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テクノロジー4.0が生む「新しい格差」誰が得して誰が損するのか?=大前研一

「インターネットの次に来る革命」が、世間をにぎわせています。FinTech、位置情報、そして、IoT。「テクノロジー4.0」と称される現在のテクノロジーは、ビジネスモデルや経済のあり様を変えていきます。テクノロジー4.0にはどんな利点があり、今後どのようなビジネスが生まれてくるのでしょうか【連載第2回】

【連載第1回】テクノロジー4.0 「つながり」から生まれる新しいビジネスモデル=大前研一

※本記事は、2017年2月に発売された大前研一氏の書籍『テクノロジー4.0「つながり」から生まれる新しいビジネスモデル』(KADOKAWA発行)より、許可を得て「技術がつながることで広がるビジネス」についての解説を再編集したものです。

プロフィール:大前研一(おおまえけんいち)
ビジネス・ブレークスルー大学学長。マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997~98)。UCLA総長教授(1997~)。現在、ボンド大学客員教授、(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役。

テクノロジーを使えない人が損をする「格差社会」が始まっている

単なる技術革新ではないテクノロジー4.0

テクノロジー4.0を理解するうえで重要なのは、「テクノロジー」という言葉が使われているからといって、テクノロジー4.0を電子技術やコンピュータ技術だと思うのは大間違いということです。

インターネットの発達でサイバースペースが広がり、マルチプルでデジタルコンチネントが加速度的に構築され、国境がないボーダレス経済となっても、パン屋さんがパンを焼き、配送トラックが街を走るといったリアル経済の空間はなくなりません

むしろ、ほかの空間で成長が起きれば、リアル経済の成長が促されることもあるでしょう。

従来どおりのリアル経済、ボーダレス経済、サイバー経済の中で、マルチプルという飛び道具を使って、見えない大陸=デジタルコンチネントを切り開いていく。そして従来型の企業を凌駕していく。それがテクノロジー4.0時代に成功するためのビジネスモデルなのです。

ひとつの技術を知るより「全体を俯瞰する視点」を持て

<テクノロジーを活用した新しいビジネスモデルが生まれる>

これからのビジネスマンに必要なのは、テクノロジー自体の理解はもちろんのこと、「それぞれのテクノロジーのつながりを俯瞰する視点」です。

位置情報とIoTを組み合わせて新しいサービスを提供する、IoTをベースとしたサービスを利用する際にFinTechによって生まれた決済方法を利用するなど、テクノロジーを組み合わせることで新しいビジネスモデルが誕生しています。

テクノロジーのつながりを俯瞰することで、ビジネスのアイデアが生まれやすくなります。

<「Uber」はテクノロジー4.0の申し子>

スマホアプリを用いたタクシーの配車サービスで急成長した「Uber」は、2009年に設立され、中小にも届かない零細企業から5年足らずでいきなり時価総額7兆円の巨大企業になりました。彼らはまさに「テクノロジー4.0の申し子」といえます。

私はよくオーストラリアに行きますが、今はゴールドコーストに昔ながらの流しのタクシーはほとんど走っていません。以前からよく知っているタクシー運転手の男性に尋ねると「街で手を挙げてタクシーをつかまえる人がいなくなりました」と言います。

Uberを利用する人が多いので、街を流して走っていても、客を見つけられないそうです。しかもUberの方が操業度は高く、ドライバーにとっては実入りも良いのです。

また通常のタクシーではキャッシュが貯まってくると、強盗に襲われる危険性がありますが、Uberではスマホを使ってオンラインで決済しますから、ドライバーの手元にはキャッシュがなく、安全だというわけです。

ゴールドコーストからタクシーがほとんど消えたのはここ1年ほどのことで、それくらい変化のスピードが速いのです。テクノロジーが介在すると、世の中はすごいスピードで変化します。

Uberが急成長した背景には、配車を可能とする位置情報、データを解析して配車を効率化するビッグデータ、そして代金のやり取りに関わるFinTechがあります。

つまり、これからのビジネスにおいては、ひとつのテクノロジーを理解しているだけでは駄目なのです。システム(テクノロジー)がつながって、サービスやビジネスを形成しており、テクノロジーがどうつながっているかを知ることが重要です。

