原則的には認められていないものの、通院などに公共交通機関を使うことが著しく難しいなど場合には、例外的に認められるケースもある、生活保護受給者の“クルマの保有”。このことを巡って、生活保護受給者と行政が争う裁判などを紹介した報道が、大いに波紋を呼んでいるようだ。
記事によれば、生活保護を受給する三重県鈴鹿市に住む81歳の女性は、脳に障害を持つ56歳の息子の通院のため、クルマの使用が認められていたものの、鈴鹿市は生活保護の支給を始めて2年後、クルマを使う条件として、最初のメーターや日にち、運転者、同乗者、目的地などを詳細に記録させる、独自の運転記録票の提出を突如求めるように。
鈴鹿市側は女性に提出させた運転記録票を、車を使用した日付と通院日にずれがないかを細かくチェックしていたといい、記録があいまいな点に関して「ウソ書いた」と職員が発言したこともあったという。
結局、運転記録票の提出を止めてしまったことで、生活保護を止められた受給者は、生活保護停止処分の撤回を求めて鈴鹿市を提訴。今年3月の津地裁では、原告にとってクルマの利用は自立した生活に必要と認めたうえで、運転記録を提出しないことを悪質とした鈴鹿市の判断は誤りだとし、生活保護の停止処分を取り消す判決が出たものの、鈴鹿市はこれを不服とし、すぐさま控訴したということだ。
受給者を精神的に追い込み辞退届けを出させる“硫黄島作戦”
生活困窮者に対し必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的としている生活保護制度。
その扶助費だが、国の4分の3に対し、地方自治体が4分の1という負担率となっており、生活保護の受給者が増えれば、地方自治体が負担する額も当然アップし、財政を圧迫することに。
そのため、生活保護申請の窓口となっている各地の自治体では、申請用紙をもらいに来た者に何かと難癖を付けて窓口で門前払いにし申請用紙を渡さない、さらには申請書を提出しようとした者に対して、受け取りをなかなか行わないといった、いわゆる“水際作戦”と呼ばれる対応が、往々にして行われるのはよく知られたところで、なかにはその過程で、受給希望者に対する暴言や人格否定発言が飛び出すことも。
さらに、すでに生活保護を受給している人々に対し、地方自治体が行っているケースが散見されるのが“硫黄島作戦”と呼ばれるもの。これは生活保護をいったんは受給させた後に、過度な就労指導を行ったり、あるいは事あるごとに暴言を吐いたりするといった行為で受給者を追い込み、“自発的”に辞退届けを出させるというものだ。
最近では、群馬県桐生市が「生活保護費を1日1,000円に分割して満額を支給しない」「預かった他人の印鑑を書類へ無断押印」など、生活保護制度における不適切な運用が続々と発覚し、広く批判を集めているところだが、このような行為は程度の差こそあれ各地で行われているのが実情。
今回取沙汰されている、クルマを所有する生活保護受給者に対して、独自かつ細かすぎる運転記録票の記載を強制し、挙句の果てに「噓を書いた」と因縁を付けるのも、まさに先述の“硫黄島作戦”の一種と言えそうなのだが、一審ではその運転記録票があまりにも細かな内容を求めすぎていることを、ある意味で否定的に捉える判断となった格好だ。
SNS上でも紛糾する“クルマは贅沢?”議論
いっぽうで、今回の報道に関連してSNS上では、生活保護受給者がクルマを持つことの是非が大いに取沙汰される格好に。
原則的に生活保護で保障しているのは、先述の通りあくまでも最低限度の生活ということで、生活に困窮しているのであれば、クルマは売って生活費に充てるべし、というのもあるのだが、それにくわえて保険や税金、駐車場代などといった、クルマを所有する際に必ずかかる維持費が賄えるのかという点も、多く指摘されているところ。
さらには、仮にクルマを運転して事故を起こしてしまった場合、賠償能力が無いことが大いに考えられ、事故に巻き込まれた側が泣き寝入りになるケースが続発するだろうということも、生活保護受給者がクルマを持つことに否定的な意見に繋がっているようだ。
ただその反面で、公共交通が充実していない地方や過疎地においては、どうしてもクルマは必需品となるといった見方も根強いところ。昨今は2024年問題の影響で、バス路線が減便・廃線となる事態が全国的に続出し、さらにタクシーもドライバー不足の状況となれば、最低限の生活にクルマはなおさら必要になっているというのだ
このように、SNS上でも話が紛糾するこの話題なのだが、実際のところ生活保護と自動車保有をめぐる係争は、今回の鈴鹿市の件だけでなく、全国で相次いでいるようで、議論はさらに続いていくといった状況のようだ。
Next: 「市の独自運用を根拠にミス待ちの状態を…」
ツイッターの反応
絶対に認めてはいけない。
支払い能力のない生活保護受給者が事故を起こしたら被害者は泣き寝入りする事になる。
最低限度の生活に車は必要ない。「車はぜいたく品?」 自治体が生活保護受給者に認めない“車の保有” 「車に乗ったら生活保護止められた」当事者が語る現実https://t.co/uNIHPTqWc4
— もぐんぷ😈 (@msiw0813) May 26, 2024
生活保護の人も生活上、車が必要だというのは分かるんですよね。わたしも過疎化した地域で生活保護の方と出会ってきましたので。けれども自分が大きな事故に遭ってみて、もしも相手が任意保険に入っていなかったらと思うと、やはり背筋が凍る思いがするんです。自賠責保険は最低限の補償だけですから。
— 沼田和也(王子北教会牧師) (@numatakazuya) May 27, 2024
車がぜいたく品か否かが騒がれてるようですが、車をぜいたく品って思ってるのは徒歩数分でコンビニやバス停に行ける都市部に住んでる人間だけですよ、高齢ドライバーもそうだけど「必要ないもの」になるまで田舎のインフラに投資する気がないのに、口先だけで必要ないって言うのは理不尽ってものよ
— すっとこ (@Ponytail41) May 26, 2024
どこに住んでいるかで違いすぎて、一律NGが正しいかは迷ってしまう_(:3 」∠)_
都市部の公共交通機関が充実してるとこ以外無理多くない?
「車はぜいたく品?」 自治体が生活保護受給者に認めない“車の保有” 「車に乗ったら生活保護止められた」当事者が語る現実(CBCテレビ)https://t.co/iYEMyn1V2K
— 同志カルロ・ゼン@〆切が苦手 (@sonzaix) May 26, 2024
運転記録を出さなかったからといって、生活保護を取り上げたら、生活できなくなることくらい役人にもわかりそうなもんなのにね。何のための生活保護か考えたらこんな杓子定規にする必要ないと思うけどね。生活保護の目的を理解した上で、自分の頭で考えるような役人でなかったら、役に立たない人。 https://t.co/BJFNMvmhBN
— Semloh (@semloh_b122) May 26, 2024
そもそも81歳に運転適性があるのかという問題もあるが、運転記録票という市の独自運用を根拠にミス待ちの状態を作り、ミスが起きたら保護と停止する為のツールとして使ってるんじゃないの?
やめさせる事が前提にある自治体は独自基準がある事が多いが、そういう自治体に罰則規定作ればいいと思うよ。 https://t.co/le8iPb8cHj— ミイ@(白柴武蔵) (@boku_kaineko) May 26, 2024
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