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米国で想定される2つの金融政策~「順番とタイミング」が焦点に=福永博之

米国のバランスシート縮小と利上げは、「いつ、どの順番で」実施されるかが重要。日米金融施策の注目点を、テクニカルアナリストの福永博之氏が解説します。(『グローバルマネー・ジャーナル』福永博之)

※本記事は、最新の金融情報・データを大前研一氏をはじめとするプロフェッショナル講師陣の解説とともにお届けする無料メルマガ『グローバルマネー・ジャーナル』2017年7月26日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に定期購読をどうぞ。
※7月20日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております

プロフィール:福永博之(ふくなが ひろゆき)
IFTA国際検定テクニカルアナリスト、(株)インベストラスト代表取締役、ビジネス・ブレークスルー大学 資産形成力養成講座講師。テレビ、ラジオ、多数のマネー雑誌などで投資戦略やテクニカル分析をプロの視点から解説し、人気を博している。

米バランスシート縮小と利上げはいつ、どの順番で行われるのか?

フォローすべきはバランスシート縮小のタイミング

日銀は緩和を続けると言っているわけですが、アメリカの方では、バランスシートの縮小まで考えているにもかかわらず金利がなかなか上がりません。今後世界のマーケットへ与える影響を考えた場合、フォローしておくべきことは、まずはバランスシート縮小の時期です。

今月もFOMCがありますが(※編注:本稿執筆時点7月20日)、その文言の中で、時期を示唆するような何らかの言葉が付け加えられるかどうかがポイントになってきます。今回は会見はなく、基本的には声明文だけなので、何も動きはないと思われていますが、その中でも今後の示唆があるかどうかは注意が必要です(※編注:FOMCは7月25・26日両日の定例会合後の声明で、バランスシート縮小を「比較的早期に」開始するとの方針を示しました)。

もし仮に実際にバランスシートの縮小を発表したとすると、金利がどちらに動くのか考えておかなくてはいけません。バランスシートの縮小というのは、再投資をしないということです。日銀の場合は指値オペをして高い値段で買ったわけですが、そうなると金利は低下します。一方、再投資をしないということは買いが入ってこないということになり、金利は上がります。よってロジックとしては、金利は上昇する方向に向かうはずなのです。実際に行われたときに金利が上がっていくのかどうか、見ておかなくてはいけません。

なぜバランスシートの縮小と利上げが同時に行われないのかというと、両方を一度にやってしまうとインパクトが強すぎるからです。

バランスシートの縮小は、マーケットの需給から金利を押し上げようという流れです。一方、FFレートを引き上げることは、市中からお金を吸い上げるということになります。全く違う手段ですが、どちらからも金利押し上げ効果が出ると大変なインパクトになってしまうのです。

政策を打ち出す「順番」も重要

そしてもう1つ重要なのが、その順番です。

マーケットでは利上げを先にするのではなく、バランスシートの縮小を先にするという見方が多くなっています。次にイエレン議長の会見があるのは9月なので、バランスシートの縮小が9月にあって、その次に会見が行われる12月に金利を上げるのではないかという見方が大勢です。このように2段階でやるというのが今のマーケットの見方です。

しかし一方では、FFレートを先に上げておいて再投資で調節するという考え方もあります。このようなことから、金利に与える影響のシミュレーションをしておくと良いでしょう。

ただ、いずれにしても金利が上がって、悪い金利上昇となった場合には注意が必要です。景況感が良ければ利上げをしても大丈夫と冷静に受け止められますが、再投資もなくなり需給が悪化している中で、景況感もそれほど良くない場合には、再び緩和に向かうという話にもなりかねません。そうなると株価は業績さえよければ大きな下落にはならないかもしれませんが、景況感が悪く割高感が目立てば、調整に入る可能性が出てくるので、ポートフォリオの中にNYダウの指数などを持っている方は、特に注意が必要です。

Next: 【日本】出口戦略の話は時期尚早。黒田日銀は相当がんばっている



久々の日銀サプライズ

日本の金利水準を確認してみましょう。グラフで最も高いところは0.1%近辺です。逆に一番低いところは、マイナス0.3%をつけています。そこまで低くなった理由は、日銀がマイナス金利を導入したことによるものです。ただ実際に導入が発表された後は、一旦落ち込んだものの回復し、日銀はマイナス金利を継続しているものの、実際の長期金利はプラスを維持しているという状況です。

そうした中で、消費者物価指数の推移を見ると100を超えてきていて、なんとなく高止まりの様子を見せています。これまでは戻そうとしても戻しきれずに押し返されていたわけですが、今回は2カ月連続で上昇しています。

世界情勢を見ると、アメリカは利上げ、ないしはバランスシートの縮小に入っており、一方、ユーロ圏ではECBがテーパリングをするかもしれないとして、ドラギ総裁が景況感にも前向きな話をしています。そうした中で、日本でも長期金利がやや上昇してきているとなると、日銀も出口戦略などという話が出るのではないかとマーケットは考えてしまいがちです。

そこで重要となるのが、今回の金利の低下局面です。実際に黒田総裁が指示をしているのかどうかは分かりませんが、前にも黒田バズーカは2月14日に行われ、バレンタインデーの贈り物などと言われました。そして今回も七夕の7月7日に日銀は行動を起こしたのです。この日、日銀は指値オペというものを実施しました。

債券は、価格と金利が逆相関になります。価格が上がれば金利は低下するわけです。そこで日銀は指値オペといって、いくらで買いますと定めたオペレーションを通達したのです。つまり、高い値段で買うということで、それだけ金利の低下につながるのです。ではどれだけ買うのかというと、今回のオペレーションでは無制限で買うとしたのです。指値オペで出てきたものはすべて買うとやったわけです。

黒田日銀は相当がんばっている

金利の上昇傾向で日本も出口かと言われていたところに、日銀は低金利を続けるのだという姿勢を、今回の7月7日の指値オペではっきり示したのです。しかも、そうした行動はサプライズだったので、金利はその後再び低下傾向になっています。日本が出口戦略に向かうなどということは時期尚早、それほど早いものではないというメッセージをマーケットにはっきり見せたというところがポイントなのです。こうしたことにより、国債の価格も安定しているのです。

そして為替についても、アメリカの長期金利が低下してくれば日米の金利差は縮まるので、日本の金利低下の余地もそれほどない中でアメリカ金利が低下すると、どうしても円高になりがちです。しかし以前のように100円台前半にはなっていません。これも、日銀の示した姿勢が背景にあります。この指値オペを行った当日も大きく円安に触れました。

市場へのメッセージマーケットの安定円安、この3つの効果を狙ってオペを行っていたのだとすれば、これは相当がんばっていると評価できることだと思います。これまでの日銀の総裁たちは何をしていたのかと思うほどです。そしてこうしたことが、信頼の蓄積、積み上げにつながって、何かをしたときに大きなインパクトになるのです。あるいは、出口戦略などの話になったときのインパクトを、逆に小さくするような、マーケットの信頼に結びついていくことになるのです。今回の政策は、非常に意義のあるものだったと思います。


※本記事は、グローバルマネー・ジャーナル 2017年7月26日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に無料購読をどうぞ。

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グローバルマネー・ジャーナル』(2017年7月26日号)より抜粋
※記事タイトル、太字はMONEY VOICE編集部による

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