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完全に土俵を割った「改憲ひとり相撲」安倍政権はいつ終わるのか?=高野孟

安倍首相が10月総選挙に打って出るとの話がまことしやかに語られているが、これは2つの理由で難しい。ほぼ実現は不可能となった改憲の行方とともに解説する。(『高野孟のTHE JOURNAL』高野孟)

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2017年8月7日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

あり得ない10月解散。安倍首相の悲願である「改憲」は頓挫する

「安倍3選はない、改憲もできない」亀井氏

閉会中審査に自ら出席して加計学園疑惑にケリをつけたうえで、党・内閣人事を刷新して反転攻勢に出ようという安倍晋三首相の策謀は、うまくいかなかった

各紙の早速の世論調査で、内閣支持率は、
共同:44%(8ポイント上昇)
読売:42%(6ポイント上昇)
毎日:35%(9ポイント上昇)
日経:42%(3ポイント上昇)
と戻してはいるけれども、人事改造への“ご祝儀”プラス“野田聖子効果”という程度に過ぎない。

その証拠に、それぞれの不支持率は43%、48%、47%、49%で、共同を除いていずれも不支持が支持をかなり上回っている

さらに不支持の理由としては、いずれも首相の加計学園疑惑への答弁などが「信用できない」がトップで、毎日調査ではそれが71%に達し、「信用できる」はわずか15%にすぎなかった。

このように、「人間として信頼できない」という感じ方が7割にまで広がってくると、回復は難しい。亀井静香が『サンデー毎日』8月13日号で吠えているように「安倍3選はない、改憲もできない」と見るのが至当で、となるとこの政権はいつ終わるのかという問題になってくる。

10月総選挙というギャンブル?

永田町の政局雀の間では、安倍がこの行き詰まりを打開するために10月に総選挙に打って出るのではないかという話が、まことしやかに語られている。

が、第1に、そもそもこのような総理大臣の自己都合による政権延命のためだけの――ということは国民の生活上の切迫した必要や国家の行く末に関わる重大な選択とは何の関係もない総選挙を、「伝家の宝刀」とか言って総理が好きな時に打てるということ自体が許されることなのかどうか

周知のように、憲法第5章「内閣」の第69条では「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、または信任の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない」とあって、これが憲法上、衆議院解散についての唯一の規定である。

ところが、第1章「天皇」の第7条に「天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ」としてその第3項に「衆議院を解散すること」とあるので、これを逆さまにして「内閣は天皇に助言することを通じて、いつでも好きな時に衆議院を解散することができる」とする、いわゆる“7条解散”論が吉田内閣以来、罷り通ってきた。

これはどう考えてもおかしな話で、第69条に従って衆議院が解散された場合に、その形式的な宣言は第7条によって天皇が行うというだけのことにすぎない。議院内閣制の先輩である英国でも、2011年の解散制約法によって、内閣が無条件の解散権を持つものではないとされていて、総理の好き放題の解散が許されているのは、世界の先進国で日本だけである。

なお、民進党の枝野幸男=憲法調査会長は、7条解散は本来認められるべきでないが、長年認められてきたので今さら解釈を変更するわけにはいかず憲法上で「解散権の制限」を明記すべきだと主張している(文藝春秋17年5月号)。

Next: 安倍首相が「10月解散」を決断できないこれだけの理由



安倍首相は10月解散を決断できない

第2に、10月解散論が浮上する1つの理由は、22日に愛媛3区青森4区で、いずれも自民党衆院議員の死去に伴う補選が設定されており、これに野党が候補者調整に成功して一本化して臨めば自民が2敗する可能性があるので、野党にそこに力を集中させないために解散・総選挙を被せて引っかき回してしまった方が有利ではないか――という点にある。

が、これはあまりにも党利党略的な、まさに解散・総選挙の弄びで、忙しい国民はそんなことに付き合っている暇はない。

しかも、秋の臨時国会では冒頭から加計・森友問題が再燃するなど、支持率が再び下落する可能性が大きいなかで、無理に解散に持ち込むということは、現状の“改憲勢力”3分の2を自ら投げ捨てて、自公で何とか過半数を確保して政権を維持することはできるだろうという、かなり際どいギャンブルに打って出ることになり、それはとりもなおさず、改憲発議を断念するという意味になる。

