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日本におけるFX黎明期から業界を見続けてきた猪首秀明さん。現在のFX業界が抱える課題と、これから目指すべき方向性について語っていただきました。インターネット上に拡散する詐欺や誤った情報、そして海外FX業者の問題点。本当の意味での金融リテラシーとは何か、その本質に迫ります。
猪首秀明(いくび ひであき)氏プロフィール
1998年の外為法改正に伴い、ひまわり証券時代に日本初となる外国為替証拠金取引(FX)を商品化させ、その普及に貢献する。2012年に東岳証券の代表取締役に就任。2022年からはWikiFX Japan株式会社顧問の他、複数のFX関連企業の顧問を兼任。延べ3000人を超える個人投資家と接した経験から、個人向けの金融トレード運用アドバイザーとしても活動。【著書】FX初心者でも問題なし! MT4自動売買スタートマニュアル
聞き手:鹿内武蔵 本文:田中タスク
※ FX雑誌『外国為替』vol.8より再構成/インタビュー日:2023年9月20日
■前編はこちら
・日本でFXを生み出した男が語る、真実の業界史|猪首秀明氏インタビュー[前編]
詐欺や誤情報がFXをむしばむ
─現在のFX業界について、どのような問題を感じていますか?
猪首 ここ最近、特に増えているのがFX絡みの詐欺に関する相談です。知人だけでなく、面識のない方からも問い合わせがあり、その数は相当なものです。その影響もあってか「FX=怪しい」という先入観を持つ人が増えているように感じます。私は1998年からブローカー(FX会社)としてこの業界に関わり、投資家と同じ目線に立てる業界を目指してきました。それだけに、詐欺の横行によってFX全体が疑わしい存在のように見られてしまう現状は、非常に残念です。
2017年12月11日、ビットコインは当時の史上最高値である1BTC=233万円を付けた後に下落へ転じました。翌2018年はほぼ通年で下落が続き、同年12月には1BTC=35万円。高値からの下落率は実にマイナス85%という激しい展開でした。2017年の高値圏では、「投資といえば暗号資産」「暗号資産といえばビットコイン」「とりあえずビットコインを買えば儲かる」といったなんの根拠もない楽観論が渦巻いていましたが、この暴落によって多くの個人投資家が冷や水を浴びせられました。
その一方で、この出来事はFX業界にとって転機でもありました。暗号資産へと流れていた資金や人材が、再びFX市場へ戻ってきたのです。2017年以降、FXの参加者数も取引高も毎年過去最高を更新しています。この流れを私はFX業界の第2黎明期だと感じています。マーケット規模が大きくなることは、業界人として大変喜ばしいことですが、参加者が増えることにより、残念ながら詐欺案件なども急増していることも事実です。このことで本来FXとは全く関係のない事実や誤認によって、懐疑的に感じている人が増えてしまっているのです。
この時期にFXに流れてきた人がとても多く、出来高にもそれが表れていました。これがFXの第2黎明期だと感じていますが、詐欺が多すぎるせいでFXそのものに懐疑的な人が増えてしまっているんです。詐欺に至らないまでも、ネット上には不確かな情報や浅い理解に基づく論調があふれています。それが堂々と拡散されている現状は、見過ごせません。
─情報が多すぎると、取捨選択が難しくなりますね。時間や能力が足りない人ほど、情報洪水に飲み込まれてしまう印象があります。
猪首 明らかに間違った情報があまりにも多く、しかもそれが事実であるかのように流布しています。そのことを考えると、出所不明の情報があふれているネットよりも紙媒体の方が真面目だと思います。
─ネット情報は検索によって増殖します。どこかに書いてある内容は広がりますが、書かれていないことは広まりません。レバレッジや税制についても誤解が多いですね。
猪首 その点、『外国為替』はまともな情報を発信している数少ない媒体だと思います。スペースが限られているだけに掲載する情報も厳選されていて、無駄がない。発信者が明確になっていることもあって、情報に責任を持っているところにも誠意を感じます。
─紙媒体は基本的に1ページ目から順に読みますから、論理的に構成できますね。うちも社名が出ていますから、適当なことは書けません(笑)。
猪首 ネット情報は、点です。点で尋ねたことに、点で答えが返ってくる。そこに経緯やストーリーは含まれていません。今も新聞が好きなのは、お目当ての記事だけではなく下段部分の広告などから、そのとき注目されているものなどを知る機会があるからです。その意味で新聞には紙媒体としての意義があると思います。ネット全盛となっている今の時代であっても本の役割は健在で、何かを成し遂げている人はしっかりと本を読んでいる印象があります。
