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日銀の新政策は追加緩和ではなく引き締め。株高・円安は短命に終わろう=馬渕治好

馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』は、めまぐるしく変化する世界の経済や市場の動きなどについて、ブーケ・ド・フルーレット代表の馬渕治好氏が分かりやすく解説するメルマガです。今回は9月21日(水)の日銀金融政策決定会合をうけて配信された号外をご紹介します。

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なぜ日銀会合直後に株が買われ円が売られたのか?

株高・円安の動きは一時的

920(火)~9/21(水)の日銀金融政策決定会合の結果を受けて、直後は「正しく」国内株安・円高に振れる局面が一時ありましたが、9/21(水)午後3時までの段階では、国内株高・円安が進みました。

前回の当メールマガジン定例号(9/18(日)付)では、マイナス金利の深堀という誤った政策をとっても、何もしなくても、株安・円高に働くと予想していました。予想を大きく外し、申し訳ありません。

ただ、こうした株高・円安の動きは一時的で、すぐにでも日本株安・円高が進むと見込みます。実際、いち早く為替市場では、101円を割り込む米ドル安・円高になっています(本稿は、日本時間で9/22(木)午前零時頃執筆しています)。

本日の日銀の決定が、様々なマスコミで報じられるのをみて、おそらく当メールマガジンの読者の皆様が感じたのは「いったい何を目指しているのか、それどころか何を決めたのかが、よくわらかない」といったものでしょう。そうした率直な感想は、極めて正しいと考えます。

そのため、本日の市場も、多くの投資家が「なんだかよくわからないから、売買を控えよう」となったところに、後で述べるような一部の動き(銀行株の上昇)が、相場全体を動かしてしまった、というのが、実態だと推察しています。

まず、本日日銀が決定したことは多々ありますが、主に下記の3点が注目されます。

(1)マイナス金利の深堀は、今回は行なわない。
(2)長期金利(10年国債金利)がほぼ0%で推移し続けるよう、長期国債の売買を行なってコントロールする。
(3)株式ETFの買い入れについて、TOPIX型の買い入れ比率を高める(日経平均型は買い入れ比率が低くなる)。

これで何が起こったかと言えば、銀行株の買い戻しが進みました。

まず、(1)については、マイナス金利の深堀は、金融機関の収益を傷めるばかりで、経済浮揚効果が乏しい策だと、先週末の定例号で述べました。市場では、諸報道から、マイナス金利の深堀の可能性があるとして、銀行株を収益悪化懸念から売り込んでいましたが、深堀しないとなったため、買い戻されたわけです。

ただし、これで銀行の収益がどんどん改善するわけではなく、想定していた悪いことがなかった、というだけですから、銀行株の買い戻しは、長続きしないでしょう。

(2)については、10年国債利回りが一時期のようにマイナス0.3%を超えるような状況に比べれば、銀行が10年国債投資で得られる利回りがゼロですから、かなり「まし」です。それが、銀行株の買い戻しの背景にあったと推察されます。

しかし利回りゼロというのは、お世辞にも収益が上がるなどと言えるものではありません。また、利回りが日銀によってゼロ近辺で固定されてしまえば、国債価格がほとんど動かない(値下がりすれば日銀が買い、値上がりすれば日銀が売る)わけですから、国債の値動きで収益を上げることも不可能になります。

(3)については、TOPIXへの影響が大きい、銀行株が買われた、という作用をもたらしました。ただ、日銀が日経平均型ETFを売ってTOPIX型を買うわけではなく、どちらも買うが、日経平均型のペースを落として、TOPIX型のペースを上げる、といった程度の話なので、銀行株がどんどん上がり続ける、ということにはなりにくいでしょう。

以上述べたように、(1)~(3)によって、銀行株が買い戻され(東証33業種指数別の騰落率では、銀行株は前日比6.97%上昇して、トップの上昇率)、そのため株式市況全般が押し上げられ、過去の株価と円相場の関係(株高の時に円安が並行して進んでいたことが多い)から円安に進み、円安が銀行以外の輸出産業などの株価まで押し上げた、という展開になったと考えています。

しかし、これも上で述べたように、銀行株の上昇が長続きするとは見込みにくいため、水曜日(9/21)のような相場付きによる株価上昇も、持続するとは予想しづらいです。

Next: 今回の日銀の決定が「追加緩和」ではなく「引き締め」である理由



追加緩和というより、引き締め

そもそも、今回の日銀の決定が追加緩和であって、カネ余りによる国内株高(余剰資金が株式市場に流入)や円安(余剰資金が外貨建て資産に流入)、あるいは景気回復(経済全体が金余りになる)を一段と推し進める、というようには、全く思えません。金利については、長期金利は下げるどころか上げるわけですし、資産の買い入れ額を増やすわけでもありません。追加緩和というより、引き締めのように見えます。

また、日銀は2年でインフレ率2%といったような、ゴールの時期を決めたインフレ目標ではなく、2%を「安定的に持続するために必要な時点まで」緩和を継続する、といった言い方に変えています。日銀は、これは2%にするのだという、一段と強い意志を示した、と説明していますが、いつまでに達成する、といった時間的目標を放棄したように見えます。

多くの人が、「きっと5年経っても10年経っても、2%にするためにがんばりますと、ずっと言ってるんでしょ」といった、冷めた見方をしているのではないでしょうか。

ということは、今回の日銀の決定を概観しても、追加緩和であって景気回復、株価上昇、円安をもたらすようなものだ、とは全く考えられず、やはりすぐに日本株安・円高に振れ戻ると見込まれます。

実際、冒頭で述べたように、一時は1ドル102.79円まで円安が進んだものが、100.70~80円と、日銀の決定前より円高になっています。東京市場での株高を受けて、引け直後に16705円に達したシカゴ日経平均先物も、16500円程度に下押ししています(9月の配当落ちが近いので、日経平均の現物指数と先物の間に、価格差があります)。

9/21(水)および9/22(木)の欧米市場の動向や、FOMCの決定を受けた市場の動きによりますが、このままいけば、祝日明けの9/23(金)の国内株価は、下落して始まりそうです。


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【関連】未曾有の危機から丸8年。リーマン・ショックの真相(前編)=矢口新

馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』(2016年9月21日号外)より
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