マネーボイス メニュー

霞が関と安倍官邸の大誤算が生んだ「東芝7000億円特損」本当の理由=中島聡

東芝が米原子力事業で約7,000億円の特別損失を計上することになった経緯について、メルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者で世界的プログラマーの中島聡さんは「デタラメ」と一蹴。安倍政権や霞が関の思惑が絡み合う、巨額損失の「本当の理由」を解説しています。

※本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2017年1月31日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:中島聡(なかじまさとし)
ブロガー、起業家、ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)、MBA(ワシントン大学)。 NTT通信研究所、マイクロソフト日本法人、マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発に携わっている。

ここにも原子力ムラの影。東芝「7000億円特別損失」の大嘘とは?

本当は2011年から破綻している東芝

東芝が7,000億円の特別損失を計上することを発表しました。東芝は、2015年の末に(子会社である)ウェスティングハウスが買収したS&Wの資産が大幅に目減りしたことを理由にしていますが、これはとんでもないデタラメです。

【関連】瀕死の東芝に投資チャンスはあるか? 上場廃止シナリオが再浮上=栫井駿介

この特別損失は、本来であれば、2011年の福島第一の事故の影響で大幅に下がったウェスティングハウスの企業価値を反映し、(それが明確になった)2013~2014年の時点で計上すべきものでした。

しかし、債務超過に陥ることを何としてでも避けたい経営陣と、「国策」である原発が事業として成り立たないことを認めたくない霞が関との利害関係が一致し、東芝はのれん代の償却を見送ることを決めました。

2015年にパソコン事業の粉飾が判明した時点で、もう一度(のれん代の償却の)チャンスがありましたが、ここでもさらに見送りを決めました。

Next: なぜ東芝の損失額はここまで膨れ上がってしまったのか



なぜ東芝の損失額はここまで膨れ上がってしまったのか

これに関しては、このメルマガの2015年8月6日号に詳しく書いたので、引用します。

東芝の粉飾決済による「水増し利益」は1,562億円と報道されていますが、それよりもはるかに大きな問題が、原発事業を担当するウェスティングハウスの減損処理です。

具体的な数字は Facebookでも紹介した「東芝を圧迫する『巨額のれん代』と迫る「債務超過」危機」に書かれていますが、ウェスティングハウスの買収当時に7,467億円に膨らんだ「のれん代」が、原発事故後にThe Shaw Groupにプットオプションを行使されて買い増しをした結果、今では1兆6,000億円にまで膨らんでいます。

福島第一での過酷事故後、原発ビジネス全体が低迷し、将来性も見込まれないことをちゃんと考慮して「のれん代」を再評価すれば、数千億円規模の減損処理は免れず、東芝の財務状態が非常に不健全であることが明確になってしまいます。

東芝は、ウェスティングハウスの買収の際には、純資産を大幅に上回る価格で買収をしたため、巨額の「のれん代」がバランスシートに計上されることになりました。

本来であれば、福島第一原発の事故で原発ビジネスの低迷が明らかになった2011年の時点で「一括償却」をすべきだったのでしょうが、その年に、ウェスティングハウス株20%を保有していたThe Shaw Groupにプットオプションを施行されて高値で売りつけられることになり、逆にのれん代が膨れ上がることになってしまったのです。

経営陣としては、原発事業の低迷が一過性であることを望んでいたのもあるし、共同出資者に与えてしまったプットオプションが損失の上塗りをしたことを明確にしたくなかったというのもあるでしょう(こんな風に株主に正確な情報を渡さない行動こそが、まさに「粉飾」です)。

1兆円を超えるまでに膨れ上がった東芝ののれん代は、ウェスティングハウスの窮状を正しく反映すれば、たぶん三分の一とか四分の一の価値しかないのです。つまり、1,562億円の粉飾などは氷山の一角でしかなく、実際には数千億円の損失を計上すべき状況に追い込まれているということです。

2015年時点で明らかになった粉飾で東芝の経営陣が誰も刑務所に入らなかっただけで十分不思議ですが、あの時点で、1兆円を超えるまでに積み上がってしまったウェスティングハウスの「のれん代」を一部でも償却しなかったことは、異常でした。日本の資本主義が、米国などのそれに比べて全く未熟であることを証明する良い事例となりました。

Next: 見果てぬ夢に終わった安倍官邸の「必死の思い」とは



見果てぬ夢に終わった安倍官邸の「必死の思い」とは

その後、安倍政権は、懸命に原発の海外への売り込みを行いましたが、その背景には、破綻してしまった原発事業を何とか復活させたいという霞が関の意向があったのです。米国に引かされたババ抜きのババを、何とか利益を生み出す事業に転換させたいという必死の思いがあったのです。

しかし、それは見果てぬ夢に終わりました。毎年コストが下がっていく風力や太陽光発電と比べて、事故のたびにコストが上がり、厄介な使用済み核燃料を残す原発とでは全く勝負にならないのです。福島第一での事故は、時間の問題でしかなかった原発事業の破綻を大幅に加速したのです。そんな理由で、1兆円を超えるまでに積み上がったウェスティングハウスの「のれん代」は、「いつかは損失として計上しなければいけない爆弾」として東芝のバランスシートに残っていたのです。

今回の7,000億円の特別損失は、その積み上がっていたのれん代を償却しただけのことなのです。しかし、「損失隠しのために先送りしていた」とは言えないので、「2015年の末に買収したS&Wの資産が大幅に目減りした」と、あたかも新たな事象のために今年になって損失を計上することにした、と言っているだけなのです。
続きはご購読ください。初月無料です


※本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2017年1月31日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

【関連】個人投資家が忘れてはならない、東芝<6502>というクソ株の教訓=坂本彰

【関連】潰れる会社と生き残る会社 三菱自動車と東芝、オリンパスの「差」=山崎和邦

【関連】政府も後押し!本気で儲けに行く「サラリーマンの副業」入門以前=俣野成敏

週刊 Life is beautiful』(2017年1月31日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中

週刊 Life is beautiful

[月額880円(税込) 毎週火曜日(年末年始を除く)]
「エンジニアのための経営学講座」を中心としたゼミ形式のメルマガ。世界に通用するエンジニアになるためには、今、何を勉強すべきか、どんな時間の過ごし方をすべきか。毎週火曜日発行。連載:菅首相に会って来た/米国で起業する時に知っておかねばならないこと。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。