Next: 途上国ほど浸透は早い。テクノロジー4.0で生まれる「新たな格差」



「テクノロジー4.0」で生まれる「新たな格差」

<途上国はテクノロジーが浸透しやすい>

途上国においては、家族の誰かが海外に出稼ぎに行き、収入の一部を母国で暮らす家族に送金して生計を立てるケースもあります。銀行のネットワークが発達していない地域では送金もままなりませんが、アフリカではスマホを使って送金するサービスが利用されています

送金する際には、スマホでプリペイドカードを買い、カード使用権を家族に送ります。家族はそれを換金したり、買い物に使ったりできるという仕組みです。日本ではまだそういったシステムはなく、もはやアフリカの方が発達している感もあります。

このように、テクノロジー4.0の世界というのは、エスタブリッシュメント(確立された体制や制度)のない所の方が自由に競争でき、自由にサービスや商品などを提供できるという側面があります。エスタブリッシュメントの妨害にもあいませんし、エスタブリッシュメントがない国の人の方が、デジタルコンチネントに割と簡単に踏み出せるのです。

古いやり方に慣れていると、なかなか新しい仕組みには移行しにくいのに対し、生まれたときから電話といえばスマホで、固定電話など見たことがないという人の方が、新しいものに簡単になじむというわけです。

例えばインドで講演していると、度々電気が切れます。インドでは、ブラウンアウト(電圧低下)、ブラックアウト(停電)は日常茶飯事。電話も15回ぐらいかけ直さないと相手に通じません。講演で皮肉まじりにそう話すと、電話会社の総裁がその中にいて、「昔は15回でしたが、今は4回ぐらいで通じるようになりました」と自慢していました。しかしスマホではそんな心配もありませんし、相手が電話に出なければメールを送ればいいし、留守番電話にメッセージを残しておいてもいい。

インドの電話会社は世界で一番遅れていると思っていましたが、それが解消されるよりも早く、そんなものがいらない世界になってしまったのです。

国の発想が古いとテクノロジーが阻害される

私はビジネス・ブレークスルー大学というオンラインの学校を運営しており、世界中に受講生がいますが、ネット上で講義を提供しているため、教室に来ずとも授業は受けられます。

既存の大学のようにキャンパスがあって先生がいるというのではなく、スタジオでコンテンツを作って世界中にいる受講生に投げかけ、受講生たちはディスカッションをして学ぶ、というスタイルです。教授とティーチングアシスタントは、クラスのディスカッションを見ながら指導します。1週間のうちに何コマも行うので、受講生は参加可能な時間帯の授業を選んで受ければよく、全世界どこにいても学ぶことができるのです。

学生の中にはスロべニアのリュブリャナという所で寿司屋をやりながら4年制大学を5年で卒業した人もいますし、ある女子学生のように、どこでも授業が受けられるというので約30カ国を旅しながら学び、卒業した人もいます。

300年もの歴史があって、校舎には蔦が這っているような大学でなくても、それこそザンビアにいても授業を受けられるのです。そういった感覚に、日本人の多くはまだ追いついていないでしょう。

とくに日本の場合には文部科学省という「20世紀の遺物」が存在し、なかなか変化が起きません。ですが、基本的にテクノロジー4.0には、いつどこにいても自分が情報発信者になり、受信者になり、付加価値を高められるし、学習をしたり、事業を生み出すこともできる、という魅力があります。

学校に行くという物理的な動作なしでも授業が受けられるなど、どこにいてもいいし、時間もシフトできるということなのです。先生である私も、どこにいても「休講」しないで済みます。

日本の学生は不幸にして通学時間が長く、往復1時間半ほどかけて授業を受けるのが平均的な姿です。勉強する時間も圧迫されるでしょう。

Next: Airbnb誕生秘話/テクノロジーを受け入れた人しかメリットを享受できない



貧しい3人の若者が時価総額5兆円の起業家に

少し前の話です。サンフランシスコで3人の若者が同居していました。みな貧しく、部屋のレンタル料を払うお金もない。そこで3人は、自分たちの狭いアパートを貸すことを思いつきます。

サンフランシスコでは国際会議が多く開かれるので、会議があるときに部屋を貸し、それで得たお金を家賃の支払いに充てようと考えたのです。ベッドがないのでエアマットレスを持ち込み、社名をエアーベッド・アンド・ブレックファーストの略で「Airbnb(エアビーアンドビー)」と名付けました。これが、Airbnbという、時価総額5兆円のベンチャー企業の誕生の経緯です。

