カリフォルニア州では950ドル(約10万円)未満の万引きや窃盗を重罪に問わないという法律ができて、貧困層がドラッグストア・ディスカウントストア・スーパーに次々と集団で押し寄せて、大きなバッグに商品をつめ込んで盗み放題になっていった。この中で小売店がどう生き残るのか?(『
鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編
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プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。
アメリカで問題になっている大量万引き
大きなバッグに商品をつめ込んで盗み放題
大量万引きはアメリカにおいて重大な問題となっている。この現象の背後には、経済的要因、社会的要因、そして法的要因が複雑に絡み合っているのだが、とくに注目すべきは、多くの州で軽犯罪に対する罰則が緩和されたことにある。
そもそも、なぜ軽犯罪に対する罰則が緩和されたのかというと、弱肉強食の資本主義が進み、貧困層が増えて逮捕者が過剰になったことにある。アメリカの刑務所は長年にわたり過剰収容の問題を抱えており、多くの州がこれに対処するための方策を模索してきた。
結局、アメリカが選んだのは軽犯罪に対する罰則を緩和することで、刑務所の負担を減らし、資源をより重大な犯罪の管理に集中させることだった。しかし、これが裏目に出た。
たとえば、カリフォルニア州では950ドル(約10万円)未満の万引きや窃盗を重罪に問わないという法律ができて、貧困層がドラッグストア・ディスカウントストア・スーパーに次々と集団で押し寄せて、大きなバッグに商品をつめ込んで盗み放題になっていった。
これによって、小売店が次々と閉店して、街がどんどん荒廃するという有様となっている。もう、カリフォルニアでは「街の小売店は成り立たないのではないか?」という状況だ。
そんな難しい小売店の経営の中で、店も客も商品も安全なスタイルはどういうものなのかというと、もしかしたら「コストコが最適解」になるのではないかと考える人が多くなった。実際、コストコの株価は右肩あがりに上昇している。
コストコのスタイルが恒常的な万引き・大量万引きを防止する機能を持っているのはなぜだったのか。
それには3つの要因があった。
万引きをするリスクの高い層が弾かれる
コストコ・ホールセール(Costco Wholesale)は非常に変わった形態の小売店だ。「郊外」に大きな倉庫型の店舗を持ち、装飾やディスプレイに費用をかけず、徹底的に効率的なレイアウトを採用して運用コストを下げている。
さらに、コストコは「会員制システム」を取っている。つまり、この店を利用するためには、まず会員になる必要がある。会員は個人向けのゴールドスター会員と法人向けのビジネス会員という2種類の会員資格があり、さらに上位のエグゼクティブ会員も存在する。
まずは年会費を払うことで、コストコのすべてのサービスや商品を利用することができる。逆にいえば、年会費を払っていない人は入口で弾かれる。
そして、コストコは各商品が「大容量」で販売される。大容量なので店は単価を抑えることができ、結果的に低価格で商品を提供することが可能になる。客のほうも1回の購入で大容量を低価格で買えて長期間使用できるので便利だ。
ここで「郊外」「会員制システム」「大容量」という3つのキーワードが出てきた。このコストコの3つの特徴こそが恒常的な万引き・大量万引きを防止する機能になっていたのだった。
まずはコストコにいくには郊外まで車でいく必要がある。つまり、コストコの購買層は必然的に車を持っている層になってくる。
街のドラッグストア・ディスカウントストア・スーパーで万引きをする人々は、車も保有していない層が多い。あるいは、車はあってもガソリン代を払えない人もいる。そうした人々は、まずコストコは利用しない。
ここで、コストコで万引きをするリスクの高い人々が弾かれる。
さらに、コストコは「大容量」で商品を販売する。こうした大容量の商品を買うのはファミリー層である。家庭を持っている人たちは、恒常的な万引きや大規模な万引きをやったりするリスクは低い。
年会費を払えなければ店の中に入ることもできない
そしてさらに、この「大容量」がまた貧しい人たちを遠ざける。
なぜなら、大容量の商品を買ったら、収納する場所も必要だし、それが食品であった場合は大型の冷蔵庫が必要になるからだ。つまり、必然的に中流以上の層がコストコに集まることになる。
中流層以上はきちんとした仕事があるので、通常は、逮捕されたり、起訴されたり、刑務所にいくようなリスクは避ける。そもそも、ある程度の金があるので、万引きを考えるような発想にならない。
極めつけは「会員制システム」である。コストコでは、モノを買う前にまずは年会費を払わなければならないのだ。年会費がどれくらいなのかというと、個人向けでは、ゴールドスター会員で60ドル。エグゼクティブ会員で120ドルとなっている。
