2012年、私はすべての資産をドルに換えた。周囲が「ドル凋落」を叫ぶなか、逆張りでそうしたのではない。日本の政治と財政を冷静に見れば、円こそが危ういと確信していたからだ。その後の展開は予想どおりになったが、私が本当に伝えたいのは為替予測の話ではない。円を持ち続けることの「見えないリスク」――インフレ、円安、人口減少、財政悪化が、いまこの瞬間も静かにあなたの資産を削り続けているという話だ。(『鈴木傾城の「フルインベスト」メルマガ編』鈴木傾城)
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プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。
蔓延していた「ドル凋落」論
2012年、世界の金融メディアは「ドル凋落」を声高に叫んでいた。リーマン・ショック後のアメリカ経済はまだ傷跡を引きずり、FRBの量的緩和が続くなかで「ドルは紙くずになる」という論調が市場を覆っていた。
ドルから逃げてゴールドや新興国通貨に資金を移す動きが加速していた。ドルという通貨は消えてアメロになるとか、そういうくだらない議論もあった。とにかく、あの時代の空気は明確に「ドル不信」だった。
一方で「円は50円の円高になる」「ドル円は10円になる」と馬鹿丸出しのことを言っている経済評論家もいたのだ。私はその空気にまったく同調できなかった。むしろ逆に、円こそが危ういと感じていた。
だから、2012年に資産をすべてドル資産にしたのだ。迷いなんかなかった。
2012年、私がすべての資産を「ドル」にした理由
円がダメだと思った理由は単純だ。日本の政治を見ていたからだ。2012年という年は、民主党政権が末期的な混乱を極めていた時期でもある。東日本大震災の復興予算は迷走し、エネルギー政策は宙に浮き、首相は1年ごとに交代を繰り返していた。
民主党だけの話ではない。それ以前の自民党もひどかった。日本の政治家たちは経済の本質的な課題である「財政赤字の膨張」「少子化対策の失敗」「産業競争力の低下」に対して、有効な対策を出せなくなっていた。
先送りと利権調整だけが政治の実態だったのだ。
財政については2012年時点で日本の債務残高はGDP比で200%を超えていた。先進国のなかで突出した水準にあった。これについては、日本国内で国債を消化しているのだから問題ないという意見もある。
しかし、外国の機関投資家がこれを問題視して円を売るだろう。それは時間の問題だと私は見ていた。そして日本政府も、円安でしか経済を活性化できないのは自明の理だった。実際、その後の展開はそのとおりになった。
2012年末に安倍政権が発足し、アベノミクスの名のもとに大規模な金融緩和がおこなわれると、円は急落した。1ドル75円台だった為替レートは、数年のうちに120円台へと動いた。ドルに換えていた資産は、それだけで大幅に増えた計算になる。
円保有という見えないリスク
私が伝えたいのは、自分の為替予測が当たったという話ではない。
問題の本質は別のところにある。政治家が財政を管理できず、人口減少に手を打てず、経済の長期的な衰退を止められないとき、そのツケはどこに向かうのかという話だ。
答えは通貨だ。円の価値が削られていくことで、国の借金は実質的に目減りし、財政の帳尻が合わせられていく。これは意図的な政策であるかどうかにかかわらず、歴史上くり返されてきた現実だ。
Next: 「安全」という幻想は捨てよ。円を持ち続けるリスクは恐ろしく高い
円を持ち続けることが「安全」だという感覚は、いまも多くの日本人に根強い。
銀行口座に円が積み上がっていれば、リスクがないと感じる。しかし物価が上がっていく中では円の価値は失っていく。100円で買えたものは150円になり、1,000円で買えたものは1,500円になっていたりするのだ。
円は、本当に安全なのか?日本円を銀行口座に預けていれば額は変わらない。だからリスクがないと感じる人は多い。これが錯覚なのだ。額が減らないことと、価値が減らないことはまったく別の話である。