─一方で、ネット時代には検索力も求められますね。
猪首 新たに必要とされる能力です。その一方で、ネットが普及したことで退化した能力もあります。今どき、手書きで手紙を書くことはほとんどないので、漢字を読めても書けないなんてことは日常茶飯事です。Googleマップが普及したことで地図を読めない人も多くなったそうですよ。
─地図の使い方そのものが変化しましたね。
猪首 便利になること自体は悪いことではありません。しかしながら、ネットの情報は玉石混交です。FXに関する間違った情報を鵜呑みにすると損をしてしまうリスクが高いのに、それを訂正しても聞く耳を持たない人が多くなりました。明らかに間違っていても、です。
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海外FX業者の実態を正しく理解すべき
─海外FX業者の実情について、以前から警鐘を鳴らされています。
猪首 ネット上にある間違ったFX情報の典型例に、海外FX関連があります。例えば、自称「海外FXで儲けている人」のサイト。そこには、どんなに儲けても税率は20%で一律、なんてことが書いてあります。国内のFX会社であれば分離課税なので約20%で正しいですが、海外FXは基本的に総合課税扱いなので、累進課税です。そんないい加減な情報の発信者が「年収1億」なんて書いてるんです。本来であればこの人は5000万円くらいの課税額になっているはずですよね。本当にそれだけ稼いでいれば、の話ですが。
─あまりにも杜撰ですね(笑)。
猪首 これは極端な例ですけど、詐欺関連や不正確な情報がはびこっています。そんなFXの世界をもう一度健全にしたいというのは、第1黎明期を駆け抜けてきた私の願いです。明らかな詐欺、明らかに間違った情報。これらを撲滅する必要があることに加えて、問題だと思うのが自称「金融リテラシーの高い人」の情報です。「日本人は金融リテラシーが低いのでもっと投資の勉強を」といった論調をよく見かけますよね。こんなことを言っている人が、金融先進国の米国では、中学校や高校の授業で株とかのチャート分析を教えている、なんて言っているんですよ。そんなことあるか、と(笑)。こんなデタラメなことを言っている人が、日本でトレード教室を主宰していたりと。もう呆れるしかない。
─チャート分析は手法の一つであり、本質ではありませんね。
猪首 そうなんです。重要なのは、もっと広い経済や金融の仕組みを知ることです。米国は取引所文化なので、取引所がどんな役割を担っているかといったこともしっかり教育しています。この事実をどう解釈したら、チャート分析を教えているという話になるのか。結局、こうした発信者は日本の投資家を煽っているだけなんです。
─不安を煽って自分のスクールへ誘導する。要するに「ビジネス」なわけですね。
猪首 米国では子どももチャート分析を学んでいる、なんていわれて不安を感じた投資家に対して自分のスクールやサロンへの入会を勧めるというのも一つの手口でしょう。利益を大きくするために資産のほとんどをFXに投じるなんていうのも、正解ではありません。適切なポートフォリオを構築してリスクを管理しながら利益を最大化するのが正しい金融リテラシーです。
─海外FXを肯定する人たちはIB報酬など自分に何らかのメリットがある人です。海外FXのメリットとされるハイレバレッジやゼロカットもメリットとは感じられないです。
猪首 全くの同感です。日本では個人口座の最大レバレッジが25倍ですが、これでも十分ハイレバレッジです。
─海外FXの施策はどれもギャンブル的な要素を強めるものばかりで、トレードの上達に資するものではないかと。上級者向けすぎますね。
猪首 百歩譲っていえば、そうですね。上級者にしかメリットとはならないでしょう。海外にはFXの経験年数や取引回数によって、プロ認定された人だけがレバレッジを高くすることができる制度を設けている国があります。ハイレバレッジ取引にはそれだけの能力や資質が必要だということです。
金融先進国と比べて日本のレバレッジ規制は理不尽だという意見もありますが、実は金融先進国ほどレバレッジ上限は低いんです。米国や英国ではおおむね20倍や30倍程度です。米国や英国は誰もが認める、金融先進国ですよね。その一方で500倍や1000倍といったハイレバレッジを売りにしている会社ほど、金融レギュレーションは低いといえるのではないでしょうか。
─海外FXはNDDだから安心という意見がありますね。これについては逆だろうと思いますが、いかがですか?
