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From Cyber Agent 2017年2Q決算発表

AbemaTVだけじゃない。サイバーエージェントに学ぶ「勝者の決算」=シバタナオキ

サイバーエージェントといえば最近ではAbemaTVが話題になりがちですが、今日は少し違った角度から、その秀逸な決算発表を分析してみましょう。(『決算が読めるようになるノート』シバタナオキ)

※本記事は有料メルマガ『決算が読めるようになるノート』2017年6月18日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:シバタ ナオキ
SearchMan共同創業者。東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻 博士課程修了(工学博士)。元・楽天株式会社執行役員(当時最年少)、元・東京大学工学系研究科助教、元・スタンフォード大学客員研究員。

一粒で二度おいしい。ネット広告最大手の決算資料は何が凄いか?

投資家に安心感を与える秀逸な説明

サイバーエージェントといえば、最近ではAbemaTVの話が決算でも話題になりがちですが、今日は少し違った角度から、サイバーエージェントの決算を見てみたいと思います。

サイバーエージェントの決算をよく見ると、最近新しく追加になったセッションがあります。

それは決算資料の一番最後にある「市場データ」という項目です。

この「市場データ」のスライドがとても勉強になる内容で、投資家を教育するという点だけではなく、さりげなく自社の優位性をアピールする材料にもなっているという、一度で二度おいしい内容になっているので、詳しく紹介したいと思います。

この「市場データを使って自社の優位性をアピールする」という方法は、誰もが使えるわけではありません。特に市場の中でもシェアが大きいマーケットリーダーである会社でないと、逆効果になりかねません。しかしこのように、「マーケットの中で、自社の位置づけがどこにあるのかを確認する」というプロセス自体は、大企業だけでなく、スタートアップにとっても、とても勉強になる方法だと思いますので、ぜひご一読ください。

サイバーエージェントに関しては、「市場データ」というセクションで説明されている内容は、AbemaTV以外の事業に関するものです。個人的な意見ですが、まだ売上が見えてきていないAbemaTVに比べて、既存事業の優位性をアピールすることで、投資家に安心感を与える、ということに関しては、とても成功している気がします。

サイバーエージェントの「市場データ」で主張されている2つの事実

サイバーエージェントの話を忘れて、あくまで一般論として、投資家が投資をしたくなるようなビジネスはどういったものでしょうか。

投資家が投資したくなるビジネスには、2つの要素があります。

1つ目は、マーケット自体が早いスピードで成長している、つまり急成長市場であるという点です。マーケット自体が大きくなる、というのは、投資家から見ると非常に魅力的に見えます。

2つ目は、急成長市場の中でマーケットシェアが大きい、あるいはマーケットシェアが増えている、というビジネスです。

仮にこの2つの条件の両方を満たすようなビジネスがあれば、「今後も伸びるマーケットの中で、さらにマーケットシェアが増えている」という、掛け算で伸びるビジネスになるので、投資家からの期待値が上がり、株価が上がる、ということが期待できるでしょう。

ではこの2点に関して、サイバーエージェントが決算資料の中で、どのように投資家とコミュニケーションを取っているのかを、詳しく見てみたいと思います。

#1自社の市場=急成長市場

まずは広告代理店事業に関してですが、インターネット広告は広告全体の中で最も伸びている媒体である、ということがこのスライドで説明されています。

つまるところ、「インターネット専用の広告代理店市場は、今後も伸び続けるマーケットですよ」と言っているわけです。

そして、そのインターネット広告市場の中でも、さらに早いスピードで伸びているのがスマートフォン広告市場である、ということを説明しているのがこのスライドです。

#2急成長市場の中で高い市場シェアを獲得

そしてこのスライドの右側では、「スマートフォン広告市場という急成長市場の中で、21%という非常に高い市場シェアを誇っている」、ということが説明されています。

その次のスライドでは、スマートフォン広告市場の中でも急成長しているフィード広告市場について、サイバーエージェントが27%という高い市場シェアを獲得している、という説明があります。

このように、右肩上がりの市場規模と、高いマーケットシェアの両方を示すことで、自社の既存事業である広告代理店事業の優位性をアピールしています。

Next: もう1つの柱、ゲーム事業の説明資料に込められた3つのメッセージ



サイバーエージェントのゲーム事業の位置付け

もうひとつの既存事業であるゲーム事業に関しても、見てみたいと思います。

右の表が表しているのは、日本のゲーム市場は世界の中でも有数の規模を誇る非常に大きな市場である、ということです。

左のグラフが示しているのは、スマートフォンのゲーム広告市場は伸びが止まっており、今後あまり大きく伸びないことが予想される、という事です。

一方で、サイバーエージェントのシェアは右肩上りで上がっている、と言えます。

つまり、

というメッセージになります。

「BCGマトリックス」に当てはめてみる

余談になりますが、経営学の世界では、Boston Consulting Group が提唱する「BCGマトリックス」と呼ばれる分析フレームがあります。

縦軸は市場の成長率横軸がマーケットシェアを表します。

左上の「Star」というのは、市場成長率が高い中でマーケットシェアが大きいという領域になります。

サイバーエージェントの広告事業は、「Star」と「Cash Cow」の間ぐらいの位置付けになると思われます。

一方でゲーム事業の方は「Cash Cow」に該当すると言えるでしょう。市場全体は成長しないので、(競争が徐々に厳しくなくなり)投資は少なく済むが、シェアが大きいのでキャッシュを稼げるのが、ゲーム事業というわけです。

このように、2つの事業が、成長するだけでなく安定的にキャッシュを稼ぎ出すことができるため、AbemaTVといった大きな新規事業にトライできている。またそのことを、きちんと投資家に説明できていると言えるでしょう。

リクルート「市場データ」も参考に

この「市場データを使って投資家の教育をすると同時に、自社の優位性をアピールする」という方法を、昔から実践しているのはリクルートです。

リクルートの中でも、国内人材派遣領域の例をここで掲載してみたいと思います。

国内人材派遣領域は、人数にすると33.2万人と巨大で、YoY+6.4%で成長しているというのがこのスライドです。

その中でも、リクルートの国内の人材派遣ビジネスは、市場の成長スピードを上回る、YoY+11.9%で成長しているというスライドがあります。

最後に、売上だけではなくて利益率も、EBITDA率が7%と、非常に高い水準を誇っているという説明もあります。

つまり、

という3点で、自社の優位性を説明しています。

繰り返しになりますが、この「市場データを使って自社の優位性をアピールする」という作戦は、誰もが使える作戦ではありませんが、少なくても「自社がマーケットの中でどのような位置づけにあるかを確認する」という作業自体は、非常に勉強になると思いますので、みなさん実践されてみてください。
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Source:サイバーエージェント 2017年度第2四半期決算説明資料


※本記事は有料メルマガ『決算が読めるようになるノート』2017年6月18日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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決算が読めるようになるノート』 2017年6月18日号(サイバーエージェントの決算に学ぶ「勝者の決算」)より抜粋
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