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ファミマとドンキの「熱愛発覚」を分析してわかった意外な好相性=栫井駿介

ユニー・ファミリーマートホールディングス<8028>とドンキホーテホールディングス<7532>が業務提携に向けた検討を開始することを発表しました。この提携は、両社にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

ドンキの「ラブコール」にファミマも乗り気、両社の狙いとは?

ユニファミマとドンキHDが業務提携へ

ユニー・ファミリーマートは、名前の通りユニーファミリーマートが2016年9月に経営統合して発足した会社です。

ユニーは傘下にアピタ・ピアゴと言った中京地区を地盤とする総合スーパーを抱え、統合前はコンビニのサークルKサンクスを保有していました。

ファミリーマートは言わずと知れたコンビニチェーンです。サークルKサンクスを有するユニーと経営統合することで、コンビニ業界首位のセブン-イレブンを追走する構えです。

提携相手となるドン・キホーテは、「激安の殿堂」として有名なディスカウントストアです。関東の都市部を中心に店舗を展開しています。一度でも行ったことのある人なら、「ドンドンドン、ドンキー♪」の歌が頭に浮かぶでしょう。

この2社が提携するということで、これからの様々な展開が思い浮かびます。ファミリーマートがドン・キホーテのようになり、商品がうず高く積まれるようになるかもしれません。店内音楽が「チャラララララ~チャララララ~♪」から「ドンドンドン、ドンキー♪」に変わっても面白いでしょう。

苦境に陥る総合スーパー

妄想はさておき、両社の現実を見てみたいと思います。

統合前のユニーの経営は非常に苦しい状況に置かれていました。2014、2015年度と2期連続で最終赤字を計上しています。その要因は総合スーパーの苦境であり、コンビニのサークルKサンクスがあることで何とか凌いでいました。

そこに目をつけたのがファミリーマートです。

コンビニ業界はセブン-イレブンとファミリーマート、ローソンの3強となっていますが、首位のセブン-イレブンとそれ以外の差は開く一方です。単に店舗数が多いだけではなく、1店舗あたりの1日売上高もセブン-イレブンとそれ以外では60万円台と50万円台以下と大きく開きます。

経営状況の苦しいユニーにとっては、ファミリーマートとの経営統合は渡りに船だったと考えられます。

しかし、ファミリーマートとしては総合スーパーが欲しかったわけではないと推測されます。なぜなら、総合スーパーの経営状況は苦しい状況に陥っているからです。

近年ではダイエーが経営危機によりイオンに吸収合併され、そのイオンも総合スーパー事業は損益トントンの決算が続くなど低迷しています。

総合スーパーの不振は、長きにわたったデフレの後遺症と考えられます。

各社は価格競争を余儀なくされ、「利益なき競争」が続きました。また、好景気時には衣料品が業績をかさ上げしましたが、ユニクロやしまむらなどの専門店の台頭により、いまやお荷物となっています。

総合スーパーが全盛を誇った時のような「何でも安く売る」だけの商売はもはや通用しなくなっているのです。それを抱えてしまったファミリーマートは、何とかテコ入れしようと頭を悩ませていることでしょう。

Next: 「ドン・キホーテが描く夢」はファミマをどこに連れて行くのか?



ドン・キホーテの本質は「エンターテインメント」

「何でも安く売る」ビジネスモデルが通用しないといったばかりですが、それを地で行くのがドン・キホーテです。さぞ苦しい経営環境に置かれているかと思いきや、このデフレ下において27期連続増収増益を達成しています。

ドン・キホーテは、確かに「激安」を押し出していますが、その本質は安さだけではないのです。安さだけで対抗していたら、価格競争の波に飲まれて今頃とうの昔に潰れてしまっているでしょう。

店舗に出向くと、どこも例外なく商品が山のようにうず高く積まれています。売られている商品の種類も多種多様で、そこから欲しい物を見つけ出すのは、まさに「宝探し」のような感覚です。

そこへ、「ドンドンドン、ドンキー♪」の曲が流れてきたら、何だかとても楽しくなってしまいます。そうやって、多くの人が勢いで色んなものを購入してしまうのです。

つまり、ドン・キホーテの本質はその安さだけではなく、買い物を楽しむ「エンターテインメント」なのです。会社も自社のビジネスモデルを「時間消費型小売業」と呼び、他の小売店との差別化を図っています。

