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実は庶民向け?成城石井の「思わず買っちゃう」すごいブランド力とビジネスモデル=山口伸

成城石井は高級スーパーの代表格として知られる。輸入ワインやチーズなども扱い、商品は高品質な印象がある。巷では年収2,000万円の人をターゲットにしているとも言われる。しかし近年では庶民的な街にも進出し、幅広い客層を集めている。調べてみると意外と庶民的な価格帯であり、ブランドが集客力となっていることが分かった。(山口伸)

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プロフィール:山口伸(やまぐち しん)
本業では化学メーカーに勤める副業ライター。本業は理系だが、趣味で経済関係の本や決算書を読み漁っており、得た知識を参考に経済関連や不動産関連の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。

経営陣は牛角からローソンへ

成城石井は1927年に世田谷区・成城で開業した食料品店をルーツとする。

1973年に息子の石井良明氏が継ぐと当時のスーパー業態の成長にあやかり、76年からスーパーマーケットとして営業を開始した。成城という土地柄、海外経験が豊富な住民や富裕層も多く、彼らの要望に答える形で現在のような店舗となったようだ。

1988年、神奈川県の青葉台に2号店をオープン。1996年には初のセントラルキッチンを稼働し、以降は工場で自社の総菜を生産するようになる。97年に初のエキナカ店舗を恵比寿にオープンし、以降は駅ビル内での出店を加速させた。

2004年、成城石井の経営権は創業家からレインズインターナショナルへと移る。『牛角』や『土間土間』などの業態を運営するレインズだが、2000年代初頭に起きたBSE問題により牛角業態の業績が悪化。多角化を目的に小売業態を強化した。同年にはコンビニの『am/pm』も買収している。

しかしレインズ傘下で業績は伸びず、本体の業績悪化もあり、成城石井は2011年に三菱商事系のファンド「丸の内キャピタル」へ売却された。2013年に100店舗を達成、14年にはローソンが買収した。ちなみにローソンも三菱商事傘下である。

ローソン傘下で成長が加速

ローソンは買収当初、成城石井に物流や店舗運営におけるノウハウを提供するとしており、実際にローソン傘下で成城石井は成長した。

成城石井事業の営業総収入は2016年2月期の690億円から、2020年2月期には1,030億円へと拡大。この間、直営店の店舗数も120から155へと増えている。FCや他業態も含めれば138店舗から183店舗に伸びた。

コロナ禍では巣ごもり需要に支えられスーパー業界全体が好調に推移、成城石井も業績を伸ばした。20年3月期末から24年3月期末まで総店舗数は以下のように推移している。

183店 →193店 → 201店 → 208店 → 216店

途中でローソンは会計基準を変更したため単純比較できないが、24年2月期における成城石井事業の総収入は1,125億円である。

2022年には町田の2工場に続いて神奈川県大和市に第3工場を構えた。第3工場の延床面積は2工場合わせた面積の1.8倍だという。

Next: 実は割安?特徴的な立地と商品構成



特徴的な立地と商品構成

価格帯の違いもあるが、他のスーパーと比較して成城石井が特徴的なのは「立地」と「商品構成」だ。

現在、およそ7割の店舗が首都圏に位置する。首都圏・中京・関西など幅広い地域に出店しているが、そのほとんどが駅ビルや駅近辺の立地に店を構える。北関東や地方でも新幹線が止まるようなターミナル駅に出店する。

出店戦略について公式サイト「高所得者層の居住比率も出店基準の目安」と記載しており、“高所得層の利用客が多い駅”が目安のようだ。一方で亀戸や北千住など庶民的な街にも出店していることから、乗降客数も目安なのだろう。

商品構成については、商品1SKUあたり1~2列のみを陳列し、数よりは種類を充実させる戦略をとっている。商品棚も他のスーパーより高い位置まで伸びているため、狭いエキナカの店舗とはいえ商品数は多い。買い物には目的買いだけでなく、衝動買いを楽しむ目的もある。商品数の多さはレジャー要素をもたらし、消費者がつい寄ってみたくなる店舗づくりに貢献しているといえる。

また、通常のスーパーでは野菜・肉・魚の生鮮3品を取りそろえるのが定番だが、成城石井では約半数の店舗が3品を揃えていない。日持ち品や総菜、酒類に力を入れている方針だ。ちなみにワインなどの輸入品は子会社の「東京ヨーロッパ貿易」を通じて仕入れ、中間マージンを省いている。

客を惹きつける総菜とスイーツ

単に高いものを扱うだけではここまで伸びなかっただろう。年収2,000万円云々の噂とは裏腹に幅広い客層が入店し、夕方は普通のスーパーのように賑わう。

そして客を惹きつけているのが成城石井が自社で製造するスイーツと総菜だ。これらの商品は入口付近に置いているため、集客手段にもなっている。1本1,000円しない「プレミアムチーズケーキ」は看板商品の1つであり、税込300〜400円台のカップスイーツも評価が高い。概ね500~700円台のサラダや総菜も人気を集めている。「スペイン風肉団子」「5種海鮮の旨味ブイヤベース風スープリゾット」のように、普通のスーパーに無い凝った商品が多い。

口コミを見ると確かに味も評価されているが、人気の背景には成城石井が持つ「高級スーパー」としてのブランド力も関係しているのではないだろうか。成城石井の商品というだけで高品質を印象付ける。

一方で値段自体はそこまで高くない。先述のプレミアムチーズ、デパ地下などの専門店では1本2,000円に上ることもある。ケーキ類も専門店と同等程度。総菜も普通のスーパーよりは高いが『RF1』などの専門店と同じかそれ以下のレベルだ。そして、価格表示は税別で399円、599円のように、かつてのサイゼが採用していた「端数価格表示」が多い。端数価格は消費者を錯覚させ、安い印象を与える。

つまり成城石井は商品に高級スーパーとしてのブランド力を付与しつつ、実際にはリーズナブルな値段で提供することにより、集客に成功している。入口付近の総菜やスイーツで釣り、他の商品も買わせる構図だ。現状、総菜などの自社製造商品の売上比率は2割だが、今後は30%まで伸ばしたいとしている。先述の第3工場の新設もそうした背景がある。

Next: 上場計画は断念。今後の成長戦略は?



上場計画は断念

2022年9月、親会社のローソンは成城石井について東京証券取引所へ新規上場申請を行ったと発表した。業界3位としてさらなる成長を目指すローソンにとって、成長投資のための資金を確保したい狙いがあった。ローソンと成城石井は、提供する商品は共通しておらず、両者が一緒になることのシナジーはもともと薄い。

しかし同年内に上場申請を取り下げた。当時は市況が悪化しており、期待するような投資を見込めないことが理由のようだ。一方で今年5月にはローソンの竹増社長が成城石井の会長に就任するなど、親会社の関与を強めるような動きも見られる。

一般的なスーパーの営業利益率が2%以下であるのに対し、高付加価値の成城石井は6%以上であり、10%を超える年度もある。上場で巨額の資金が手に入るが、高収益事業を手放したくない思惑もあるのだろう。経営陣の意向に注目したい。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2024年6月28日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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