外の税率を上げやすくなったのです。
俣野:もはや増税は既定路線だというわけですね。
零細事業者がインボイス導入後も生き残る方法とは?
横田:インボイス制度が始まったことで、免税業者は消費税の納税を迫られる事態になっているわけですが、課税事業者にとっても実質、増税です。
課税事業者の中には、一定数、免税事業者と取引を続けるところがあるでしょうが、そういうところは控除ができず、その分、増税になります。また、インボイスは記載事項が細かく決められているため、これらを満たさない請求書は申請を却下され、税負担が増える可能性もあります。
俣野:すでに増税は始まっている、と――
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俣野成敏の『サラリーマンを「副業」にしよう』実践編
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』(2023年11月5日号)より一部抜粋
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