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小池百合子はなぜ嫌われたのか?「排除します」だけではない失敗の本質=近藤駿介

いくつかの認識ミスと戦略ミスにより、「小池劇場」は投票日前に千秋楽を迎えてしまった感がある。なぜ小池代表は自身の致命的な失敗に気づけなかったのか?(近藤駿介)

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任し、教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える切り口を得意としている。

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「政権選択選挙」が「消化試合」に。小池代表が犯した戦略ミス

「小池劇場」はバッドエンド濃厚?

「私、失敗しないので」

希望の党」立ち上げと共に華々しく開幕した「小池劇場」だったが、人気ドラマのような決め台詞で締め括られるのは期待薄になってきた。

選挙戦スタートこそ大いに盛り上がりを見せた「小池劇場」だったが、公示日前に小池代表が放った(民進党出身議員の一部を)「排除いたします」という不用意な一言から、流れは大きく変わってしまった。

都議会選挙では安倍総理の「こんな人たちに負けるわけにはいかない」発言など敵失に助けられて大勝した小池都知事だったが、「女性初の総理大臣」を賭けた本番の衆議院選挙戦では自らの発言で勢いを失い、公示から1週間も経たないうちに「自民党一人勝ち」状況を作り出し、選挙戦全体を「消化試合」のような盛り上がらないものにしてしまったのは皮肉なことである。

各社の世論調査が揃って「自民党の改選議席を上回る圧勝」観測を伝えているなかで、「小池劇場」には最後のどんでん返しが用意されているのだろうか?もしかしたら、どんでん返しのシナリオも用意されていたのかもしれない。

しかし残念ながら、どんなどんでん返しのシナリオが用意されていたとしても、それを打ち出すことも、流れを変えることも極めて難しい情勢になってしまっている。

「立憲」の後塵を拝しかねない大苦戦

各社が選挙戦中盤の情勢を伝えるところによると、政権交代を目指す、つまり過半数を目指すと公言していた「希望の党」の獲得予想議席数は過半数の233議席は言うに及ばず、公示前の57議席すら確保が危ぶまれる状況になっている。

それどころか、小池代表が「排除」した民進党議員を中心に急遽起ち上げられた立憲民主党の後塵を拝する可能性まで指摘されてきており、野党第一党の座確保すらも危うい状況である。

有権者の関心が「小池劇場」の行方から離れ、選挙の焦点が「自民党がどの程度負けるのか」から「自民党がどこまで議席を伸ばすのか」に移ってしまった今、「小池劇場」がどんでん返しシナリオを繰り出しても、残念ながら有権者を振り向かせることは難しいだろう。

小池百合子は何に足をすくわれたのか?

すっかり勢いを失ってしまった「希望の党」は、数カ月前に圧勝した都議会選挙が嘘のように、小池代表の地元東京ですら苦戦を強いられている。

「希望の党」が失速するきっかけになったのは、小池代表が発した「排除します」という、当初のシナリオには書かれていなかったアドリブで発した一言だった。

メディア出身であり、政党でも広報部長などを歴任してきた小池代表は、安倍総理の「こんな人たち」発言と、自身の「排除します」という言葉が同質であり、「希望の党」に期待をかけようとする有権者の失望を買うものだということに、なぜ気づけなかったのだろうか?

Next: 希望の党の選挙戦略に大誤算。嫌われた「小池一強体制」



選挙戦略に大誤算

こうした発言を生み出した背景には、小池代表が描いていた選挙戦略の前提となる認識に幾つかのミスがあったと考えられる。

まず、根本的なミスは、都知事選挙、都議会選挙と連勝したことで、小池代表が自らの高い人気で選挙戦を乗りきろうとしたことである。

小池代表が戦いのターゲットに設定したのは、「一強体制」に陰りが見え始めていた安倍政権であった。その安倍政権の支持率が30%台まで下がってきた大きな理由は「人柄が信用できない」からであり、その一方、支持理由として多いのは「他の政権よりよさそう」という状況だった。

有権者からこのような評価を受けている安倍総理に戦いを挑むのであれば、徹底的に「人柄が信用できそう」「安倍政権よりはよさそう」という印象を植え付けることに注力するべきであった。つまり「相対比較」で比較優位に立つことに徹するべきだったのだ。

しかし、都知事選挙と都議会選挙で予想以上の勝利を収めたことで、小池代表の頭の中では、自分が「人柄は信用されている」「安倍政権よりよさそうだと思われている」ということが「自明の真理」と化していたのかもしれない。

もし、「人柄が信用できそう」「安倍政権よりはよさそう」という印象を植え付ける演出に徹する覚悟があれば、「排除します」という台詞は出てこなかったに違いない。

嫌われた「小池一強体制」

さらに小池代表が見誤ったのは、「安倍一強体制」に対する有権者の批判の対象が、森友・加計問題に代表される「友達優遇」や「忖度」であると、極めて狭く捉えたことである。

「友達優遇」や「忖度」を小池代表は「しがらみ」と称して批判を加えたが、それらは「一強体制」の結果として生み出されるものであり、有権者の批判はそれらを生み出す「一強体制」そのものに向けられているという認識に欠けた批判でもあった。

有権者の多くが「一強体制」に不安と不満を抱いているなかで、「安倍一強体制」から「小池一強体制」に「一強」の主役を変えるかのような訴えは有権者に届きにくいものである。「忖度」の対象が、安倍総理から小池代表になることを有権者が望んでいるわけではないからだ。

そうした面で、「希望の党」にとって不幸だったのは、突然の「大義なき解散」によって急こしらえで立ち上げられた政党だったこともあり、「小池百合子」以外に主役を張れる人物がいなかったことである。

Next: 小池代表の「不運」と、有権者を失望させた「最大のミス」とは?



