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日本のエリート官僚はなぜ「国益第一」の外交ができないのか?=北野幸伯

外交をはじめ、実際にこの国を動かしているのは官僚――。そんなふうに思っている方も多いのではないでしょうか。しかし、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは違った見方をしているようです。今回は「その時々の首相によって外交が大きく変わる」という前提のもと、日本が進むべき道について持論を展開しています。

実際に日本を動かしているのはエリート官僚、ではない!?

日本外交はなぜ国益を損なうか

読者のSさまから、二つ質問をいただきました。今日はその一つにお答えします。まずは、Sさまのメールから。

私が常々疑問に思っていることを書かせていただきます。5/19配信の「プーチン年内訪日決定?」やそれ以前のメルマガでも頻繁に感じているのですが、例えば

「いままで日本政府高官は、ロシア政府の高官に会うと、開口一番、『島返せこら!』といっていた」

これを言わせていたのは、この件では主に外務省ですよね。

私が思う疑問の一つ目は、日本の超優秀なエリート国家公務員がなぜ「国益を損なうような言動を政治家にさせているのか?」です。エリートと言っても事務処理能力がめちゃくちゃ高いだけの自分で考えない人も中にはいると思いますが、大半は、「この戦略は国益に合わないのでは?」と内心感じながらも大きな流れに巻き込まれて、止むにやまれず無理に自分を納得させながらそのような政策立案をしているのではと思っています。少なくとも村社会でまともな感覚が麻痺するまでは…。

「なぜ全体として国益に合う政策にできないのか?」が一つ目の疑問。

いくつかポイントがありますね。

【関連】日米同盟は永遠なのか?アメリカが再び日本の敵に回る日=北野幸伯

一言目に「島返せ、こら!」の理由

一つ目は、日本政府の高官がロシア政府高官に会うと、一言目に「島返せ、こら!」といっていた件。これについては、客観的な理由があります。

そもそも安倍総理は、「島返せ、こら!」とだけ言っていたわけではありません。2013年、日ロ関係は、あらゆる方面で劇的に改善された。しかし、2014年3月のクリミア併合で、対ロシア制裁が始まり経済協力などに関する話が進められなくなった。それで、日本政府高官がロシア政府高官に会うと、「いつ島返してくれますか?」ぐらいしか言うことがなくなった。ロシア側は、「日本人と会うと、ロシアが損する話(4島返還)しかしない。マジでうざったい!」とブチ切れていた。それで、日ロ関係はどんどん悪化していた。

今回総理は、その辺をあらため、経済協力を前面に出した。それができた理由は、

などでしょう。それでロシア側もよろこんで、日ロ関係が改善されたのです。

Next: 日本に「国益に合う外交」をさせたくない面々の正体



外交は「官邸主導」という事実

二番目のポイントは、「外務省が政治家に言わせている」という部分。外務省はいろいろ批判されていますが、外交の「大きな流れ」を決めてるのは、「総理」と「側近たち」だと思います。なぜそう思うかというと、総理大臣がかわると、外交もがらりと変わるから。

たとえば90年代、日本は概して、アメリカ、中国、ロシアのバランスをとりながら外交をしていました。なぜでしょうか?

91年、ソ連が崩壊し、アメリカが世界唯一の超大国になった。すると、アメリカは、「日本バッシング」を始めたのです。「日本異質論者」を前面に出しながら、日本経済潰しを熱心にしていた。日本としても、ソ連がなくなり「日米安保」の重要性が薄れた。それで、相対的に中国、ロシアとの関係が改善されていたのです。

しかし、小泉さんが総理になると、「アメリカ一辺倒外交」になった。それで、中国、ロシアとの関係は破壊された。

鳩山さんが総理になると、またガラリと外交が変わりました。鳩山さんは、アメリカとの関係を悪化させ、中国との関係を最重視した。小沢さんの、「私は人民解放軍の野戦軍司令官である!」発言は、忘れようとしても決して忘れられません。

というわけで、日本外交の大きな方向性を決めているのは、やはり「官邸」だと思います。もちろん、総理が、「親米派」(あるいは従米派)なのか、「親中派」(あるいは従中派)なのかで、大きく変わります。ですから、「外国」(主に米中)が外交に与える影響も相当大きいのです。

なぜ国益にあう政策ができないのか?

