マネーボイス メニュー

国立大学病院「7割が赤字」の衝撃。医療現場からも悲鳴、地域医療の存続危機へ=原彰宏

全国の国立大学病院の経営が危機的な状況に陥っている。2024年度決算は過去最大となる285億円の赤字に拡大し、病院全体の約7割が赤字経営となった。自治体病院に至っては9割超が赤字に沈み、地域医療の根幹を揺るがす深刻な事態だ。人件費や物価の高騰に加え、診療報酬が縮小傾向にある中で、医療機関の経営悪化は倒産件数の増加という形でも表面化している。政府は補助制度を打ち出してはいるものの、現場からは「このままでは大学病院が潰れる」との声も上がる。医療崩壊は本当に避けられるのか…。(『 らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』原彰宏)

【関連】牛を殺せば助成金…政府に振り回される酪農家たち。過去最悪レベルの「牛乳ショック」で毎日生乳廃棄へ=原彰宏

※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2025年8月11日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

全国国立大学病院の7割が赤字、このままでは医療崩壊へ

全国にある国立大学病院の2024年度の決算が、過去最大となる285億円の赤字になったそうです。赤字の病院は全体の7割近くに上っています。2023年度はおよそ60億円の赤字で初めて赤字に転落しましたが、今回はさらに大幅な減益となりました。

自治体病院に至っては、2024年度は86%が赤字経営、なんと95%が医業赤字に陥っています。過去最悪です。病院全体でも、2024年度は約6割の病院が赤字経営となっています。

赤字の主な原因は「人件費の高騰」や「物価上昇に伴う控除対象外消費税の支払い増加」と言われています。

全体経費の人件費割合が大きい飲食店と同じで、人件費と仕入れ額上昇は経営を逼迫します。収入である「診療報酬」は縮小傾向にあります。

病院経営における「家計簿」は、「収入の部」の数字が毎年減っていて、「支出の部」の数字が近年特に多くなっているといった状況です。

病院規模別でみると、400床以上の急性期医療を担う大規模病院ほど赤字が増大しています。

消費者物価指数が3%を超える中、人事院勧告(委員会)に準拠してベースアップを求められることから、2025年度決算はさらに厳しくなる見通しです。

病院の「倒産」が相次ぐ…

もっとシビアな数字の紹介ですが、2025年上半期に倒産した医療機関は全国で35件、倒産は過去最高となった昨年を上回るペースです。

内訳は、歯科医院が14件と一番多いですが、診療所が12件、病院も9件倒産しています。

やはり倒産の原因分析では、医療機器の価格や人件費、入院患者の給食費や光熱費が高騰する一方で、診療報酬がその上昇分に対応できないことによる収益の悪化だということです。

病院の倒産件数増加に関して帝国データバンクは「これまで小規模の事業者の倒産が多かったが、中規模の病院にも影響が及んできた。このままでは年間の倒産件数が初めて70件に達する可能性がある」としています。

人件費高騰が経営を圧迫している

社会風潮として、また選挙での票を意識しての政治家のポピュリズム政策へ傾倒する流れから、お金持ちのイメージがある、またどこかで不正会計と隣り合わせのイメージがある医療機関の収入である診療報酬を引き上げることは、難しいでしょう。

人件費高騰に関しては、来年度も最低賃金は上がる方向ではあります。

たしかに日本の賃金は安すぎますが、どの業種にも言えることですが、政府主導の強制的賃金引き上げは、中小零細企業にとっては死活問題になってきています。

まず先に収益を伸ばせる構造改革に舵を切るべきだと思います。DX化も含め、業務の効率化の検討があっての賃金上昇だと思います。賃金上昇に耐えられる原資の確保、収入確保があっての賃金上昇です。

一方で国が強制的に賃金を上げないと従業員給与額は上がらない、ということもよくわかります。

賃金のこととDXと構造改革、特に収益構造を総合的に考えることが必要なような気がします。それは医療業界に限ったことではありませんけどね…。

病院経営においても、DXの推進、AIの活用等、業務の見直しは必要です。

人件費を削減するということは“人を減らす”ということにも繋がります。業務の効率化は人員削減と“裏替えし”のところもあります。でも業務が滞らないようにDXの推進をはからなければなりません。DXが、人の職場を奪うと非難一辺倒のならないでほしいものです。

Next: 地方から医療機関が消失する?対策はあるか…



物価上昇で死活問題に…

次に「物価上昇に伴う控除対象外消費税の支払い増加」について考えます。

まず「消費税」は、本来、事業者の負担を求めるものではなく、商品やサービスの最終的な消費者が負担するものです。事業者は売上に係る消費税額から仕入れに係る消費税額を控除し(仕入税額控除)、差額を納付するものです。消費税は、本来事業者にとって「実質的な負担」となるものではありません。

ところが、公的医療保険でカバーされる医療(社会保険診療)は非課税取引です。したがって、医療機関等が社会保険診療を提供する際に、患者から消費税を受け取ることはありません。

