米国大統領選挙の大勢が日本時間9日午後に判明し、ドナルド・トランプ候補の勝利が確実となりました。今回の結果から読めてくることを、少し角度を変えて見てみましょう。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2016年11月9日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
ヒラリー・クリントン敗北は「彼ら」のシナリオか?番狂わせか?
デヴィッド・ロックフェラー氏らの支配力低下も
これまで米大統領選挙の予想でやきもきし、市場や世界経済がどうなるのか、様々なシミュレーションがなされましたが、逆に今回の「ドナルド・トランプ氏の勝利」という結果から読めてくることもあります。少し角度を変えて見てみましょう。
裏の世界にとっての最大の関心事は、ここまで世界を牛耳ってきた影の勢力、例えば「ビルダーバーグ・クラブ」が今なお力を持っているのか、影響力が低下したのか、という点です。
それ如何では、今後の世界経済、主要国人事にも大きな変化が起きる可能性があり、ある意味では大統領がクリントン氏かトランプ氏か以上に大きな問題とも言えます。
これまでの米国大統領選挙は、その陰の力によってあらかじめ決まっていました。いろいろ問題が指摘されたジョージ・ブッシュ・ジュニアや、議員としてのキャリアが浅く、実力のほどもわからぬ非白人のオバマ氏も、彼らの中ではすでに予定された大統領として準備が進められました。そして現実に大統領になりました。ブッシュ氏の場合のように時に強引なまでの策を講じてまで。
それだけの大きな力を持つ影の組織、ビルダーバーグ・クラブとは、確か1950年ごろに最初の会合がオランダのビルダーバーグで行われたために、この名前がついたと言われています。
主たるメンバーは、ヨーロッパ皇族、ロスチャイルド、ロックフェラーなど、そうそうたる人々で、今年100歳になったデヴィッド・ロックフェラー氏は、当初からのメンバーです。
そしてこの秘密クラブが、実はオバマ大統領を決めた時点から、次はヒラリー・クリントンと決めていたと言われます。夫のビル・クリントン氏がロックフェラー家の四男の隠し子と言われ、その夫を支え、仕えてきた功績に応えるため、とも言われています。
ですから、裏の世界では、相手が誰であろうと、「クリントン大統領」は変わらないとの認識がありました。
今回、クリントン氏とトランプ氏が予想外の接戦を演じたこと自体は、かつてのブッシュ・ゴアの大接戦や、前回の民主党代表としてオバマ・クリントンの大接戦が演じられたことから見ても、不自然なわけではありません。
しかし、今回はなにか「らしくない」動きも見られ、クリントン支持軍団の一部がトランプ氏に相乗りしたとの話まで出ました。
予定されていた「クリントン大統領」となれば、ロックフェラー氏が100歳になっても、何だかんだ言っても彼らの世界支配力は変わらないと見られるはずでした。ところが今回、クリントン氏が敗れる事態となったことで、影の勢力に何かが起きたか、彼らの支配力が低下したか?ということを考えざるを得なくなります。
Next: 米国一極覇権の終わり。世界のフレームが根本的に変化する可能性も
アメリカ一極覇権の終わり
「トランプ・リスク」の1つには、彼が常識外れのことをしでかすのではないかとの不安もありますが、それ以上に、これまで世界を支配してきた構図が変わろうとしていることによる不安、例えば、ビルダーバーグに変わる新しい力が何なのか、ビルダーバーグを凌駕する力が何を目指しているのかわからない不安があります。
同時に、クリントン氏に体現して進められようとしていた軍産複合体の利益、金融資本主義をベースとした軍事経済戦略が継続されるのか、否定され新しい枠組みが構築されるのか、という問題にもつながります。
だからこそ軍産複合体と連携したメディアや、ウォール街の面々は、自分たちの利益に反するトランプ氏を攻撃してきたわけです。
世界のフレームが根本的に変化する?
クリントン氏が「予定通り」勝利すれば、既存の権力構造、戦略に大きな変化はないはずでしたが、トランプ氏の勝利は、根本的に世界のフレームが変わる可能性を示唆するものです。そのバックグラウンドが見えてくるまでは、新しい世界がどんなものになるのか、イメージしにくい状況が続くのではないかと思います。
トランプ氏は「米国第一主義」と言いますが、実際はクリントン氏を利用する勢力の方が米国の一極覇権を続けてきたのに対し、トランプ氏はロシアや欧州と役割分担し、米国が世界の警察でも、世界の一極覇権でもない世界を作ろうとしているように見えます。
『マンさんの経済あらかると』(2016年11月9日号)より抜粋・再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による
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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。