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日本国債を買いまくる日銀の「債務超過」は本当に起こらないのか?=大前研一

過去最高となった日銀の国債保有残高、統計開始以来初の出生数100万人割れ、2年連続で減少となる上場企業の配当性向など日本を取り巻く3つの問題を大前研一氏が分析します。

※本記事は、最新の金融情報・データを大前研一氏をはじめとするプロフェッショナル講師陣の解説とともにお届けする無料メルマガ『グローバルマネー・ジャーナル』2017年6月7日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に定期購読をどうぞ。
※6月4日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。

プロフィール:大前研一(おおまえ けんいち)
ビジネス・ブレークスルー大学学長。マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997~98)。UCLA総長教授(1997~)。現在、ボンド大学客員教授、(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役。

日銀の国債大量保有、少子化ほか3つの問題を大前研一氏が分析

総資産「500兆円突破」が意味するもの

日銀が2日に発表した5月末時点の総資産は、500兆8008億円と、初めて500兆円を突破しました。物価上昇率が安定的に2%上回ることを目指し、年80兆円をめどに国債の保有残高を増やしていることが要因です。日本の名目GDPにほぼ並ぶ規模となりました。

これは直ちに危険という数字ではありませんが、日銀が財務省発行の国債を買っていく、しかも一方的に買っていき、キャッシュをマーケットに出し、それにより金融機関の方にキャッシュが回るものの借りるニーズがないという、超金余りの現象となっています。

このこと自体はあまり健全なことではありません。やはり資金の供給は資金ニーズを見ながら行うべきであって、このように一方的に買って、市場にキャッシュを循環させるというやり方が、ほとんど需要を生んでいないのです。結局止めてしまっても問題となり、出していても意味がないという行き詰った状況になっているわけです。

500兆円というのは、本当に異常な数字ですが、直ちに危ないという数字ではありません。しかし健全ではないのです。経済学者のスティグリッツなどは、日銀と財務省が一緒になれば、消えてしまうので良いではないかと主張していますが、よその国の学者は簡単にそういうことが言えるので楽なものだと思います。

Next: 「出生数が統計開始以来初の100万人割れ」小手先のやり方ではもうダメだ



2016年出生数、統計開始以来初の100万人割れ

厚生労働省が2日に発表した人口動態統計によりますと、2016年に生まれた子どもの数は、97万6979人で、1899年に統計を取り始めてから初めて100万人を下回りました。また1人の女性が生涯に産む子どもの数も、1.44人と、前年比0.01ポイント減少しており、出産適齢期の女性の減少が少子化に拍車をかけています。

これはまさに日本にとって最も深刻な問題です。出生数が100万人を下回ったわけですが、これは傾向的な問題です。丙午の時にがくんと落ちた出生数が、その後また伸び、それ以降続けて減少してきています。そして死亡数の方が現在圧倒的に多くなってきています。これは大変由々しき事態で、かつ構造的な問題であると言えます。そしてこれは、今のままでは反転のしようがありません

これを反転させることを考えると、スウェーデンやフランスのように、戸籍という概念をなくしてしまうとか、正式に結婚をしていなくても生まれた人をそのまま正式に子どもとして認めるといった、当たり前のことですが、そうしたことをやらないといけないのです。

私はいろいろなところでそのことをまとめて書いてきていますが、ここはもう、小手先のやり方ではだめだと思います。基本的には子どもを1人、2人そして3人まで産めば、フランスのように、育つ過程で2000万円くらいのプラスになるというほどのインセンティブをつけないとダメだろうと思います。

日本の婚姻件数の推移を見ても、減ってきているのがわかります。やはり、自然婚ということをやらないとだめで、婚姻という制度に期待をするとなるとやはり難しいのです。つまり、戸籍が非常に大きな問題になっているということだと思います。

また、母親の年齢別出生率の推移を見ると、最も多いのが30から34歳です。その次が25から29歳、そしてその次が、なんと35から39歳です。このように、昔に比べると大きな変化が現れています。グラフからわかるように、昔は圧倒的に70万人が20代後半で出産をしていたのです。それが大きく変化して30から34歳が最も多い出産年齢になっているのです。

このように、日本の場合には高齢出産ということもあり、2人、3人といかないという問題もあるので、もう少し早めから自然婚を認めて、自然婚の中で子どもを作っても不利にならないようにするという、フランス型の制度のあり方を研究しないといけないと思います。

Next: 「高まる配当を意識した株式投資の時代」株主還元の充実が引き続き課題に



高まる配当を意識した株式投資の時代に

日経新聞が全上場企業の配当実績と計画を集計したところ、2017年度の配当総額は12兆4000億円と、5年連続で過去最高を更新する見通しです。一方、稼いだ利益から配当に回したい割合を示す配当性向は、2年連続で減少する見通しで、株主還元の充実が引き続き課題となりそうです。

時価総額というものを想定すると、601兆円ということなので、その2.06%が配当の総額です。昔ですと1%にも達しなかったのに、今は武田薬品などはクリフを乗り越えるときには3%を超えるような配当を出し、機関投資家が留まるようにしてきました。

したがって企業は、機関投資家から見ると戦略よりも配当利回りが非常に重要なので、それによって惹きつけておくということなのです。それの日本全体の平均が、2%ということなのです。できれば3%程度あると機関投資家は歓迎してくれます。銀行金利が1%にもならないので、このようなときには配当で引き止めておこうとし、あまり企業戦略などを言わなくなってしまったのです。

さらに企業によっては、配当を3%にするために、借金をしてでも配当するというケースもあります。今までは利益の中から配当性向何%とやっていましたが、今は利益に関係なく、借金してでも時価総額に対して3%を維持するなどという状況になってしまっているのです。日本の株式市場では今まであまりこういうことはありませんでしたが、機関投資家やGPIFが相手ということになってくると、このようなメリットの方が重要になってしまったのです。

非常に魅力のある企業戦略を打ち出してもあまり反応がなく、配当性向、つまり利益の何%を配当に回したかということにも興味がなく、時価総額に対して何%なのかという数字に機関投資家が反応するというわけなのです。それもやはり金融機関が利息をほとんど払ってくれないので、仕方がないという話なのです。あっという間にこうしたKPI、パフォーマンスインジケーターが変わってきてしまったというわけなのです。

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グローバルマネー・ジャーナル』(2017年6月7日号)より抜粋
※記事タイトル、太字はMONEY VOICE編集部による

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