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半導体ブームで日米株価史上最高値…その後の展開は?「バブル」崩壊を含む3つのシナリオ=岩崎博充

日経平均株価が34年ぶりに史上最高値を更新した。その背景にあるのが、米国株の高騰であり、「生成AI(人工知能)」の将来性に対する期待である。さらにその中核的な存在となっているのが、米国半導体大手の「エヌビディア」である。今回の半導体ブームは、いったいどういうものなのか。バブルは崩壊するものではあるが、現在はバブルなのか…?その実態を見てみよう。(岩崎博充)

プロフィール:岩崎博充(いわさき ひろみつ)
経済ジャーナリスト、雑誌編集者等を経て1980年に独立。以後、フリーのジャーナリストとして主として金融、経済をテーマに執筆。著書に『「年金20万・貯金1000万」でどう生きるか – 60歳からのマネー防衛術』(ワニブックスPLUS新書)、『トランプ政権でこうなる!日本経済』(あさ出版)ほか多数

生成AIが押し上げる株価は「バブル」ではないのか?

日経平均株価が34年ぶりに史上最高値を更新した。その背景にあるのが、米国株の高騰であり、「生成AI(人工知能)」の将来性に対する期待である。さらにその中核的な存在となっているのが、米国半導体大手の「エヌビディア」である。

エヌビディアの株価が上がれば、ニューヨークダウやS&P500、そしてナスダックといった株価指数が上昇し、日本の株式市場でも半導体関連株が大きく上昇することで株価全体を押し上げる。いまや、日経平均株価は4万円どころか4万3,000円まで上昇するのではないかという予測まで出てきている。

日経平均株価 週足(SBI証券提供)

エヌビディア1社で、日米の株を牽引している感があるが、問題はそのスピードだ。2024年に入ってから急速に株価が上昇、株価の上昇スピードが早ければ早いほど、バブルと言われるのもまた事実だ。とりわけ「エヌビディア祭り」とも言われる「半導体ブーム」の到来はバブルではないのか……、といった指摘も上がっている。

NVIDIA CORP<NVDA> 週足(SBI証券提供)

株価の暴騰と言うものは、その背景にあるものが実態なのか、あるいは幻なのかということは関係ない。株式市場とは「投資家が将来的に株価は上がるだろう」と期待すれば上昇するものであって、それが株価上昇の理由になる。実際に2000年当時、ITがこれからの社会を牽引すると言われて株価が暴騰した「ITバブル」も、あっけなく崩壊した。実際に、その後もIT産業は成長し、実社会では不可欠なテクノロジーとなったが、それでも当時の株価は高くなりすぎて、バブル崩壊となって暴落することになった。

そこで、今回のエヌビディアを中核とする半導体ブームが、どういうものなのか、バブルは崩壊するものではあるが、現在バブルなのか……。その実態を見てみよう

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暗号通貨で成長し、生成AIでトップ企業に踊り出たエヌビディア

エヌビディアとは、もともとはビデオゲーム映像をより鮮明に作ることができる「グラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPU)」と呼ばれる画像処理半導体の企業として知られている。半導体の企業と言っても、エヌビディア自身は半導体を作るわけではなく、半導体チップの設計会社であり製造はしない。台湾のTSMC(台湾積体電路製造)などに任せている。

そんなエヌビディアが、最初に大きな成功を収めたのが、このGPUコンピューティングと言う新しい分野のテクノロジーであり、暗号通貨を作る採掘(マイニング)で大きな成果を上げた。同じ半導体メーカーの大手「インテル」や「サムスン」がライバルだが、2023年には両社を抜き半導体売上No.1になると予想されている。複雑な並列処理能力が必要となる生成AIにとってエヌビディアのGPUが不可欠な存在であることに産業界が気付いたわけだ。

実際に、生成AI大手の「チャットGTP」では、エヌビディアの半導体チップが1万個以上使われていると言われている。生成AI以外でも、エヌビディアのGPUはパソコンや電気自動車、ロボットなどにも使用されており、GoogleやApple、Microsoftなどが、エヌビディアのGPUを待っている状態だ。具体的には、分野を問わず顧客サービスで大きく成長している「チャットボット」などのプログラムにも不可欠な存在となっている。

米国大手経済紙『ウォールストリート・ジャーナル』が「エヌビディアにAIの追い風、時価総額1兆ドルへ」という記事を配信したのが2023年5月30日。9ヶ月前のことだが、今や時価総額は今回の決算で瞬間的に「2兆ドル(約300兆円)」を超えて、専門家の予想さえも大きく上回る株価の伸びを見せた。この2月22日に行われた「11−1月期」の決算発表でも、売上高は前年同期比3.7倍の221億300万ドル、純利益は8.7倍の122億8,500万ドル。市場予想をそれぞれ8%、18%も上回った。2024年の2−4月期も、総売上高は前年同期の3倍になると予想している。

エヌビディアが提供するAI関連の半導体は「需要は供給をはるかに上回っている」状態だと、同社のコレット・クレス最高財務責任者(CFO)も述べている。さらに、この3月には次世代製品と言われる新製品が「年次AI開発者会議」で発表される予定で、ライバル会社であるインテルやAMDホールディングスといった高性能半導体企業とも大きな差をつけている(ウォールストリート・ジャーナル「エヌビディアの『AIまつり』まだまだ続く」、2024年2月22日配信)。

日経平均史上最高値を牽引した半導体関連銘柄

一方の日本の株式市場だが、日経平均株価は年初から5,600円も上昇したわけだが、その内訳をみるとエヌビディアの急騰に支えられる形で、日本企業の半導体関連銘柄も上昇。東京エレクトロン、アドバンテスト、ソフトバンクといった半導体関連企業だけで、日経平均を2,200円以上も押し上げたと言われる(※編注:原稿執筆時点2月26日)。いかに、エヌビディア、半導体関連、生成AIといった一連の材料が日経平均株価の史上最高値達成を演出したかがわかるはずだ。

