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投機筋に狙われた円。2017年は「1ドル=140円」の超円安に現実味も=斎藤満

現在の投機筋は利食いを急ぐ必要はなく、円安の継続をゆっくり楽しめる状況です。為替相場は、昨年半ばにつけた1ドル=125円台や、1ドル=140円の可能性も出できました。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2016年12月21日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

トランプ・ラリーのターゲットは1ドル125円か?それとも140円か?

主要通貨の中で突出して下落した円

米国大統領選挙でトランプ氏が「まさかの勝利」をはたして以来、日本の円が、メキシコ・ペソを除くと、主要通貨の中で突出した下落を見せました。

ユーロドルはECBが緩和の延長を打ち出すまでは2%程度の小幅下落にとどまり、ポンドはむしろドルに対して上昇を見せたのに対し、円だけがドルに対して101円台から118円台にまで急落しました。

円だけがなぜここまで急落したのか?ここで投機筋の果たした役割は少なくなかったようです。シカゴIMMの通貨先物のうち、投機筋の動きを反映しやすい「非商業取引」をみると、円の「買い」については大統領選直前の7万枚程度から12月13日の週の6万枚強まで、1万枚弱の減少に留まりましたが、「売り」が4万枚から12万6千枚まで急増しました。

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この結果、ネットのポジションは選挙直前の3万枚程度の「買い越し」から、足元では6万3400枚の「売り越し」に大きく変化しました。この投機筋による大規模な「売り」が、この間の急速な円安をもたらした形になっています。

因みに、この間、豪ドルの「買い越し」がやや縮小した以外、その他通貨の先物ポジションは、ポンドもユーロもほとんど変わっていません。

なぜ円は「狙い打ち」されたのか?2つの理由

まさに、円が狙い撃ちされた形になっています。円が狙われた背景としては、少なくとも次の2つが考えられます。

1つには、いわゆる「ミセス・ワタナベ」といわれる一般投資家が大きく円ロングに傾いていたことがあると言われます。大きな力を持つ投機筋からみれば、絶好の「餌食」がいたことになります。餌食が多ければ多いほど、投機筋のもうけも大きくなります。

もう1つは、日銀の10年国債金利の「ピン止め」が認知されていたことです。このため、トランプ次期大統領の大規模減税や公共投資によって米国金利が上昇すれば、日米金利差が最も確実に拡大が見込め、それだけ円安に賭けやすい面があります。

実際、この1か月余りの間、米国10年債金利が0.8%も上昇し、欧州の国債利回りもこれにつれて上昇していますが、日本の10年国債利回りは日銀の意図を市場が認識していることもあって、0.1%強の上昇に留まっています。つまり、日米金利差が最も大きく拡大しています。これが事前に予想できただけに、投機筋は円を攻めやすかったことになります。

投機筋の動きは、状況が変われば、あるいは利益確定をすることで、ポジションの巻き戻しが起こり、その分一時的に円高に動くこともありますが、日銀の政策スタンスはすぐには修正されず、円の先安観が強ければ、投機筋の円売りが長期間維持される可能性があります。実際、アベノミクスの前半では彼らの円売りは長期化し、ネット売り越しは10万枚を超えました。

また、裏を返すと、ここまでは投機筋が先行して円売りを重ねた一方で、一般投資家の円売りは出遅れている可能性があり、今後一段と米国金利の上昇が予想されるだけに、ここからは実需筋の円売りドル買いが高まる可能性があります。

投機筋にしてみれば、彼らの「仕掛け」で流れができ、ここから一般投資家の「提灯」がつけば、彼らの売り持ちは一層の利益を呼びます。

Next: 投機筋が利食いを急ぐ理由消滅。1ドル=125円、そして140円へ?



投機筋が利食いを急ぐ理由が消滅

そうであれば、投機筋も「利食い」を急ぐ必要はなく、円安の継続をゆっくり楽しめることになります。それだけ円安がさらに大きく進む余地があり、近いうちに昨年半ばにつけた125円台を試しに行くと見られます。

ここまでは米国側からドル高に対し、特段のクレームは聞かれません。安倍政権からも一部を除けば、むしろ円安・株高を歓迎しています。

ドル高といっても、ドルが上昇している相手通貨は、主要国通貨では人民元くらいで、あとは新興国通貨です。ドル高自体、本来は米国が困るはずですが、「偉大な米国」を掲げる米国からはドル高許容のムードがあります。

米ドル/円 週足(SBI証券提供)

逆に通貨安で悲鳴を上げるのは、資本流出、コスト高の物価高でこまる新興国や、日本の消費者、中小企業となります。

新興国でも、資源価格がやや上昇するようになった分、余裕があり、むしろ新興国のなかでは中国経済への影響が最大の課題となります。昨年夏と今年の初めには、人民元の急落で株価が急落しましたが、その後上海市場は政府管理下に置かれて動かなくなり、資本規制も強化された分、昨年のような市場混乱は起きていません。

欧州通貨は安定し、不満は聞かれず、偉大な米国を目指し、積極的な財政策を打ち出す米国も、ドル高に苦しみ、「第2のプラザ合意」を求めてくるには、まだかなりの時間が予想されます。

1ドル=140円も視野

そうなると、日本の消費者、中小企業が悲鳴を上げ、それを政府が認識して動くようになるまで、円安ドル高が進む可能性があります。来年は125円を超え、140円も考えられます。

「第2のプラザ合意」で140円の円安ドル高が修正されるときは、次に大幅な円高がやってきます。投機筋には絶好の稼ぎ場になりますが、日本の企業には大きな負担になります。

これを回避するには、第2のプラザ合意に至る前に、為替の軟着陸が必要で、その場合、日銀による10年国債金利の「ピン止め」や、資産買い入れ額の見直しが検討されると思われます。
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※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2016年12月21日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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マンさんの経済あらかると』(2016年12月21日号)より抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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