最後に、「なぜ国益にあう政策ができないのか?」について。これも、いろいろ理由があると思います。

まず、「国益にあう政策」について意見が統一されていない。たとえば、

などなど、ひとつの問題をとってみても、さまざまな意見があり、皆「俺の主張が国益にあっている!」という。だから、フラフラフラフラするのですね。

皆さん、「何が善なのか、悪なのか」「まったく基準をもたない人」の人生を想像してみてください。難破船のように漂流し、言うこともコロコロ変わることでしょう。今の日本は、そういう状態だということです。なにが「国益」なのか、わからない

もう一つ、やはり外国、主にアメリカと中国の影響が大きいのでしょう。総理が、何か日本のためになる政策をしようとする。すると、アメリカから圧力がかかり、やめさせられる。あるいは、日本の国益に合致しないことを、やらされる。そういうのがあることは、皆さんご存知のとおりです。「え~、そうなの?」という方は、『アメリカに潰された政治家たち(孫崎享)』をご一読ください。

Next: いまこそ日本に求められる、軍事力増強以上に重要な「大戦略」とは?



ではどうすればいいのか?

「理想論」みたいで申し訳ないですが。政治家の、特に上の方にいる人たちは、しっかりとした国家戦略をもつということですね。再臨の諸葛孔明、世界的地政学者、大戦略家の奥山真司先生によれば、「戦略」には「階層」がある。上から下に、

(「戦略の階層」については、『世界を変えたいなら一度「武器」を捨ててしまおう(奥山真司)』を。人生変わります。絶対お勧め。)

日本の場合、「世界観」「政策」「大戦略」など、最重要部分がよくわからない。

私は、世界観については、「自由、平等、人権、民主主義」プラス「和」でよいと思います。「日本は全然悪くない」という世界観だけでは、世界の共感は得られないでしょう。

政策について。自立する政策を進めると同時に、世界の「和」を進める政策を行うべきです。だから、やたらと中国を挑発したりしない。そして、貧しい国を助けましょう。井戸をつくり、農業支援をし、発電所をつくり、学校をつくる。

そして大戦略ですが、「価値観を共有する国家群と協力関係を深めていく」。具体的には、アメリカ、インド、欧州、ロシア、東南アジア諸国、オーストラリアなどなど。これらの国々と関係を深めていけば、中国も尖閣を奪えなくなります。

連戦連勝の日本軍が中国国民党に敗れた教訓を忘れるな

こういう話、特に「大戦略」の部分を聞いて、「甘い!」と考える人も多いことでしょう。軍事力の裏づけも確かに必要ですが、それだけではダメなのです。

軍神・項羽は、劉邦に100戦100勝でしたが、最後の最後で一敗し、滅びました。戦いに弱い劉邦は、外交を重視し、味方を増やしていったのです。

また、連戦連勝だった日本軍は、弱い中国国民党に敗れました。弱い中国は、情報戦、外交戦を重視し、アメリカ、イギリス、ソ連を味方につけていた。いくら日本軍が強くても、アメリカ、イギリス、ソ連、中国を同時に敵にまわして勝てるはずがありません。

軍事力も大事ですが、他国との関係を悪化させないよう、細心の注意を払う必要があるのです。

しっかりとした、世界の誰も文句をいえない世界観をもつこと。それを政策と大戦略に転化すること。そうしてこそ、「真の国益」に沿った政策、外交が可能になります。

日本に幻滅する必要はありません。実を言うと、アメリカも、欧州も、中国も、ロシアもみんな揺れているからです。

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ロシア政治経済ジャーナル』(2016年5月26日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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