でも、医療機関等が社会保険診療を行うために医薬品や設備等を仕入れる際には消費税を支払っています。

社会保険診療が非課税取引であるが故に「仕入税額控除」ができず、医療機関等が仕入れに際して支払う消費税は「医療機関等のコスト」になっています。

物価急騰に伴って病院の負担する「医療機関等のコスト(控除対象外消費税)」も増しています。

病院が負担する「消費税コスト」を、本来なら診療報酬に上乗せされることになっています。しかし、社会保障維持の観点から、病院経営赤字の原因としての「診療報酬引き上げ」が厳しい状況にあることも事実です。

収益の柱とも言える診療報酬は公定価格ゆえに「病院がコスト増を理由に引き上げる」ことができないことが主な要因となっています。

なにより“社会の空気”が、診療報酬を引き上げることに拒否反応を示しているような気がします。

政府ができることは?

日本の医療をどうしたいのか…。

政府としても動いてはいます。病院経営維持のための補助金などの制度はあります。政府もこうした状況を重くみて、2024年度補正予算に病院経営を支援する補助事業(医療施設等経営強化緊急支援事業実施要綱)を盛り込みました。補助額は、5床以上の優勝診療所は「許可病床数×4万円」、4床以下の有床診療所及び無床診療所、訪問看護ステーションで1施設18万円となっています。

国立大学病院長会議の大鳥精司会長は「医療現場では、新たな医療機器の購入や老朽化した設備の更新ができないといった問題が起きている。このまま支援がなければ、大学病院は間違いなく潰れてしまう」と危機感を示しました。

このままの状況が続けば、地域医療を支える自治体病院の経営悪化によって、特に地域の基幹病院では医療機能の維持が困難となり、結果として医療崩壊につながることが予想されます。

最後に、医療関係者の専門サイト「m3.com」の記事を紹介します。記事のタイトルが「開業医63%・勤務医52%『身近に閉院した医療機関がある』」です。この記事にある「閉院の理由」に注目します。ランダムに拾っていきます。

・患者さん減少と経費の増加で経営状態が悪化
・外来のみで病棟閉鎖になり病院の淘汰の時代
・診療報酬改定を受けて大幅に収入が減ったなどを理由とした閉院
・電子カルテへの苦手意識や導入負担を理由に、義務化を前に閉院を検討している
・サービス残業が増えている診療科もある
・先進医療を行う病院の経営は難しいのだろう。このままでは全国の国立大学病院は潰れていくだろう
・高齢引退、新規での落下傘開業がない
・患者離れ、施設の老朽化
・医師の高齢化、継承者がいない。地方都市(人口17万人)では普通の光景
・デジタル移行に伴う様々な手続きに対応できない
・スタッフ不足

引用:m3.com「開業医63%・勤務医52%『身近に閉院した医療機関がある』

有料メルマガ好評配信中。初月無料です

この記事の著者・原彰宏さんのメルマガ

<初月無料購読ですぐ読める! 8月配信済みバックナンバー>

※2025年8月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、以下の号がすぐに届きます。

2025年8月配信分
  • らぽ~るマガジン第696「全国国立大学病院の7割が赤字、このままでは医療崩壊が…」(8/11)
  • らぽ~るマガジン第695「大阪・関西万博会場には『TSUNAMI』は来ない…のかな?」(8/4)

いますぐ初月無料購読!

【関連】「NHKが映らなくても受信料を払え」裁判所まで不思議なことを言う日本。国民から毟り取った金でNHK職員は法外なまでの高給取り=鈴木傾城


※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2025年8月11日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>

※初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込330円)。

2025年7月配信分
  • らぽ~るマガジン第694「8月1日に、参議院選挙を受けての臨時国会が召集されます。」(7/28)
  • らぽ~るマガジン第693「参院選挙与党大敗、マーケットはどうなるのか…(再送)」(7/21)
  • らぽ~るマガジン第693「」(7/21)
  • らぽ~るマガジン第692「通常国会、積み残した重要法案」(7/14)
  • らぽ~るマガジン第691「日本は「四季」から「二季」へ…」(7/7)

2025年7月のバックナンバーを購入する

【関連】日本人は本当に生産性が低かった。私たちの年収が世界最速で下がるワケ=吉田繁治

【関連】「彼氏にしたい職業」上位はぜんぶ地雷、玉の輿に乗りたいなら○○な男を選べ=午堂登紀雄

image by: Horth Rasur / Shutterstock.com

らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』(2025年8月11日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中

らぽーる・マガジン

[月額330円(税込) 毎週月曜日]
絶対に知るべき重要な情報なのに、テレビなどが取り上げないことで広く知らされていないニュースを掘り起こし、また、報道されてはいるけどその本質がきちんと伝わっていない情報も検証していきます。情報誌は二部構成、一部はマーケット情報、マーケットの裏側で何が動いているのかを検証。二部では、政治や時事問題、いま足元で何が起こっているのかを掘り下げていきます。“脱”情報弱者を求める人、今よりさらに情報リテラシーを高めたい人はぜひお読みください。CFP®資格の投資ジャーナリストが、毎週月曜日にお届けします。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。