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食料自給率が低すぎる日本の危うい現実。「有事の食料輸入計画」も商社に任せきり?=岩崎博充

日本の食料自給率が「38%」という現実はよく知られている。食料品の多くを他国からの輸入に頼っているのが、現在の日本の姿だ。食料自給率だけではなく、食料生産に不可欠な肥料の自給率はほぼ0%に近い。豚や鶏などの家畜に与える飼料も自給率はわずか25%となっている。「食品安全保障」いわゆる「食料安保」がしばしばマスコミでも取り上げられるようになったが、日本の食料事情はなぜ改善されないのか……。なぜ政府は、国民の命を左右する問題を先送りするのか……。食料自給できない日本の現実を検証する。(岩崎博充)

プロフィール:岩崎博充(いわさき ひろみつ)
経済ジャーナリスト、雑誌編集者等を経て1980年に独立。以後、フリーのジャーナリストとして主として金融、経済をテーマに執筆。著書に『「年金20万・貯金1000万」でどう生きるか – 60歳からのマネー防衛術』(ワニブックスPLUS新書)、『トランプ政権でこうなる!日本経済』(あさ出版)ほか多数

先進国中最下位の日本の食料自給率!

日本の食料自給率38%がいかに少ないか。先進国の食料自給率と比べてみるとよくわかる。カロリーベースで主要国の食料自給率を比較してみると、次のようになる。

・カナダ…… 221%
・オーストラリア…… 173%
・フランス…… 117%
・アメリカ…… 115%
・ドイツ…… 84%
・英国…… 54%
・日本…… 38%
出典:農林水産省(日本は2022年、他は2020年

食料自給率の低さを日本はなぜ放置しているのか。その背景には、日本はアメリカの「食料植民地」と化しており、アメリカの「食の傘」の下にいるからだとする報道もある。さらに、食料自給率が下がり続けていたにもかかわらず継続してきた、コメの生産調整である「減反政策」を2018年に終了させながら、いまだにコメから転作した農家に補助金を出し、生産量の調整を実質的に続けている。

その結果、1965年には水田と畑を合わせて「600万ヘクタール(資料:農林水産省、以下同)」の農地面積が日本にはあったのだが、21年には「435万ヘクタール」に落ち込んでしまった。さらに農業従事者は1966年に「894万人」いたのが、2021年に「130万人」に減少している。

こんな状況を放置してきた政府には大きな責任があるが、幸いなことに近年、これまで日本国民は飢えを経験せずに過ごしてこられた。しかしながら、最近になって世界は大きな転換期を迎えている。たとえば「気候変動」の進行だ。

世界中で深刻な干ばつや豪雨といった異常気象が増えて食糧生産を妨げている。異常気象は家畜の伝染病などをもたらし、世界同時不作といった事態も視野に入ってきている。実際に、インドや中国、ブラジルといった食料生産大国が小麦などの輸出を規制するなど、自国の食料自給を優先しようと言う食料安保の概念が急速に高まりつつある。

加えて、ロシアによるウクライナ侵攻が勃発したことで、地政学リスクが高まったことも大きい。両国共に食料品の輸出大国であり、世界中が大きな影響を受けた。イスラエルのガザ占領ではエネルギーを掌握する中近東諸国が不安定化している。食料生産に対して不透明な時代に入ったということだ。

やっと重い腰を上げた有事の食料輸入計画

そんな中で、日本政府もやっとここに来て「有事の食料輸入計画」の策定に着手しようとしている。実際に、農林水産省は8月8日に「不足時における食料安全保障に関する検討会」の第1回を開催し、地政学リスクや凶作などによって、農畜産物の生産が大きく落ち込んだとき、あるいは海外からの食料調達が滞ったときに、どのような対策ができるかの検討に着手している。

食料安保の一環として、2024年には有事の深刻度に応じて、商社や農家に対して指令や命令ができるような体制を整えるとしているのだ。

もともと、政府は気候変動や地政学リスクの上昇に後押しされて農業分野の安全保障を見直す方針を打ち出し、「食料・農業・農村政策審議会」を立ち上げて、この5月には「中間とりまとめ」を公表。最終的には、日本の農業政策の基本となる「食料・農業・農村基本法」を見直すとしている。

しかし、5月に発表された中間とりまとめには、輸入が途絶した場合のシミュレーションが不透明であり、日本の農政の諸悪の根源ともいえる「減反政策」の名残ともいえる補助金の廃止が盛り込まれていない。食料安保をミサイルの危機に匹敵する存在として考えていない――そんな中身になっていると言っていい。日本の経済的地位が低下して超円安になった時に、穀物の輸入先をどう分散するか。そんな緊急性のない課題が多く、最終的には農産物の価格上昇を訴えている。

Next: 米国一国に頼りすぎている日本の現実。もし台湾有事が現実になったら?



