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日本株急騰も新NISAで飛び込んだ素人たちはごっそり狩られる?大きな落とし穴と3つの回避術=岩崎博充

2024年が明けて6日連騰で日経平均株価が上昇するなど、株式市場が活況を呈している。バブル絶頂期の1989年にピークを迎えた平均株価が、33年ぶりに突破するのではないかと市場には期待感が溢れている。

しかしながら、長い間株式投資を行ってきた人にとっては「どこかで通った道」といったデジャブにも似た感覚があるはずだ。アベノミクスが始まった2013年の株式市場でも、一時的に株価は上昇して投資家の期待を集めたものの、気がついたらまた元の株価に戻っていた……。そんな経験を何度もした人が多いはずだ。

とはいえ、今回は「新型NISA」と呼ばれる新しい非課税制度が始まり、これまで市場とは無縁だった人も数多く参加し始めているとも指摘される。そんな中で、今回の株式市場の行方はどうなるのか……。あるいは新型NISAにどう向き合えばいいのか……。そんな人も多いはずだ。新型NISAを使って投資に踏み出すべきかどうか、それともタイミングを見たほうがいいのか、考えてみたい。(岩崎博充)

プロフィール:岩崎博充(いわさき ひろみつ)
経済ジャーナリスト、雑誌編集者等を経て1980年に独立。以後、フリーのジャーナリストとして主として金融、経済をテーマに執筆。著書に『「年金20万・貯金1000万」でどう生きるか – 60歳からのマネー防衛術』(ワニブックスPLUS新書)、『トランプ政権でこうなる!日本経済』(あさ出版)ほか多数

なぜ日本株急騰?背景に3つの要因

日本株は、初日の大発会から6日連投してバブル期以降の最高値を更新し続けてきた。日経平均株価の最高値を更新するのも、いよいよ視野に入ってきたと言われている。

日経平均株価 週足(SBI証券提供)

こうした株価急騰の背景には、大きく分けて次の3つの要因があると言われている。

<要因その1:日本経済全体の成長率が堅調>

円安が続いたことで、GDPの2割を占めると言われる製造業が好調であり、経済全体の好調さが予想されることから株価が上昇しやすくなっている。

2024年のOECDの景気予想でも日本の成長率は1.0%。英国の0.7%よりも高く、その分日本が投資対象になっているともいえる。

<要因その2:米国や中国など、海外からの投資資金が流入>

上海に上場している「日本株ETF」に注文が殺到していると報道されたが、ヘッジファンドなどの機関投資家も日本株の将来に期待して投資をしているケースが目立つ。

裁定取引をメインとするヘッジファンドの売買が「中国ロング(買い)、日本ショート(売り)」から「日本ロング、中国ショート」に転換した、という報道もある。

<要因その3:新型NISAによる個人の買いが大量に流入>

今年から、年間240万円の投資枠に加えて、積立NISAとして120万円の「非課税投資枠」が新設された。さらに、投資期間も無期限となり、投資枠も最大1800万円まで非課税となった。新型NISAは、将来の年金制度崩壊に備えて国民に資産形成を促すものであり、とりわけ年金制度の恩恵に授かれない若い世代のための制度だと言われている。

いずれは個人の資金が、日本の株式市場にも大量かつ継続的に流入し始めるのではないかと指摘されている。

これら3つの要因のほかに、東京証券取引所等の制度改革も功を奏しつつある。新型NISAの新設に加えて、東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)1倍以下の相対的に株価が割安になっている企業に対して、株価を上げるための改善方法の提示を求めるなど、官民を挙げて株価低迷から脱するための政策がとられている。

Next: 新型NISAは株価急騰の原動力?またハシゴを外される可能性も…



またハシゴを外されるのか?

33年ぶりとも言われる株価水準だが、この33年間は、日本の個人投資家にとっては長くつらい歳月だったと言っていい。

1989年の大納会でつけた日経平均株価3万8,915円87銭は、わずか2か月足らずで3万6,000円台にまで下落。バブルとは知らずに株式を買っていた投資家は、損切りもできずに30年以上も保有を続けて来た人もいるはずだ。

その間、他の国の株価は10倍、20倍になっているのが普通だ。米国のニューヨークダウ工業株はこの30年で14倍になっている。

日本だけが、低い株価に甘んじてきたわけだが、この30年の間にも個人投資家は株価上昇を期待しては、裏切られ続けてきた歴史がある。例えば、2000年前後の「ITバブル」では、日本株も浮上できると考えた投資家が多く、IT銘柄に競って投資。しかしながら、ライブドアショックといった日本特有の下落局面もあって、結果的にはITバブルが崩壊し、平均株価は2万円から7,607円(2003年4月)まで下落している。

その後、米国のサブプライム問題(=リーマン・ショック)でも、株価は7,054円(2009年3月)まで下落。2012年に誕生した第二次安倍政権によって始まった「アベノミクス」によって、株価は2万5,000円台に回復していくわけだが、そのアベノミクスも結局のところ停滞していくことになる。アベノミクスは、日本銀行の黒田新総裁が打ち出した異次元の金融緩和によって、意図的に株価を高騰させ、2015年6月には2万868円まで上昇している。しかしその後は再び低迷を続け、2019年には2万5,000円台まで回復するものの、2020年にはコロナ禍拡大によって、株価はまたもや2万円を切る水準まで下落する。