ここで60ドルや120ドルの年会費を払えるということは、利用者は計画的に消費できる経済的余力があることを示している。そして、恒常的にコストコを利用して大容量の商品を買い込む能力があるということも示している。
通常、貧しい人たちはモノを買う前からそういう年会費を払うことはない。そういう経済的な余裕もないし、会員になったとしても、毎回そこにいって支払いができるのかどうかも危ういので、なおさらコストコの会員にならない。
そして、年会費を払えなければ店の中に入ることもできないのだから、「年会費」自体が貧しい人たちを遠ざける。
つまり、コストコは「郊外」「会員制システム」「大容量」という3つのきわめて独特のシステムによって、街の小売店に吹き荒れる「大量万引き」という危険な事態から完全に防御する仕組みを備えたのだった。
「店も客も商品も安全なスタイルはどういうものなのかというと、コストコが最適解になるのではないか」と考える人が多いのは、そういう理由があった。
治安悪化の中で生き残れる小売店のひとつ
アメリカは世界最強の資本主義社会であり、世界最強の大国でもある。しかし、弱肉強食の資本主義に突き進んでおり、アメリカ国内では貧困層が4,000万人以上も存在する。そして、その貧困層がインフレによってダメージを受けており、大量万引きのような深刻な犯罪はどんどん増えていく。
このような中で、ドラッグストア・ディスカウントストア・スーパーなどの小売店はバリケードを張り、商品には厳重に鍵をかけて防御するか、いっそのこと閉店してオンライン販売に切り替えるような手を打つしかなくなってきている。
そんな中でコストコは徹底的に中流階級以上だけが来店できるようにシステムを作っていて、それが成功している。いってみれば、顧客を分離して、自らが望む層だけを取り込むことに成功したといえる。非常に巧妙なビジネス選択である。
中流階級が満足できるような商品選定においては、品質・価格・供給能力のすべてを厳しくチェックし、さらに自社ブランドである「カークランド」も展開して品質を保っている。こうした施策がすべて店の売り上げにつながっている。
株式としてのコストコ(ティッカーシンボル:COST)を見た場合でも、このビジネスモデルの成功によって、多くの投資家にとって魅力的な投資対象となっている。
COSTCO WHOLESALE CORP <COST> 週足(SBI証券提供)
コストコは会員制ビジネスモデルにより、安定した収入を確保しやすく、経済の変動に対しても比較的強い耐性を持つ。会員数の増加や既存会員の更新率の高さが収益の安定に寄与している。会員の更新率は90%を超える。これは顧客満足度が高いことを示している。
コストコは大量仕入れによるコスト削減と、薄利多売のビジネスモデルを組み合わせることで、他の小売業者に対して高い価格競争力を維持している。コストコは非常に健全な財務基盤を持っている。負債比率が低く、現金流動性が高いため、経済の変動や市場の不確実性に対しても強い耐性がある。
今後もコストコは治安悪化の中で生き残れる小売店のひとつになるだろう。アメリカが貧困で荒れ狂えば荒れ狂うほど、コストコは独特の輝きを増す。皮肉なことでもあるが……。
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2022年7月配信分
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2022年5月配信分
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2022年4月配信分
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2022年3月配信分
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2022年2月配信分
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2022年1月配信分
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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2024年7月4日)。
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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弱肉強食の資本主義が蔓延し、格差が急激に広がっていき、いよいよ日本人の間にも貧困が蔓延するようになってきています。経済暴力の中で日本人がどのように翻弄されているのかを、危険なまでの率直さで取り上げ、経済の分野からいかに生き延びるかを書いているのがこのメルマガ編です。