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「こども保険」の危険な正体。ひらがなネーミングにロクなことなし?

保育や幼児教育を実質無償化するための「こども保険」創設の構想が発表されましたが、その財源と徴収方法、ネーミングなどについて各方面から疑問符が投げかけられています。(『らぽーる・マガジン』)

※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2017年4月10日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

日本人の保険好きを利用?「こども保険」のイメージに騙されるな

「こども保険」に違和感の声続々

自民党の小泉進次郎・農林部会長らの若手議員が作る「2020年以降の経済財政構想小委員会」が、保育や幼児教育を実質的に無償にするための「こども保険」創設の構想を発表しました。

この案で早々と決められたのは、お金の徴収方法です。個人と事業者から徴収する社会保険料を2020年以降に0.1%ずつ上乗せし、将来的に0.5%にまで上乗せ分を引き上げるとのこと。それによって1.7兆円を確保し、幼児教育と保育の実質無償化を目指すのだそうです。

さまざまな方面からこの制度に違和感を唱える意見が出ているのは、「こども保険」というネーミングからの印象のようです。保険にすること自体に、疑問符が投げかけられています。

保険制度で思い出すのが、進次郎議員の親父さん、小泉純一郎元首相が厚生大臣のときに導入した「介護保険制度」です。あの時も、「国民全体にかかわる介護の問題は、保険という形ではなく税金で賄うべき」という議論があったにもかかわらず、小泉厚生大臣は保険制度で押し切りました。

「何でもやってみないとわからない」「最初から完璧な制度なんて存在しない」「やりながら修正していけばいい」。あの調子の言いまわしで、雲にまくような答弁を繰り返しての介護保険制度スタートでした。

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税制度と保険制度の違い

税制度と保険制度の違いはなにか。それは会計が分けられることです。

税金は、予算で縛られます。保険は、保険料を徴収するので、いわば第二の予算として活用できるわけです。年金保険料で国鉄民営化に伴う赤字を補填できたのも、その仕組みです。いわゆる特別会計と呼ばれるものです。

こども保険は、先程も述べた通り、厚生年金及び国民年金の保険料に0.1%上乗せし、当初3,400億円を確保して、未就学の児童への手当てとして月5,000円の支給を可能とし、いずれは上乗せ料率を0.5%として1兆7,000億円確保して、一人当たり月25,000円を支給する構想だそうです。

当初の0.1%上乗せの段階で、厚生年金の場合で30代の年収400万円程度の世帯では月240円、自営業者が加入する国民年金の保険料では月160円程度が加算されることになるそうです。

たしか厚生年金は、親父の小泉純一郎政権の“年金100年安心プラン”によって、2004年から保険料が毎年0.354%ずつ引き上げられ、14年目の2017年9月にようやく18.3%で固定されるはずだったのではなかったでしょうか。

これはどういうことでしょう。結局は社会保険料は上げ止まりするのではなく、さらに上がり続けるということなのでしょうか。

社会保険料として徴収するわけですから、それって結局、「年金制度が持たない」「医療制度が持たない」と言っているのと同じではないのかという意見も出てきています。

Next: こども保険の「語感」と小泉進次郎氏の「キャラ」に騙されると大変なことに



子供がいない人、子育てが終わった人にも負担を強いる制度

子供がいない人も費用を負担するのか…こういう批判は当然出てくるでしょう。社会保険で「こども保険」制度実行の原資をまかなうということは、20歳から60歳までのすべての人に負担してもらうことになります。子育てが終わった人にも、子どもがいない家庭にもです。

「現役世代の負担が重くなることは、日本の将来のためには我慢して欲しい」。小泉進次郎氏のキャラなら、言いそうな気がしますね。

高齢者に偏りがちな社会保険に子ども向けの保険を加えて、バランスを取る狙いもあるという大儀はわからなくはないです。しかしやはり、将来の社会を支える子供に対して、子育ての費用や、追加的な教育の費用を国が支援することを一種の社会的投資と考えるならば、税金で賄うとか、資金の使途を教育費に限定する「教育国債」を発行する方がしっくりとくるような気がします。

なぜ、保険なのか。介護保険のときと同じで、親父が親父なら息子も息子かと言いたくなりますね。

「子育て支援」を盾に年金保険料を上げようとしている

“年金100年安心プラン”で約束した給付水準を維持できないことがいよいよハッキリしたため、自民党は反対されにくい“子育て支援”を錦の御旗にして、再び年金保険料を引き上げようとしているのだという批判も出てきます。

小泉進次郎氏らは教育国債案に対して、「使い道を教育に限定するだけで、国の借金である赤字国債と同じだ」「今以上の国債発行は将来世代への負担の先送りに過ぎない」との批判を投げかけています。しかし、赤字国債や建設国債と、教育国債では意味合いが違うような気がしますが、どうでしょう。

これから年間所得300万円以上の人の年金保険料は、強制徴収となります。これって、税金徴収とどう違うのでしょう。小泉案では、その強制徴収の年金額が増えるのです。もしこの制度を実行するとしたならば、今の国民の生活を考えると、可処分所得が減らない教育国債の方がなじむような気がします。

Next: 「日本人の保険好きを利用している」与党関係者からも異論



与党関係者からも異論が出ている

「こども保険」に関しては、与党関係者からも異論が出ています。政権擁護者の代表格である嘉悦大学教授の高橋洋一氏は、保険制度に関してこう指摘しています。

保険は、偶然に発生する事象(保険事故)に備えるために多数の者(保険契約者)が保険料を出し、事象が発生した者(被保険者)に保険金を給付するものです。この場合、子供の保育や教育のためなので、偶発事象(保険事故)は「子供が生まれること」となるでしょう。

そして、保険契約者は「公的年金の加入者」、つまり20歳から60歳までの現役世代の人で、被保険者は「子育てする人」となります。子育てが終わった現役世代の人には、「偶発事象」はまず起こりえないので、これらの人は「こども保険」に入るメリットはなく、保険料を取られるだけになってしまう。

被保険者はこれから子育てをする若い人としても、子どもがいない、子どもができない家庭はどうなるのでしょう。保険の概念からすればかなりおかしいことになります。

「保険」という名称にしたのは、日本人の保険好きを利用したのではないかと指摘する声もあります。日本は保険好きの国民性だといえますからね。

なるほどね。ご説ごもっともです。身内からも厳しい指摘が出ていますね。子どもが生まれたら無条件に学資保険に加入、このイメージもこども保険への抵抗を和らげるという魂胆が見えるような気がしますよね。

また、経済ジャーナリストの荻原博子氏はこう指摘してます。

「こども保険」と聞くと、子育て世代は非常に助かる制度と思うかもしれませんが、安易に賛成するのは危険です。自民党案は徴収ありき。集めた財源を保育サービスの拡充に使うのか、待機児童対策に使うのかすら決まっていません

給付方法も支給額も不透明なので、いつ、どのように、いくらもらえるかも分からない。そもそも、骨子が“子育てを社会全体で支援する”なら、社会保険料の引き上げではなく、国民の目に分かりやすく増税にすべきです。そうしないのは、高齢者からの反発を買って票が逃げるのを恐れているからでしょう。

まだまだ議論の余地はありそうです。
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3.いま話題のニュースの裏側
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4.絶対に“億り人”になる!!
  ・あらためて「リスク」を考える
5.よもやま話~近況


※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2017年4月10日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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らぽーる・マガジン』(2017年4月10日号)より一部抜粋
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