小池代表の「不運」

実社会でもそうだが、新会社や新組織を立ち上げる際には、リーダーとなる人物の強いリーダーシップがどうしても必要になる。

突然の解散によって、「安倍一強体制」に対する不満と批判を取り込むために急遽立ち上げられた「希望の党」が、「小池一強体制」にならざるを得ない宿命を背負わされたことは小池代表にとって不運だったと言える。

こうしたなかで、「小池人気」にあやかろうとして公認を求めてきた候補者に対して「政策協定書」という踏み絵を踏ませたことが表面化してしまったことも、逆風を強くする要因となった。

「希望の党」における「小池一強体制」が、自民党における「安倍一強体制」よりも強い印象を与え、政権の「一強体制」に疑問を感じている有権者離れを起こした大きな要因になったと思われる。

そして、こうした幾つかの認識ミス、不幸な宿命を抱えるなかで、小池代表は戦略的にも大きなミスを犯すことになる。

小池代表「最大のミス」

小池代表の最大のミスは、自らが衆議院選挙に出馬しなかったことである。小池代表自らが出馬しなかったのは、世論調査で「都政に専念するべきだ」という意見が圧倒的に大きかったからだと言われている。

しかし、「希望の党」を立ち上げた際に公開したプロモーションビデオでは、小池代表を連想させる女性が、通路の両側に立つ男性陣から批判を浴びながらも毅然として目標に向かって歩み続ける力強い姿が描かれていた。

このプロモーションビデオを見た有権者の目に、世論調査結果に基づく世間の批判を気にして出馬を見送った小池代表の姿が、口だけの女性、期待外れの人物に映ってしまったとしても不思議なことではない。

「希望の党」立ち上げによって選挙戦序盤戦でメディアジャックに成功していた小池代表であるが、「全員を受け入れるということはサラサラありません。排除いたします」という「排除の論理」が強調され繰り返し報道されるなど、メディアが報じる内容は小池代表にとって不都合とも言えるものも多く、むしろメディア露出によって小池代表や「希望の党」に対する好感度は向上するどころか悪化しかねない状況にあった。

メディア報道は、公示前はある程度自由だが、それ以降は各候補者、政党を平等に扱うことが原則になっている。それ故、小池代表が衆議院選挙に出馬をしなかったことで、公示前にメディアをジャックすることによって植え付けられた負のイメージだけが視聴者の脳裏に残る結果を招いてしまった。

逆に、公示日に小池代表が出馬宣言をしたとしても、公正な報道に努めなければならないメディアは「都政投げ出し批判」を大きく取り上げることは難しく、負のイメージだけを残すような結果にはならなかったはずである。

少なくとも小池代表が出馬していれば、「小池劇場」がどのような幕引きになるのかに対する期待が残される分、「希望の党」に対する期待を投票日まで繋ぎとめることもできたはずであり、現状の「消化試合」のような盛り上がりのない選挙戦にはならなかった可能性が高い。

Next: 「小池劇場」がもたらした2つの可能性と「宴の後」の懸念



「小池劇場」がもたらした2つの可能性

いくつかの認識ミスと戦略ミスによって、「小池劇場」は投票日前に千秋楽を迎えてしまった感がある。しかし、小池代表と「希望の党」は、一定の貢献をもたらしたと評価をするべき点もある。

「小池劇場」は、具体的には次の2つの貢献をもたらしたと言える。

1つは、「保守」「リベラル」の分類を明確にしたことであり、同じ「保守」勢力内での政権交代の可能性を示したことである。これにより今後、有権者の意思とかけ離れたところで「自民党政権を倒す」という目的のためだけに「保守」と「リベラル」が野合を繰り返す愚行に歯止めがかかることが期待される。

2つ目は、バッジを付け続けるために自分を売る可能性がある議員の仕分けをしてくれたことである。「希望の党」が公認希望者に踏ませた「政策協定」は、有権者が候補者に踏ませた踏み絵にもなった。

「宴の後」に横たわる懸念材料

「希望の党」の想定以上の失速によって、「政権交代が起きるか」という緊張感のある総選挙は、「自民党がどこまで勝つか」「どこが野党第一党になるか」「自民大勝報道に対して、どの程度の揺り戻しがあるか」という緊張感の乏しいものになってしまった。

そのため、世論調査の結果どおりに自民党が大勝することによって「禊(みそぎ)がすんだ」とされることに対する懸念の声もあるが、「小池劇場」の「宴の後」にもまた、大きな懸念材料が存在している。

日本初の女性総理」を目指していたとされる小池代表が、総選挙でその野望が一旦断たれる形となったときに、国政にも都政にも気持ちが向かなくなる可能性は否定できないこと。都知事になったのも「日本初の女性総理」へのステップの1つという位置づけであったとしたら、都政を投げ出す、あるいはやる気なく漫然と都知事を続けるという、有権者にとって不幸な状況が訪れないとも限らない

それと共に、「小池一強体制」が残した「希望の党」が、野党として果たして機能するのか?という点も大きな懸念材料となる。

こうした懸念を払拭するためにも、小池代表には「日本初の女性総理」の椅子が遠のいたとしても、これまで以上に国政および都政に真剣に向き合ってくれることを期待したい。

その点、小池代表にとって心強いのは、安倍政権が「再チャレンジ可能な社会を構築する」ことを政策の目玉の1つに掲げているところ。

安倍総理自身が小池代表に対して「基本的な理念は同じだろう」という認識を持っているうえ、「国務大臣と都道府県知事の兼任を禁止する明文の規定はない」のだから、事前の予想どおり安倍総理が政権を維持することになった暁には、小池代表を「再チャレンジ担当内閣府特命大臣」に任命するくらいの遊び心を見せてもらいたいものである。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年10月19日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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