ところが、安倍にとって情熱を注ぐべき大きな課題はもはや改憲しか残っていないのだから、こんなところで頓狂な解散を打って、敗北すればもちろん引責辞任だし、過半数を確保しても改憲はできずにアイデンティティ喪失状態に陥るだけである。

あまりにも馬鹿げた話なので、いくら安倍でもこの選択はしないのではないか

「日程ありき」ではなくなった改憲

安倍は組閣後の会見でも、その2日後の読売テレビ番組でも、自らが5月に宣言した

  1. 臨時国会中に自民党の改憲原案をとりまとめ
  2. 来年通常国会中に衆参両院で改憲を発議し
  3. 2020年に施行する

――というスケジュールについて、「日程ありきではない」と言い出した。

これは安倍にとって重大な後退で、それが直接に意味するのは、「臨時国会中に自民党案がまとまらなくても仕方がない」ということである。

この日程は、安倍が、自民党の3役はもちろん憲法改正推進本部の保岡興治本部長をはじめとする憲法族と相談して決めたことではなく、日本会議系の団体へのビデオメッセージと読売新聞インタビューで一方的に表明して彼らに押しつけようとしたものであるから、もしその通りにならなければ安倍が一人で責任をとらなければならない。どうも党がまとまりそうもないので、予め逃げを打ったのである。

しかし、ここで滑ると、次に一体いつまでにまとまるのかは、何の保証もない。そのまま自民原案提出見送りとなれば、そこで安倍流改憲は挫折し、彼の政治生命も終わる。何とか原案がまとまったとして、公明党や野党との本格的な議論が始まるけれども、こればかりは審議打ち切り、強行採決というお得意のやり方は通用しないから、いつまでかかるのか分からない。

来年の通常国家中に発議という安倍が希望する日程も当然、先送りとなり、そうなると発議よりも来年9月の自民党総裁選が先になるのだが、改憲で半ばずっこけた形の安倍は(それまで政権が続いていたとして)何を訴えて3選に挑むのだろうか

国民の間にも「安倍の改憲ドタバタ劇はもう結構だ」という気分が今以上に広がっている公算が大きく、もうヨレヨレの安倍よりも野田聖子小泉進次郎ガラッと目先を変えないと総選挙が戦えないというような機運が生じているかもしれない。そこで安倍がコケれば、彼流の改憲もご破算となる。

Next: 万一、安倍首相が18年9月に3選を果たしたとしても…



万一、安倍首相が18年9月に3選を果たしたとしても…

ほとんどあり得ないことだが、仮に安倍が18年9月に3選を果たしたとして、衆参で3分の2を確保できているのは同年12月13日の衆院議員の任期切れまでなので、それまでに慌ただしく発議しなければならず、ましてや衆議院選挙国民投票をダブルでやろうとすれば、発議後60~180日で投票と定められているので、10月前半に発議しなければならない。これは、政権によほど力が溢れていても突破するのが難しい難局で下り坂の政権では到底無理だろう。

こうして見ると、安倍改憲は、

  1. 自民党内が安倍の「9条加憲論」というフォークボールのような案でまとまるのか
  2. それに公明党野党は乗ってくるのか
  3. 民進党はじめ野党4党はこの案では乗ってこないので、その場合、強行採決で発議に持ち込むのか
  4. 発議しないうちに自民党総裁選が来てしまって3選できるのか
  5. 仮にできたとして衆院選前に発議できるのか

等々、いくつもの高いハードルを乗り越えなくては実現しない――というか、この(1)か(2)あたりでもう引っかかって立ち往生することになる可能性が大きい。
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大日本主義の徒花 「安倍政治」に対抗するヴィジョンとは

無謀な突撃こそ記者の本源


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高野孟のTHE JOURNAL』(2017年8月7日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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