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現実味帯びる「トランプ辞任ショック」市場が怯える2つのリスクとは=斎藤満

トランプ大統領が「ロシア疑惑」や「FBIへの圧力疑惑」で窮地に追い込まれています。市場は2つの大きなリスクを真剣に考えなければならなくなりました。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年5月17日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

「ロシア疑惑」が命取りに?トランプを追い詰めるメディアと世論

怪物大統領の早すぎる窮地

米国のトランプ大統領が、いよいよ追い詰められてきました。

15日のワシントン・ポスト紙が、複数の政府高官の話として次のように報じました。つまり、トランプ大統領は先週、ホワイトハウスに招いたロシアのラブロフ外相とキスリャク駐米大使に、イスラム国に関する機密情報を漏洩した、というのです。

具体的には、「イスラム国(IS)による機内持ち込みのノートパソコンを利用した攻撃について、同盟国から提供された情報を、同盟国に情報開示の同意を得ないまま、ロシアに提供した」というものです。

この情報はトップ・シークレット扱いで、一部の諜報機関の職員しかアクセスできないところに保管されていたものです。今後IS掃討を巡って、同盟国との連携に大きな影響が予想されます。

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この問題は、いま米国でトランプ大統領とロシアとの関係に大きな疑惑が高まる中で起きました。

トランプ大統領は先に、大統領選挙に際しての、ロシアとトランプ陣営との関係を捜査していたFBIのコミー長官を突然解任したことから、大統領による捜査妨害、情報隠滅の声が上がっていて、「第2のウォーターゲート事件」になるのでは、との見方が広がっています。

そんな中で、トランブ大統領とロシアとの間に、明らかに機密情報のやりとりがあったという事実を突き付けられると、やはり何かあったと考えるのが自然です。実際、ロイターの世論調査によれば、国民の59%(共和党支持層の41%)が、トランプ氏とロシアが大統領選挙でどう関わっていたのか、「独立調査」を行うべき、と答えています。

これが第2のウォーターゲート事件に発展し、トランプ大統領が弾劾され、辞任に追い込まれるかまだ不透明ですが、少なくとも当初の「トランプ現象」「トランプ政策期待」は大きく変貌し、新たな「トランプ・リスク」に変わりつつあります。これは市場や世界にも様々な形で反映されるようになりました。

世界は「トランプ待望論」から「ノー・トランプ」へ

まず、昨年米国に広がった「トランプ待望論」の衰退です。当時は、未知ながらも「新しいリーダー」が米国を変えてくれると期待させる潮流が、世界に波及するのでは?特にこれが、欧州での選挙にまで広がれば、EUの崩壊など大変なことになるのでは?との危惧が生じました。

ところが、トランプ大統領の副作用、問題が認識され、評価が下がるにつれて、これが大きく変節しました。

つまり、トランプ大統領になって何も良くならず、むしろ問題が多く露呈するのを見て、欧州では「ノー・トランプ」、つまりトランプ氏のようなリーダーはご免、とのムードが高まり、オランダ、オーストリア、フランスでいずれも「極右」勢力が伸びず、ドイツの選挙でもメルケル与党が優勢となっています。トランプ現象がノーモア・トランプに変わったのです。

Next: 北朝鮮にまで「足元を見られた」トランプ。2つの巨大リスクとは



北朝鮮にまで「足元を見られた」トランプのアメリカ

また北朝鮮も、トランプ陣営から中国政府を通じて核・ミサイル開発の自重を求められ、「レッド・ライン」を警告されていましたが、それでも日本時間の14日朝、中距離ミサイルを発射し、高度2100キロメーターまで打ち上げて「成功」したと吹聴しています。

これに関しては、米国のネオコンがまだ軍事リスクを煽りたい側面もあるかもしれませんが、北朝鮮は米国でトランプ大統領とマクマスター大統領補佐官との関係が悪化しているのを承知で、米国の出方を試したとの見方もあります。

裏を返せば、北朝鮮は「今のトランプ政権では何も手は打てない」と読んだ節があり、実際、トランプ政権からのリアクションはありませんでした。

経済指標にも鈍化の兆し

さらに、米国企業や消費者のマインドも冷えてきました。

先日、ニューヨーク州の製造業指数が発表されましたが、2月にはトランプ政策への期待からこの指数は18.7まで高まっていたのですが、4月には7.0に低下し、そして今回の5月分はなんとマイナス1.0まで低下、すっかり期待が剥げ落ちた形になりました。

消費マインドはまだ良好ですが、ミシガン大学の消費者センチメントは、昨年12月、今年1月に大きく高まった後は、頭打ちからやや低下気味となっています。また、マインドが良好な割に、実際の個人消費はこのところ元気がなくなりました。

2つの巨大リスクを抱えた市場

さて、ここからの市場リスクですが、2つの問題を考えなければならなくなりました。

1つは、ロシア疑惑が高まる中で、議会がその問題を抱えたままでは政策論議がなかなか進められなくなる可能性があり、減税を含む税制改革やインフラ投資の計画策定が遅れるリスクが高まるということです。これは金利やドル、株価にはネガティブです。

株式市場では、それでもエネルギー価格の反発やサイバー・リスクの高まりを逆手にとって、サイバー関連銘柄とエネルギー関連が相場を押し上げていますが、PERが高まり、恐怖指数(VIX指数)が異常に低下しているだけに、何らかのショックで大きな調整が入るリスクがあります。

Next: トランプ辞任なら市場に激震。怪物を追い詰めるメディア連合



トランプ辞任なら市場に激震

そしてもう1つのリスクが、トランプ大統領が辞任に追い込まれるリスクがゼロではなくなったことです。

かつてのニクソン大統領のように、特別捜査官を解任して捜査妨害をし、情報の隠ぺいをしたと問われると、状況はさらに悪くなります。ニクソン氏は再選を図るために敵陣を盗聴し、カネを使い、情報開示を拒み、捜査妨害をして弾劾に追い込まれ、自ら辞任を選択しました。

トランプ氏は自らが当選するためにロシアとどう関わったのか?金銭面、機密情報の提供の見返りに選挙支援のための介入を得て当選したのか?その実態捜査を妨害し、証拠隠蔽、隠滅が明らかになると、弾劾、辞任に追い込まれるリスクもあります。

その場合はペンス副大統領に代わりますが、一旦は市場にショックを与えることになるでしょう。

怪物を追い詰めるメディア連合

トランプ氏は自らメディアを敵に回してしまいました。

ニクソン大統領にはワシントン・ポストのボブ・ウッドワード記者とカール・バーンスタイン記者が長期間徹底的に調べ上げ、当時のFBI副長官マーク・フェルト氏が「ディープ・スロート」として裏の情報提供者の役割を果たしました。

今回は当時以上にメディアが動く可能性があり、FBI内部にも協力者が出る可能性はあります。

トランプのロシア疑惑が現代版ウォーターゲート事件へと進むリスク、およびその場合の内外市場へのショックも頭の隅に入れておく必要が出てきたように思われます。
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・日銀の出口策を考える(5/15)
・日銀、出口策の影響公表を検討へ(5/12)
・人手不足でも増えない賃金(5/10)
・米利上げとトランプ政権の対応(5/8)
・北朝鮮問題を考える(5/1)


※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年5月17日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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マンさんの経済あらかると』(2017年5月17日号)より抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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