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出前館、株価ピークから95%下落…今こそ買い?成長が見込める3つの理由と乗り越えるべき3つの壁=天野博邦

近頃また競争が激しくなっている感があるフードデリバリー業界。出前館<2484>は言わずと知れた日本を代表するフードデリバリー企業(創業1999年)。今回は、変革期にある出前館について、筆者が「買い」と考える理由と乗り越えるべき課題について解説する。(天野博邦)

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プロフィール:天野博邦(あまの ひろくに)
作家、投資家、経営コンサルタント。1982年山梨県生まれ。東北大学大学院卒(量子情報理論)。金融・コンサルティング業界を経て、2024年に独立。海外勤務の経験から主に欧米企業の企業分析が得意。日本をいかにより良い国にできるかをテーマとして執筆活動を行っている。

なぜ今「出前館」か

出前館について、あなたはどんなイメージをお持ちだろう。

  1. 「フードデリバリーの会社でしょ?」
  2. 「ユーザー数が減っているらしい」
  3. 「赤字という報道を見た気がする」

この3つの問いに対して、「Yes」か「No」かは慎重に考える必要がある。

(1)については、飲食品に加えて今後は医薬品や日用品なども宅配する。

(2)については、ユーザー数はピーク時より減っているものの、コロナ以前と比べると増えている。また今後はYahooとLINEの顧客基盤を活用するため、ユーザー数は増える可能性が高い。

(3)については、実は赤字は縮小傾向にあり、黒字化も視野に入ってきている。

今回「出前館」を取り上げる理由は、ズバリ「買い時」だと筆者が考えるからだ。

出前館は「今が買い!」と言える3つの理由

<理由その1:第二の創業期>

筆者は企業の将来性をチェックするときに、その企業の「採用情報」を確認する。採用情報において欠かせないのが、どんな人物像を求めているのかの記載だ。出前館にはそれが明記されている。そして、募集ポジションによっては、参考情報へのリンクが貼ってある。例えば「コーポレートIT」の募集ページには、エンジニアブログが紹介されている。また「経営企画」の募集ページでは、CEO・CFOからのメッセージ…といった具体だ。

採用ページのCEOメッセージには「出前館、第二章のスタート」と書いてある。
※参考:株式会社出前館 採用情報

出前館は現在、LINEとの業務提携により「第二の創業期」と言っても過言ではないフェーズにいる。デリバリーサービスをリードするために、プロダクトの大幅リニューアルや新規開発が進行中だ。

出前館は従来のフードデリバリーにとどまらず、今後は「クイックコマース」として進化することを掲げている。テクノロジーの力で社会の変化(ニーズ)に合わせて様々な商品を即日配達するということだ。出前館が目指しているのはクイックコマースでトップに立つこと。それは爆発的な成長を意味する。

<理由その2:エコシステムの活用>

出前館はLINEヤフーの傘下にある。今後はLINEとYahooの顧客基盤を使う予定で、競争相手との差別化になる。

これはユーザー数を増やして売上を伸ばすことにおいて当然重要だが、加えて、マーケティングの費用対効果が大きいと筆者は見る。

営業利益が赤字である理由の1つには、マーケティング費用がかさんでいることが挙げられるだろう。LINEヤフーという最強のエコシステムの中で、費用を抑えつつ顧客を取り込む施策はあるはずだ。

また人材面でも、グループ会社から出前館へトップクラスの人材を送りこみ、変革にドライブをかけて課題の解決を加速させるべきだ。

LINEヤフーとしても、LINEとYahooというデジタルが主戦場のデータソースに加えて、出前館というリアルの世界でのデータを集めてグループのシナジーを高めることが重要だ。

Next: まだある「買い」と言える理由。成長のために乗り越えるべき課題は?



<理由その3:現在の株価は割安>

6月27日現在、時価総額は295億円。一方、現金は409億円もある(しかも有利子負債はゼロ)。つまり、時価総額を払って出前館を買収すれば、買収に支払った金額以上の現金が手に入る。タダで買えるようなものだ。

このように割安な株価となっているのは、ユーザー数の減少、利益が赤字であることが大きいだろう。逆に言えば、このような課題を解消すれば、株価は大きく上昇することが見込める。

現在の株価は200円ほどだが、4,000円になれば20倍株だ。実際、株価は2020年12月18日に史上最高の4,200円をつけている。

出前館<2484> 週足(SBI証券提供)

ここまで出前館を「買い」と言える理由について解説したが、今後の成長のために乗り越えるべき課題についても解説しておきたい。

出前館が乗り越えるべき3つの課題

<課題その1:ユーザー体験の向上>

グーグルで「出前館 口コミ」と検索して調べると、「責任はすべて配達員のせいにする」「サポートがゴミ」などのネガティブなコメントが見られる。ユーザー体験の向上が必須と言えるだろう。

