日産自動車は2024年9月期の中間決算を発表し、売上減少に加え、営業利益が前年比90%以上減少する深刻な結果となりました。主因はアメリカ市場での販売不振や、中国市場でのEV戦略の失敗にあります。さらに、世界的なEV政策の転換やBYDなど競合他社の台頭が経営を圧迫。内田社長は役員報酬の自主返上などの施策を発表しましたが、将来への課題は山積です。今回は日産の苦境の背景を探ります。(『 らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』原彰宏)
※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2024年11月18日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
どうした日産、減益90%超…
11月7日、日産自動車は2024年9月期の中間決算を発表しました。その内容は「世界の日産」の凋落ぶりを示す惨憺たるものでした。
発表によれば、売上高こそ5兆9,842億円と、前年同期比で1.3%の減収で済んだものの、本業の儲けを示す営業利益が、前年の3,367億円から90.2%減の329億円。
会社では経営の立て直しに向けて、世界で生産能力を20%削減し、9,000人の人員削減を行う方針を明らかにしました。また、保有する三菱自動車工業の34%の株式のうち、10%を上限として三菱自動車工業に売却するとしています。
最終的な儲けを示す純利益も「93.5%減」の192億円と大きく落ち込んでいます。
※参考:日産 90%超の大幅減益 世界で9千人削減へ – NHK(2024年11月7日配信)
さらに、経営責任を明らかにするため、内田誠社長が今月から役員報酬の50%を自主返上するとしています。もともと年収は6億5,700万円ですけどね。
90%超の減益?……大幅な減益の原因は、主力のアメリカ市場での販売不振や中国市場でのEV戦略の失敗と分析されています。
キーワードは「世界的なEV車への逆風」……内田誠社長は、オンライン会見で、「アメリカ市場についてハイブリッド車、プラグインハイブリッド車の需要が急速に高まっており、現在、こうしたラインナップを持っていない当社は苦戦を強いられている」と述べています。
世界的流れは「電気自動車からハイブリッド車へ」。さらにここに来て、米国ではトランプ氏が大統領に返り咲きました。
トランプ次期米大統領の政権移行チームは、バイデン政権が導入した、電気自動車(EV)購入者に対する最大7,500ドルの税額控除の廃止を計画しています。
※参考:トランプ政権移行チーム、EV税控除の廃止を計画=関係筋 – ロイター(2024年11月15日配信)
また、ガソリン車に対しても、次のような発言をしています。大統領選挙前の記事ですが、トランプ氏は、自身が大統領に返り咲いたら、どの州もガソリン車を禁止できなくなると述べています。
※参考:トランプ氏、州のガソリン車禁止認めない方針 ミシガンで演説 – ロイター(2024年10月4日配信)
当然、バイデン大統領が復帰した「気候変動枠組締結会議(COP)」からは、脱退する意向でしょうね。
そうでなくても、今世界中で「地球温暖化対策疲れ」が叫ばれています。
欧州連合(EU)は、2035年にガソリンなどで走るエンジン車の新車販売をすべて禁止するとしてきた方針を変更し、環境に良い合成燃料を使うエンジン車は認めると表明しています。
エンジンの全面禁止により電気自動車(EV)シフトを世界に先駆けて進めてきたEUの政策が大きく転換しています。
過度な温暖化対策に疲弊した欧米
「グリーン・インフレーション」という言葉もあります。
環境に配慮した企業活動を示す「Green(グリーン)」と価格の上昇を指す「Inflation(インフレーション)」を組み合わせた造語で、気候変動対策に起因する物価上昇を意味します。
グリーンインフレーションの要因としては、以下などが考えられます。
・脱炭素化に伴う需給ひっ迫
・脱炭素化に伴う企業の設備投資が価格として転嫁されること
・脱炭素化の推進政策(温室効果ガスの排出に費用負担を求めるカーボンプライシング制度の導入など)に伴う価格上昇
日産自動車の内田誠社長は中国市場について「ここ数年、現地メーカーの新エネルギー車が急速に増加している。その影響で当社を含むメーカーが主戦場とする市場が縮小している」などと述べました。
最近の極端なEVシフトの失敗を認めているわけで、いずれも「何をいまさら」と首をひねりたくなる分析だという、厳しい見方もあります。
Next: 売る車がない日産…90%超の減益は序章に過ぎない?
売る車がない日産
日産には売る車がない…。
EV車を考えても、同じ性能なら安価な中国BYDのEV車が世界的シェアを伸ばしています。
世界の電気自動車(EV)市場で2023年の世界シェアは、米テスラが19.3%、中国・比亜迪(BYD)は16.0%とそれぞれ前年比で1.8、4.0ポイント上昇しました。
各社が新モデルを多く投入し競争が激しくなるなか、米ゼネラル・モーターズ(GM)や日産自動車・三菱自動車・仏ルノー連合など上位の3陣営がシェアを失い、2強の強さを裏付ける結果となりました。
※参考:世界EVシェア、失速は米・韓・日仏の3陣営 テスラ・BYD上昇 – 日経モビリティ(2024年2月16日配信)
要はEV車の世界では、世界的普及が各国の政策転換で困難になり、さらに現存のEV車の市場では、安価な中国BYDがそのシェアを伸ばしている、実に“狭く”て“将来が見通せない”市場に、日産自動車は傾注しすぎたあまりの経営不振と言えそうです。
トヨタは、EV車ブームの中でも自社特有のハイブリッド車は温存、自社開発の水素エンジン車、更には既存のガソリン車と幅広くラインナップを崩さないで、どの分野にも対応できるようにしていたところに、他自動車メーカーと差別化を図っていました。
上記、日経の記事の中にも中国BYDの勢いの良さが載っています。
BYDはテスラ以上の躍進を見せた。BYDはプラグインハイブリッド車(PHV)でも強みを持ち、PHVとEVを合わせれば会社発表による年間販売は62%増の302万台となった。うちEVのみなら73%増の157万台と、攻勢を強める。
地球温暖化対策は重要ですが、急激な対策は、わたしたちの生活にも影響を及ぼしますし、経済をも壊すおそれがあります。
今月、気候変動に関する国連の気候変動会議、「国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)」が、議長国を務めるアゼルバイジャンの首都バクーで11日に開幕しました。
石油産出国でのCOP開催は、昨年のアラブ首長国連邦(UAE)ドバイに続き2年連続となります。
COP28では、各国は化石燃料からの脱却に合意しましたが、どのくらいの早さで脱却するのかについては言及しませんでした。
化石燃料との付き合い方が、従来までのムーブメントとは異なるようです。化石燃料でも二酸化炭素排出を抑える技術も発展してきています。地球温暖化対策は重要ではありますが、おそらくトランプ氏が米大統領に返り咲いたことで、その方法を見直す動きが出てくるのでしょうね。
日産自動車の90%超の減益は、その象徴の一つに過ぎないような気がします…。 ※2024年11月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、以下の号がすぐに届きます。 ※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2024年11月18日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。 ※初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込330円)。
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