問題は、今後の展開だ。エヌビディアに牽引される形で、今後も日経平均株価は上昇していくのか……、それとも達成感から日本株だけ単独で下落していくのか……、あるいはエヌビディアが失速して日米の株価が揃って下落していくのか……。

様々なシナリオが考えられる。あまりにも急激な日本株の上昇に、株価暴落の予想をする専門家も徐々に増えてきている。例えば、次のようなシナリオをもとに、その可能性を検証してみよう。

Next: 日経平均史上最高値…その後は?想定される3つのシナリオ



<シナリオ1:エヌビディア=米国株が調整局面、日本株大暴落?>

失われた30年で最も多かったパターンだが、米国株が何らかの形で調整局面に入ったときに、それを上回る規模で日本の株価が下落するパターンだ。たとえば、エヌビディアのファンダメンタルズに疑念が生じて株価が10%下落、それに伴って米国市場全体も15%程度下落した場合、これまでのパターンでは日本株は20〜30%下落するパターンが多かった。

もっとも、エヌビディアの株価は、現在800ドルを伺うところまで高騰してきたが、来期の予想PER(株価収益率)はそれでも30倍台、最高でも50倍程度に過ぎない。株価の割高感を示す「PER」は、エヌビディアの場合、依然として割高というシグナルは出ていないわけだ。ちなみに、東京エレクトロンのPERも36倍程度(2月26日現在)。つまり、日米ともに半導体関連銘柄にはまだ高値警戒感は出ていないとも言える。

<シナリオ2:エヌビディアの株価がさらに上昇して、日本株も4万円台へ>

エヌビディアの堅調な決算発表以降、各証券会社のアナリストは目標株価を一斉に引き上げつつある。たとえば米大手のゴールドマン・サックスは2月5日に目標株価を800ドルに引き上げた。日本の楽天証券も今後6〜12ヶ月の目標株価を1,200ドルに引き上げている。

さらに、エヌビディアは株式を公開して以降、2000年6月27日に「株式分割」を2対1で実施しているが、これまで合計で5回の株式分割を行っている。株価が800ドルもしくは1,000ドルを超えてくれば、当然また株式分割への期待が膨らみ、投資家にとってもさらなる株価上昇の期待が出てくる。

エヌビディアが今後も順調に株価を上げていけば、半導体関連企業の多い日本市場では、日経平均株価がさらに上昇していくことになる。すでに日経平均で4万3,000円前後までの上昇を予想する証券会社も多い。

<シナリオ3:日銀の金利引き上げ、トランプ大統領再選、不透明な社会情勢で日米ともに株価暴落>

今後、エヌビディアや日本の半導体関連企業が順調に上昇していくためには、実は様々な弊害となる外部要因が控えている。たとえば、最大の懸念材料とも言えるのが米国の大統領選挙だ。トランプ大統領の再選によって、予測不能な社会となり、半導体市場にも微妙な影が忍び寄るかもしれない。半導体市場そのものには影響は少ないものの、トランプ政権の政策は、関税引き上げや減税政策、防衛費増大などインフレを招く政策が多いからだ。

日本の金融政策も、トランプ政権の誕生はドル高を招き、日本はマイナス金利解除から金利引上げと進むことが予想される。1ドル=170円台、180円台と円安が進んでいけば、日本の金利も上昇せざるを得なくなる。株式市場は、不透明な未来と金利の上昇を嫌う。どうしても株価は不安定になると言うわけだ。

Next: AI・半導体市場はどこまで拡大するのか?投資家が備えるべきこと



AI・半導体市場はどこまで拡大するのか?

エヌビディアが順調に株価を押し上げていくための大切な条件があるとすれば、半導体市場全体の拡大とそのスピードだろう。今や半導体は生成AIだけではなく、EVや電化製品などに幅広く使われている。たとえばサッカーのボールの中に、AIチップが組み込まれてより正確なジャッジをしてくれる時代になっている。

その半導体だが、WSST(世界半導体統計)、そして米国の調査・助言企業である「ガートナー」によると、2024年の半導体世界市場は過去最大規模となり、5,883億6,400万ドル(約80兆円)となり、2ケタ成長になると予想している。その背景にあるのが、生成AIによる需要増によって、GPUやDRAMと呼ばれる半導体の需要増である。2030年には1兆ドルの市場規模が予想されている。

ちなみに、生成AIの市場規模は2030年には、2,110億ドルの世界需要が見込まれている(電子情報技術産業協会、JE ITA予測)。2023年の約20倍の市場規模になると予想されている。人工知能とは言え、その需要はやはり製造業が多く、産業界全体が生成AIを使った技術革新を遂げていくと予想されている。

世界のIT市場全体の市場規模が約13兆8,000億ドル(2023年)と言われているが、生成AIの市場規模の大きさもそれで理解できるかもしれない。要するに、新しい時代の新しい技術をいち早く開発に成功したエヌビディアが、現在の世界の株式市場を牽引しているといえる。その将来性だけを見れば、今後も株価はどんどん上がっていくように見える。

しかし、冒頭でも紹介したように株価というのは、あくまでも投資家の期待値であり、期待値が大きくなりすぎればバブルとなって崩壊する。かつて17世紀には、チューリップの球根でバブルが起きたが、バブルはその実態の有無を問わず崩壊する。生成AIはこれまでの経済をひっくり返す将来性があるとも言われるが、それと株式市場が急騰しすぎて暴落することとは関係のない話だ。バブルはやがて破裂する。

image by: yoshi0511 / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2024年3月1日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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