猪首 そうですね(笑)。海外FX業者の中には、100%インターバンク市場に直結しているので信用できる、なんていっているところもありますが、実際そんなFX会社は皆無です。インターバンク市場の最低取引単位は、100万通貨です。個人投資家から出される1000通貨の注文をインターバンク市場でどう約定させられると思うのか?という話です。結局、そんなことを喧伝するのはIB報酬狙いの連中です。まことしやかに情報が拡散しているので事実であるかのように感じてしまう人が多く、今も海外FXに関する多くの誤情報は事実としてまかり通っています。
─出金トラブルも多いですね。
猪首 最初から1円も返す気がない海外FX業者がある以上、出金トラブルが起きるのは当然です。そもそも国内でFXビジネスをできなくなった日本人が海外で作った悪質な会社なのですから。詐欺もFXのあだ花といえますが、詐欺を働く連中もどこかのFX会社と組む必要があります。国内のまともなFX会社がそんな連中と組むわけがなく、結局は海外FX業者と組んで悪事を働くわけです。今、私のもとに寄せられるFX関連のトラブル相談はほぼ海外絡みといっていい状況です。
─日本国内のFX会社は厳しく管理されているので、そもそも悪いことはできませんよね。
猪首 厳しく管理されているから悪いことをしないというのは少々寂しい動機ではありますけどね(笑)。しかしながら、日本の規制が世界一厳しいというのは事実だと思います。取引所文化である米国では取引所への信頼は絶大ですが、相対取引への信用はそれほどありません。FX会社よりもシカゴのIMM通貨先物取引を好む人が多いのも、一つの証拠です。日本では取引所と相対取引があまり区別されていませんが、それにはFX会社への厳しい規制があるという環境も関係していると思います。
─そもそも海外で通貨を取引するのは金持ちだけというイメージがあります。
猪首 通貨だけでなく株も先物も、海外では1枚の取引単位が大きいです。米国の農産物取引では1枚が日本円で70万円以上になることもざらです。そんな常識を見てきたので、最近のFXイベントで若い人の姿が多いことには驚きます。20代、30代の人も珍しくありません。FXが個人投資家にとって身近な存在になったことの証左ですが、だからこそ詐欺の撲滅や間違った情報の修正にはこだわりたいです。
私が今後取り組んでいきたいことを整理すると、①FX詐欺の撲滅、②明らかに不正確な情報の修正、③金融リテラシーと称する不正確な情報の修正、そして④海外FX業者の日本での活動をなくすことです。
─先ほどから登場している「海外FX」という呼称なんですが、これだと海外旅行みたいで楽しそうにも感じるじゃないですか。海外であることが問題の本質ではないので、何か別の呼称はないですかね。例えば「無免許FX」みたいに。
猪首 それ、いいな(笑)。海外であることが問題の本質ではありません。海外資本であっても金融庁に登録をしている正規のFX会社はちゃんとあります。そういった正規の会社と区別するためにも、声を上げていくべきです。海外FX業者の中には日本のFX業者よりも資金力のあるところもあります。そんな業者が資金力を発揮して、海外FX養護派という名の怪しげなビジネスマンを創り出してしまっています。
─海外FXの中でも昔から日本で馴染みのあるような業者であればまだまし、という意見もあります。これについてはいかがですか?
猪首 聞いたことがないような名前のところは、もちろん論外です。ですが、会社が大きいから、昔から馴染みがあるから安心ともいえないと思います。日本の金融庁は、日本国内でFX取引サービスを展開するのであればちゃんと登録してくださいと海外に向けても発信をしています。海外FX業者はもちろんこのことを知っているので、登録の必要性を知りながら無視しているわけです。外資系であってもきちんと登録している業者があるのに、その一方で必要なことをせず無視し続けているスタンスは看過できません。資金力があるから大丈夫、馴染みがあるから大丈夫、ではなく、そのスタンスが問題なのです。
預かり資産の取り扱いについても、日本以上に安全なスキームはないでしょう。かつてスイスフランショックが起きたときには世界的な大手だったアルパリが破綻しました。そのせいで投資家も大きな損失を被りましたね。FXの世界ではこういうことが起きるので、投資家保護の姿勢はとても重要なんです。海外FX業者にそんな気があるはずはないのに、それでもお金を預けられますか?というわけです。
─今回はありがとうございました。(インタビュー日:2023年9月20日)
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