日本の投資家の多くが、株式市場に期待をしなくなってしまったのは、個人投資家の構成比率の低下でも明らかだ。かつては4割近くが個人・その他の投資家によって保有されていた株式市場だが、最近では17.6%に低迷している(日本取引所グループ、2022年)。個人の金融資産も相変わらず2,121兆円の金融資産のうち1,721兆円が預金になっている(日本銀行、資金循環統計、2023年第3四半期速報)。ちなみに、証券はわずか402兆円に過ぎない。

約30年に渡って日本の個人投資家は、株式投資で常にハシゴを外され続けてきたわけだが、果たして今回の株価急騰も一時的なものなのか。

未来のことはわからないが、疑心暗鬼に思っている個人投資家も多いはずだ。

新型NISAは株価急騰の原動力?

そもそも、今回の株価急騰は海外からの資金流入が中心になっていると言われており、新型NISAで始まった個人投資家の積立投資の多くは、まだ日本株には向かっていないのではないかと言われる。

実際に、1月第2週(1月9日〜12日)の投資部門別売買状況を見ても、海外投資家が9557億円の買い越しで、個人投資家は1兆695億円の売り越しだった。新型NISAによる個人投資家の買いはまだ始まっていないにもかかわらず、株価は大きく上昇したことになる。

新型NISAの多くは、米国の株価指数である「S&P500」や、世界中の株式に投資する「オールカントリー」といったETF銘柄に投資されている。新型NISAによる日本株はまだ始まっていないのが現実だ。

そもそも日本の個人投資家は「最高値で買って最安値で売る」と揶揄されるなど、その投資スキルは決して高いものではない。「投資信託の回転売買」といった証券会社によるブレーキもあったものの、個人投資家は株や投資信託で安定した収益を上げている人は少ない。

しかしここ数年の間に、金融庁や証券取引所による投資家本位のマーケットを目指すようになり、金融環境は大きく変化を遂げている。遠い目で見れば、新型NISAが日本株上昇の原動力になる可能性はあると言うことだ。

Next: タイミングを間違えると大損?新型NISAを使うときのポイント



新型NISAを使うときの3つのポイント

問題は、どんなに投資環境が改善され、税制が優遇されても銘柄選びや売買のタイミングを間違えれば儲からないということだ。

新型NISAは、あくまでも超長期の資産形成に使うべきであって、日々の売買に使う口座ではない。そういう意味では、やはり「つみたてNISA」を活用すべきであり、積み立て以外の資金は、株価が割安な銘柄を探すか、相場全体が大きく下落したときなどに使うべきだろう。

いくつか、新型NISAを使うときのポイントをまとめると次のようになる。

<ポイントその1:分散投資を心がける>

日本だけではなく海外の市場にも積極的に投資することを心掛けたい。時間を分散して少額をコツコツと積み立てていくことも大切だ。

とりわけ、今後NISAで個人のマネーが海外に流れていくとすれば、円安がさらに進む可能性が高い。個人投資家が円を売って、海外の資産に投資するからだ。為替ヘッジをしないで海外の資産を積み立てていくほうがベターかもしれない。

毎月1万円積み立てても、これまでの日本では10年で120万円程度にしかならないが、海外の金融資産であれば円ベースでも数倍になっている可能性もある。

<ポイントその2:安い時期に買う>

日本の投資家の悪い癖は、付和雷同型の投資行動が多いことだと言われる。

ウォーレン・バフェットが日本の商社がいいと言うと、みんなが一斉に商社株に投資する。AIや半導体と言われると、一斉にその方向に向いてしまう。

しかし、株式投資には「人の行く裏に道あり花の山」という格言があるように、他人とは異なる道を行くほうがいい。

さらに「噂で買って、ニュースで売る」という言葉があるように、ニュースが流れた段階では相場は終わっている可能性が高い。最近はネットの影響で情報の伝達スピードがプロアマ関係なく早い。

そう考えると、リーマン・ショックとかコロナ禍など株価が大きく下落したときに買うのが一番いいのかもしれない。それまで辛抱強く待てばいいだけのことだ。

<ポイントその3:難しいのは利益確定>

さらに株式投資で難しいのは、買うときよりも売って利益を確定することや、損切りするときなど「売りのタイミング」だ。

損切りは、できればやらずに何年でも持ち続けるという投資方法もあるが、さっさと損を確定して新しい銘柄にシフトすべきだという人もいる。経験を積んで、学んでいくしかないだろう。

いずれにしても、円安圧力は今後も続くはずだから、日銀の「金利のある世界」を待つのではなく、積極的に円に見切りをつけて、預金から投資へ、円資産から外貨建て投資へとシフトしていくのも1つの方法だ。

時代は大きな変化を遂げようとしているのだから、いつまでも資産運用しないという選択はもうないはずだ。むろん、投資にはリスクも付きまとう。しかし、投資のリスクは長期投資することで軽減されるはずだ。

image by: yoshi0511 / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2024年1月31日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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