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バノン解任という茶番。ネオナチを擁護するトランプは戦争に舵を切るのか?=斎藤満

トランプ大統領がバノン首席戦略官を解任し、米政権混乱の収束が期待されています。しかしこれで政権が安定し政策遂行が進むかと言えば、答えはノーです。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年8月21日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

トランプ大統領自身が辞任しない限り世界の不安定化は止まらない

バノン首席戦略官兼上級顧問を解任

18日金曜日のニューヨーク市場では、底の見えないトランプ政権不安で株もドルも売られていましたが、トランプ大統領がバノン首席戦略官兼上級顧問を解任したと伝えられると、相場は落ち着きを取り戻しました。政権混乱の主犯がバノン氏にあり、その彼が政権を離れたことが好感されました。果たしてこれで政権に安定が戻り、政策遂行が進むのでしょうか

答えは「ノー」です。確かに、表向きはティラーソン国務長官コーンNEC委員長がバノン氏と激しく対立し、ティラーソン氏やコーン氏の辞任説が流れ、そうなるとトランプ政権内の穏健派の意見が通らなくなり、トランプ政権の異常性が加速し、政権が持たなくなるとの懸念が出ていました。しかし、混乱の目はバノン氏にあったのではなく、トランプ氏自身にあると考えられます。

白人至上主義に傾倒し、ネオナチを擁護するトランプ

トランプ政権の政策の中心になると期待されるゲーリー・コーンNEC委員長は、ゴールドマン・サックスのナンバー2であったことが強調されますが、同時に彼は民主党員で、ユダヤ系です。党派を超え、宗派を超えて彼の能力が評価されて政権入りを勧められたのですが、トランプ氏の15日の会見コメントを聞いて動揺を隠せなかったと言います。

バージニア州での白人至上主義者市民グループの衝突後の最初のコメントで、トランプ大統領は「原稿」を読み、何とかKKK(クー・クラックス・クラン)など白人至上主義を批判した形になりましたが、その表情は渋々読まされたという不快感に満ちていました。

一方、15日の会見では、原稿なしでトランプ氏の言葉で語られ、生き生きとした表情で、KKKやネオナチの中にも「非常に良い人間がいる」と擁護しました。そして「衝突は白人至上主義のKKKやネオナチ・グループだけが引き起こしたのではなく、メディアは書かないが、私はこの目で見たのであえて言うが、反対派グループにも悪い奴がいて、双方に責任がある」と発言しました。

これをそばで聞いたケリー首席補佐官は吐き気がするほど驚いたと言い、コーン委員長もショックを受けたと言います。

つまり、バノン氏の演出ではなく、トランプ大統領自身が白人至上主義に傾斜している面があるということです。表向きは「イスラエルを愛している」と言い、自身の娘イバンカ氏がクシュナー氏の影響を受けてユダヤ教に改宗しましたが、トランプ氏自身が必ずしもユダヤ・シンパとは限りませんネオナチに理解を示している節が見られます。

Next: 政権内の「穏健派」対「軍事産業派」の対立が戦争を引き起こす



トランプは「ユダヤ人向けビジネス」を継いだだけ

トランプ氏の家系はドイツからの移民で、父親がユダヤ人の資産を隠すために、「ドイツ系」でカムフラージュし、彼らの資金を預けさせ、不動産に運用させていたと言います。親がユダヤ人相手に不動産ビジネスをしていたのを、息子が引き継いだだけの話です。娘婿のクシュナー氏はユダヤ人ですが、やはり不動産ビジネスで財を成し、イスラエルのネタニアフ首相とのパイプ役になるなど、橋渡し役を果たしています。

従って、イスラエルを最も愛するというトランプ大統領がネオナチを擁護するような発言を繰り返せば、政権中枢を占めるユダヤ系幹部の離反を招きかねません。トランプ政権のアドバイザリーを果たしていた財界幹部が、トランプ氏に近いと見られることが業務上の大きなリスクとして離反しましたが、コーン委員長周辺にも同様の意識があり、トランプ氏からの離反を勧める声が出ています。

政権内の「穏健派」対「軍事産業派」の対立は消えていない

トランプ政権の最大の不安定要因はこの「トランプ・リスク」で、これはトランプ大統領自身が辞任するしかないのですが、バノン氏という「触媒」効果を果たした人物がいなくなっても、まだ政権内の、あるいはロックフェラー系内部での「穏健派」対「軍事産業派」との対立は消えていません

後者はバノン氏抜きでも大きな力を持ち、日本に対しても軍事防衛費の拡大を迫り、PAC3では北朝鮮のミサイル防衛には十分でないとして、オンショア・イージス、つまりイージス艦配備のミサイル防衛システムを陸上配備するよう迫り、さらには、日本にも「THAAD」を配備させようとの動きも見られます。

河野外務相小野寺防衛相がワシントンに飛び、「2プラス2」に参加しているほか、来月には麻生財務相も急きょ訪米することになりました。これらは、日本の防衛体制強化、軍事費拡大に向けての地歩固めともみられます。

さらに、北朝鮮にはすでにロシア軍が入っていますが、亡きデビッド・ロックフェラー氏は、核兵器の管理をロシアのプーチン大統領と共同で進める考えを持ち、北朝鮮の核問題も、中国ではなくロシアに任せる可能性があります。そしてロシア軍の動きを正当化するために、あえて米国が北に軍事介入する、とのシナリオもあります。

これはロックフェラー系でも軍事産業派の考えで、ティラーソン国務長官など、同じロックフェラー系でもエネルギー系穏健派とは対立します。またやはりトランプ政権に影響力を行使するロスチャイルド系も、この軍事産業派とは対立する面があります。

ロックフェラーの軍事派はこれまでISを訓練支援したと言われ、トランプ氏はこのIS掃討を掲げていますが、そのISが中東の拠点を失い、欧州やアフリカでテロを展開しています。トランプ大統領はロックフェラー軍事派とともに、テロ掃討に軍備拡大、軍事路線に傾斜する可能性があります。

Next: 世界で進む人種・宗派の分断。米国発の不安定化は止まらない



米国発の不安定化は止まらない

米国ばかりか、世界でいまや人種、宗派ごとの分断が進み、不安定化が進んでいます。トランプ政権はその流れの中で生まれたもので、バノン氏1人を切ったくらいで政権の本質が変わるものでなく、トランプ大統領が辞任しない限り、米国発の不安定化はなかなか止められないのではないかと思います。これは経済にも市場にも影響が避けられません。米株の下落リスクはむしろ高まっています。
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マンさんの経済あらかると』(2017年8月21日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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