このようなユーザーと配達員からのフィードバックを積極的に拾いあげて、配達のプロセスを改善していくことが絶対に必要になる。これができなければ、この会社には将来性はないだろう。

この改善については、人手とテクノロジーを組み合わせて着実に課題を解決していくと決めて、会社の重要課題として取り組むことが必要だ。今後、LINEヤフーのエコシステムを活用することで、ユーザー数が増えることは確実だろう。しかし、ユーザー体験を向上させなければ、ユーザー数には下降圧力が常に加わる。ユーザー体験の質を改善することは、最高のマーケティングでもあるのだ。

また「X(旧ツイッター)」では、ペダル付き原付バイク「モペット」で危険な(無免許)運転をする配達員の動画が投稿されている。企業イメージとしても、一度でも問題になったら大きなダメージを負うことになる。

例えば、このモペットについていえば、配達に使う乗り物を画像付きで登録してもらいつつ、配達時の速度を測定すれば、自転車なのに早すぎるというのはシステム(AI)が判定してくれるだろうから、技術的な面からも対策は打てるだろう。

「社会に必要なインフラとなる」ことを出前館は標榜しているわけなので、社会的に不適切な行為は最優先で防ぐという対応が必須になる。

<課題その2:収益性の確保>

収益性を上げるためのポイントは、当然であるが以下の2点だ。

  1. 売上を伸ばす
  2. 費用(コスト)を減らす

売上についてはやはり、「顧客体験の向上」「エコシステムの活用」「効果的なマーケティング」が重要になる。

コスト削減については、売上原価(配達員への報酬など)が売上の80%はかかるということ、また劇的には変えられない(削減できない)という理解が必要だろう。

では、コストをどこで削減するのか。人件費はむしろ、どんどん増やしていいと思う。重要なのは、いかにタダのマーケティングを実現するかだ。つまり、SNSの活用、口コミの活用、グループ会社の活用、コンテンツの配信、コミュニティの形成などなど。繰り返しになるが、良好なユーザー経験は、最高のマーケティングになる。

企業を投資対象として評価する場合の1つのベンチマークは、営業利益率が10%以上あることだ。前述のように売上原価が80%ある時点で、営業利益率の枠は20%しかない。

長期的な目線では、人件費などの管理コストを売上の5%、マーケティングを0%とすれば、営業利益率は15%になり、高収益の企業になりうる。最低でもコストを10%に抑えることができれば、営業利益率10%を確保できるだろう。

実際、2019年8月期の決算説明会資料にある「直営拠点の拡大とマーケティング等への先行投資によるコスト増」によって営業利益がマイナスになる前、2015~2018年の間の各年の営業利益率は14~16%だった。

Next: 出前館は「買い」か?直面している3つ目の課題とは…



課題その3:LINEヤフー傘下として生まれ変われるか?

出前館は、LINEグループの傘下になったという経緯がある。それはつまり、従来から在籍している社員と、LINEの傘下になってからLINEあるいは外部から入ってきた社員など、背景が異なる人材がいることを意味する。

待遇や評価において、親会社・グループ会社との垣根をできる限り最小化し、優秀な人材を出前館に送り込んだり、グループ間で協業することを推進していくべきだろう。

いま出前館がやろうとしていることは、長年やってきたフードデリバリーの延長ではできないことだ。競争の激しいクイックコマースで優位に立つには、AIをフル活用している競合のグローバル企業と戦って勝つ必要がある。それには、LINEやYahooと協業するといった、いわば「ビジネスモデルの再定義」が必要になるだろう。そのような変革期にあるため、優秀な人材の確保と、LINEヤフー傘下としてグループの強みを活かすことが重要になってくる。

LINEヤフーは、グループ内の赤字企業を高収益企業に立て直すことができるのか。それが問われているとも言えるだろう。

まとめ

出前館は現在、業績回復に向かっており、黒字化も視野に入りつつある。今後、LINEヤフーグループの一企業として成長が見込めるだろう。一方で、業績を回復するにあたっては、顧客体験の向上、収益性の確保、グループとしての一体感…といった課題を乗り越える必要がある。

いま足元では、時価総額が現金より低いという割安の株価となっている。そのため、さらなる下落リスクは限定的とも言えるし、少額から投資しやすくなっている。

今後、出前館がホンモノかどうかをチェックしていきつつ、まずは少額から投資を始めて、上昇が見込めそうなら徐々に買い増していくのがよいと考える。出前館への投資を検討するのであれば、まずはサービスを使ってみること、ホームページで会社を知ることから始めてみてはいかがだろうか。

image by: T. Schneider / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2024年6月28日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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