初日に3人のお客さんを迎えてスタートして、あっという間にニューヨーク、次はハンブルグです。スマホさえあれば、借りたい人と貸したい人をマッチングでき、拠点などどこでもいい。宿泊施設が不足している観光地や宿泊費が非常に高い大都市において、一般の人が部屋を提供します(民泊)。

創業から5年で、世界500都市においてサービスを展開しています。中国の民泊仲介サイト「自在客」もAirbnbに負けないぐらいの数の顧客を抱えており、全世界に同じようなシステムが瞬間的にできあがりました

あまりにシンプルで、あまりに速く、国が妨害しようにもしようがないのです。日本は旅館業法によってスプリンクラーの取り付けや、受付の設置など、さまざまな規制をしてますが、個人ベースで「友達だから泊めた」というのを防ぐ方法はありません。

そのようにしてあっという間にこのような会社が成長していきます。

テクノロジーを受け入れた人しかメリットを享受できない

私はゴールドコーストにあるボンド大学で教鞭をとっていますが、毎年、卒業式の前日にバーベキューパーティーがあります。

学生はタクシーで来てホテルに宿泊しますが、最近はUberを使い、Airbnbで宿泊先を探すようになりました。200ドル程度かかっていた宿泊費が、今では平均50ドル程度と、かなり安くなっています。

昔とは違う行動を取れる人、すなわちこのデジタルコンチネントに足を踏み入れて、コンフォタブル(気持ちよく過ごせる)な人と、手を挙げて「ヘイ、タクシー」と自分でつかまえた車でないと乗れない人や、名だたるホテルに泊まらないと気が済まない人との間では、かかるコストに4倍ぐらいの差ができているのです。

ゴールドコーストでUberが瞬く間に浸透したのは、オーストラリアに規制が少ないからです。日本のようにタクシー免許を取得するまでが大変ということがなく、125ドルを払って客を乗せていいというライセンスを得れば、翌日からUberに登録できます。

宿泊施設についても、日本のように規制する業法が存在せず、貸したいなら勝手に貸せばいい、というスタンスです。Airbnbなどに対する規制はないのです。好ましくない点があれば、宿泊者が口コミで低い評価を与え、お客さんが選ばなくなります。そういう時代になったのです。旅館業としてではなく、個人が商売しているのです。消火栓がなければ「ない」とネットで開示し、それを知ったうえで泊まればいいだけの話です。

このようにテクノロジー4.0というのは、すでにあなたや私の生活に相当大きな影響を及ぼしています。しかも、これは金儲けのチャンスであり、便利な生活を享受できる手段にもなっているのです。

ITの恩恵を受けられる人と受けられない人との間に生まれる経済格差、情報格差を「デジタル・ディバイド」と言いますが、新しい技術を積極的に使う人間、新しい大陸の方に移り住む人間と、そうではない人間との間には、デジタル・ディバイド以上の格差が広がっていくでしょう。

Next: 企業間、個人間のサバイバルゲームが始まった



企業間、個人間のサバイバルゲームが始まった

お金のやり取り、知識のやり取り、それからサービスの提供など、全てにおいて、我々はまだテクノロジー4.0の入り口に立ったに過ぎません。

デジタルコンチネント、スマホベースのエコシステムといった構想はまだ生まれて日が浅く、ようやくこれを開拓すべく、AIやFinTechの技術が同時進行的に生まれつつある段階です。

さまざまなテクノロジーを駆使して、いろいろな国の間の、あるいは企業間の、あるいは個人間の競争、すなわちサバイバルゲームが開始されたわけです。数年ほど前から、そういう世界が非常に明確に見えるようになってきました。

繰り返しになりますが、これからは特定の技術やサービスをひとつずつ別々に勉強していては駄目なのです。半年に1回程度で良いので、全体を俯瞰し、新しい事例や面白い会社が出てきていないかどうかを見渡すことをお勧めします。
(次回に続く)

【連載第1回】テクノロジー4.0 「つながり」から生まれる新しいビジネスモデル=大前研一

テクノロジー4.0 「つながり」から生まれる新しいビジネスモデル
著:大前研一/刊:KADOKAWA ¥1,728
第1章 「テクノロジー4.0」とは何か
第2章 「Fintech」で信用の概念が変わる
第3章 「位置情報ビジネス」が60兆円市場になる理由
第4章 「IoT」で生き残る企業、滅びゆく企業

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