米国一国に頼りすぎている日本の現実!

たとえば、台湾有事が現実のものになったときに、果たして、日本に食料品やエネルギーは入ってくるのだろうか……。台湾の上陸を目指した中国軍が沖縄などの在日米軍を攻撃した場合、日本は戦場となり、日本への食料や燃料を運ぶシーレーンがストップする可能性があると指摘する報道もある。
※参考:台湾有事が起きれば日本国民は半年で餓死する…「輸入途絶の危機」を無視する農林水産省はあまりに無責任だ 農家の利益を守るだけで、国民の利益を無視している | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)(2023年10月31日配信)

日本は、穀物類の大半を米国から輸入している。50%の小麦をはじめ大豆(73%)、とうもろこし(37%)という現実があり、米国への依存度が極めて高い。米国から日本に向かう食料品のサプライチェーンが、戦争の勃発によって止まってしまう可能性は少ないかもしれないが、米国が戦争中でも日本に対して同じ量を供給してくれるのかは不透明だ。

また、穀物類は確保できたとしても、中東からやってくる燃料はストップしてしまうかもしれない。中東からの長いシーレーンは他国の攻撃を受けやすくなり、船会社も二の足を踏む。燃料が止まれば、日本の食料生産も農耕機が使えなくなりストップしてしまう。トラックなどの輸送手段もなくなることになる。

食料、エネルギー共に海外に依存している日本にとっては、どちらか一方を失っても日本国民全員の命を危機にさらすと言っていい。食料安保は、エネルギーの確保とも直結しているわけだ。

商社まかせの有事の食料調達!政府を頼るのは無理?

日本政府の様々な政策の最大の欠点は、補助金という名のマネーをばらまけば、工業生産でも農業生産でも、生産性を上げて活性化できると考えているところだ。様々な規制を排除して民間の活力に委ねようとする、米国のような経済政策がほとんどできていない。農業政策も農家=農協を応援するあまり、後継者を育てられず、人口減少と相まって衰退の一途をたどっている。

たとえば、シーレーンがストップして穀物や肥料、飼料が海外から入ってこなくなったら、どうすればいいのか……。日本は国土の7割が山林だが、いざとなったら山林を破壊して、短期間で農耕地に転換する技術を研究するなど、1億2,000万人を食べさせていくにはどうすればいいのか。政府は、まずそこから始めるべきだろう。

小麦粉を輸入国別に見ると、アメリカ(約50%、2020年、以下同)、カナダ(約33%)、オーストラリア(約16%)となっている。日本とは緊密な3国で、台湾有事が発生してもシーレーンは大丈夫そうだが、この構図で心配なのは地政学リスクと言うよりも、気候変動かもしれない。米国の地下水資源が枯渇寸前だと言う情報もしばしば目にする。

日本には、うどん、パン、中華麺パスタと言った。小麦に対するニーズは高い。小麦農家に対しても米農家と同じようなインセンティブを与えることで、もっと生産性を上げられるかもしれない。安全保障の観点から、最近では、中国からの輸入依存度の高い品目の輸入先を分散させるための努力が行われているが、その影響もあって、食料品の価格が上昇していると言う現実がある。食料品の確保には、どうしても食料品価格の上昇という副作用がついてくる。世界的なインフレを抑える意味でも、今後は食料品の自給率を高めていくことが求められている。

いずれにしても、「不足時における食料安全保障に関する検討会」が11月8日に発表した資料によると「関係省庁一体となって食料供給を確保するために政府全体の意思決定や指揮命令を行う体制・仕組みが存在しない」と結論付け、首相が政府対策本部を臨時で設置できるようにする体制を作るようにと提言するにとどまっている。日本の食料安保が整うにはまだ道は遠そうだ。

image by: maroke / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2023年12月4日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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