円という通貨そのものが、静かに、確実に価値を失い続けている。
インフレがその最たる証拠だ。2022年以降、日本の消費者物価指数は急上昇し、2023年には40年ぶりの水準となる3%台の上昇を記録した。2024年以降もコアインフレは日銀の目標である2%を上回る水準で推移している。
食料品、光熱費、日用品……。生活のあらゆる場面で値上がりが続いている。同じ金額で買えるものが減っている。預金金利がほぼゼロのまま物価だけが上がれば、円の実質的な購買力は毎年減っていく。
これを「安全資産」と呼ぶのは、もはや無理がある。
円安もすでに不可逆に近い動きを見せている。2012年に1ドル75円台だった為替レートは、2024年には一時160円台を突破した。12年間で円の対ドル価値はほぼ半減した計算になる。
米ドル/円 月足(SBI証券提供)
輸入物価の上昇を通じて国内の物価をさらに押し上げ、海外資産を持たない人間の実質的な購買力を直撃している。円安が進んだ背景には、日米の金利差という要因もあるが、より根本的には日本経済の成長力に対する市場の評価がかかわっている。
成長しない国の通貨は売られる。これは感情ではなく、資本の論理だ。
日本という国の凋落を直視する
しかし、それでもほとんどの人は円からキャピタルフライトしようとは思わないだろう。株式であれば価格が毎日動き、損益がリアルタイムで可視化される。だから怖いと感じる。一方で円預金は数字が動かないため、リスクが視界に入らない。
だが、実際には「インフレ」と「円安」という力が同時にかかわり、円の実質価値を削り続けている。持っている貯金の数字は変わっていなくても、損失はすでに発生している。
将来はもっとひどくなるかもしれない。少子高齢化も改善されないからだ。
人口動態は、経済の未来をほぼ決定する。これは冷徹な事実だ。人口が増えれば経済は拡大するが、減れば縮小する。日本はすでに後者の道を歩んでいる。日本の総人口は1億2,304万人となり、5年間で約309万人減少して過去最大の減少幅を記録したと報道されたばかりだ。
労働力は増えているのだが、これは高齢者や女性が「食べていけなくなったから」働き始めたことに起因する。だが、高齢者はずっと働けるわけではない。遅かれ早かれ限界がくる労働力増加なのだ。
現在の労働力増加は、いわば「先食い」に近い。下落は不可逆だ。そのときはGDPの成長余力が失われ、消費者の数が減り、納税者の数が減り、社会保障を支える現役世代の数が減るだろう。
一方で高齢者の数はしばらく増え続け、年金・医療・介護にかかるコストは膨らみ続ける。2025年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、社会保障費の急増が避けられない局面に入った。
産業競争力の低下も深刻だ。かつて世界を席巻した日本の電機メーカーは、韓国・台湾・中国勢に市場を奪われた。自動車産業はEVシフトへの対応で後れを取り、スマートフォン市場では日本メーカーの存在感はほぼ消えた。
Next: まさに「ゆでガエル」状態。貯金は長期的な資産破壊と化す
貯金は長期的な資産破壊と化す
円はこの国の経済力を映す鏡だ。成長しない経済、膨張する財政赤字、縮小する労働力……これらすべてが通貨の信認にかかわってくる。円が売られ続けるのは、市場が日本の未来に値段をつけているからだ。その値段は、年々切り下げられている。
日本に住み、日本円だけを持ち続けることは、この凋落に自分の資産をそのまま委ねることを意味する。
株式は怖いという人もいる。株価は毎日動き、ときに20%、30%と急落する。リーマン・ショックのときは世界の株式市場が半値以下になった。コロナショックでは数週間で30%超の下落が起きた。数字が激しく動く様子を見ていれば、怖いと感じるのは自然な反応だ。
だが、ここで冷静に考えてほしい――
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』(2026年6月9日号)より一部抜粋
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