この差別化なら、多くの小売店の脅威になっているAmazonをはじめとするネットショップとは一線を画すことができます。ブランド品なども取り扱っていることからインバウンド需要も味方につけ、今最も勢いのある小売銘柄のひとつです。

提携を申し出たのはドン・キホーテ

今回の提携は、そんな絶好調のドン・キホーテが申し出たと言います。その狙いはどこにあるのでしょうか。

プレスリリースで謳われているのは「物流機能」「店舗運営」「商品開発」などです。これをドン・キホーテの視点から細かく読み解くことで、狙いが少しずつ見えてきます。

Next: ファミマはなぜ乗り気に?ドン・キホーテのしたたかな狙い



ドン・キホーテのしたたかな狙い

まず「物流機能」です。小売業界に限らず、トラックの運転手などの人材確保にはどの会社も頭を悩ませています。これを共通化することで、コストを削減するとともに将来的な人材の不足に備える狙いがあると考えられます。

次に、店舗運営です。総合スーパーでは、食品売り場はともかく、衣料品売り場は閑散としています。これは明らかに無駄な状態です。そこにドン・キホーテの店舗が入って、路面店と同じように客が入るようになれば、テナントを貸すスーパーにも客が増える相乗効果が期待できます。

ちなみに、ドン・キホーテは2007年に衣料品が主力のスーパー「長崎屋」を買収し、そのほとんどを「MEGAドン・キホーテ」に転換しています。これがドン・キホーテの成長を助けました。長期的にはアピタ・ピアゴでもそのような展開を目論んでいるかもしれません。

「商品開発」に関して、他の小売業に追随する形で、ドン・キホーテもプライベートブランドの育成に取り組んでいます。

「情熱価格」と銘打つブランドは、食品から家具・家電にまで及び、評判を集めています。最近では4K対応の50V型液晶テレビを5万円台という破格の値段で発売し、世間を驚かせました。

売れる商品を開発できれば、販売チャネルは多いにこしたことはありません。ドン・キホーテは、さらなる成長を目指してスーパーやコンビニの売り場も活用しようとしているのかもしれません。

受ける側にとっても悪くない話

もちろん、ユニー・ファミリーマート側にもこの話を受けるだけのメリットがあります。

同社の目下の課題は、グループのお荷物となっている総合スーパーをどのようにテコ入れするかです。仮にドン・キホーテに利用されたとしても、少しでも業績が回復するならそれで御の字でしょう。

総合スーパーの経営は、これまでの延長線ではもはや成り立たないほど厳しい状況に陥っています。そこに大なたを振るう意味でも、ドン・キホーテとの提携は役立つかもしれません。

また、ファミリーマートは何とかしてセブン-イレブンに追いつきたい気持ちが強くあります。ドン・キホーテの売れ筋プライベートブランドを店頭に並べて話題を呼べば、集客や売上の増加に貢献するでしょう。

買収ではないため、ファミリーマートがドン・キホーテになるような大胆な変化は臨めませんが、サークルKサンクスの統合により店舗数では追いついた今、次々に新たな手を売ってくる可能性があります

ここまで見ても、両社にとって悪いことはあまり見当たりません。交渉事なのでこのままうまく話が進むとも限りませんが、少なくともお互いの価値を毀損するような悪い話にはならないでしょう。

Next: 注目を集めるユニファミマ株とドンキHD株の「買い時」はいつ?



店舗に行き、自分の目で確かめる

それでは、この両社の株は買い時なのでしょうか。

提携の検討開始の発表を受けて、翌日にはユニー・ファミリーマートの株価が3.6%、ドン・キホーテの株価が1.8%上昇しました(終値ベース)。


PERはそれぞれ35倍、21倍と、どちらかというと割高な水準です。特にユニー・ファミリーマートは総合スーパーの回復が見えない割には高い数字が着いています。コンビニの成長性に期待しても現実的ではありません。

ドン・キホーテは、業績そのものは絶好調であり、これからも順調に成長するとすれば受け入れられる水準です。ただし、成長企業は突如成長が止まることもあり、予断は許さない状況です。

ドン・キホーテのような成長企業に投資するときは、自ら店舗に足を運び、まだまだ成長が続くかどうかを自分の目で見ることが大きな財産になります。ついでにショッピングも楽しんでみると良いでしょう。株を買うつもりが、とんでもない掘り出し物が見つかるかもしれません。


つばめ投資顧問は相場変動に左右されない「バリュー株投資」を提唱しています。バリュー株投資についてはこちらのページをご覧ください。記事に関する質問も受け付けています。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年6月18日)

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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