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ポスト黒田に色気「本田氏の口先」に気をつけろ~FRB・日銀人事の注目点=E氏

トランプ大統領は11月2日、イエレンFRB議長の後任としてパウエルFRB理事を指名し、イエレン氏は最近にしては珍しく1期4年で任期を終え退任することになりました。今回は、このパウエル新FRB議長がマーケットに与える影響のほか、日銀次期総裁レースのゆくえや、今後の日本市場において注意すべき点を考えたいと思います。(『元ヘッジファンドE氏の投資情報』)

プロフィール:E氏
国内大手生保、ゴールドマン・サックス、当時日本最大のヘッジファンドだったジャパン・アドバイザリーでのファンドマネージャー経験を経て、2006年に自らのヘッジファンドであるINDRA Investmentsを設立し国内外の年金基金や富裕層への投資助言を開始。2006年10月からのファンド開始後はリーマンショックや東日本大震災で、期間中TOPIXは5割程度下落した中で、6年連続のプラス(累積30%)のリターンを達成。運用歴25年超。

日銀人事や金融政策に口を挟む、本田悦朗氏が相場の波乱要因に?

【米国】「パウエルFRB新議長」にサプライズなし

まずはじめに、FRBの新議長にパウエル氏が就任することの影響については、事前にある程度織り込まれていたのでサプライズはないし、現行のFRBの金融政策も大きな変更点はないでしょう。つまり、今回の人事はポジティブでもネガティブでもありません

パウエル氏は弁護士出身で、経済学の博士号を持っていません。FRB議長に就任する上で、博士号がなくても悪いことはなんらありませんし、40年ほど前にポール・ボルカー氏も博士号を持たずにFRB議長を務めていました。

しかし、パウエル氏は2012年のFRB理事就任以降、イエレンFRB議長の発言をなぞるかのような発言を繰り返していたのは事実です。このため、氏がイエレン体制のもと、金利を低く抑える穏健路線を支持してきたのは、イエレンFRB議長と同程度のハト派だったというよりは、慎重な性格以上に高度な専門知識を持ち合わせていないので、イエレンFRB議長に同調していただけという見方もあるくらいです。

もし、パウエル氏がこのように専門知識の欠如による付和雷同的なスタンスの持ち主とすると、就任後に独自性を打ち出すことは困難になるでしょう。

そもそも、パウエル氏が取り沙汰された際、イエレンFRB議長と似た意見の持ち主ならイエレンFRB議長のままでも良いではないかという意見も強かったわけで、今回の人事は、自らがFRB議長を選びたいというトランプ大統領の意向だけでイエレン氏を退任させるようなものです。

つまり、イエレン氏を退任させるものの、トランプ大統領はイエレンFRB議長の政策自体は高く評価していた以上、パウエル氏が現行路線を大きく修正することは考え難いのです。こういったことから、パウエル氏が新議長に就任しても、緩やかな利上げと保有資産売却の流れは堅持されると思われます。

【日本】株価の反動リスクに要注意

一方、日本の衆院選で自民が圧勝したことは、あまりにも過度にポジティブに株価に織り込まれたので、今後は株価の反動リスクが出やすいでしょう。

元々は9月に入って上げ幅を強めた米国株に連動する形で日本株は上げましたが、衆院解散と選挙公示が明らかになった9月下旬以降、日本株独歩での上昇となりました。9月末から先週までに日経平均は約3000円も上げましたが、これは米国株の騰落率をはるかに上回ってっていますし、円相場との連動性もほとんどありません。

9月決算が良好な企業が多かったのは事実ですが、企業収益の過半は年初からの円安を好感した動きで説明されてしまうので、10月以降の日本株独歩の上げは、多分に選挙結果を好感しての買いが出たものと思われます。

一般に「選挙は買い」と言われていますが、それは選挙のリップサービスで大型経済対策などが出てくるためであって、本来、今回のように改憲や北朝鮮危機対応が争点では株の上値追いをする理由にはなりません

もちろん、今回も私立高校無償化や幼児教育無償化のリップサービスが出ましたが、このネタで株買いに動く投資家はいないでしょう。

なので、「なぜ選挙で上がったか」の背景を理解せずに、単に「選挙だから買い」という条件反射的なアクションを起こした投資家が少なからずいると思われますので、こういった投資家の失望売りは今後出てくるでしょう。

本田悦朗氏が相場をかく乱する?

日本株が買われた理由としては、安倍政権が持続することで、来年3月末で任期が切れる黒田日銀総裁の再任可能性が高まったことを評価する向きもあります。確かに、黒田総裁は安倍政権での信認が厚いので、自民が圧勝し安倍政権が長期政権化する見込みとなったことで安心感が出た可能性はあります。

しかし、現安倍政権の発足以来、官邸サイドから黒田総裁に対する不満が出たことは一度もありません。このため、退任まで1年に迫った今年の春以降、黒田総裁が再任されるという見方で大方は一致していたので、選挙圧勝で安心感が出たのは事実とはいえ、これだけで大幅高を説明するのは困難です。

したがって、仮に黒田日銀総裁が再任されるとしても、すでに現在の株価で十分に織り込まれているので、材料出尽くしになる可能性が高いです。

では、黒田総裁以外が就任する可能性はないのかというと、それは十分にありますが、今のところ名前が挙がっている有力候補はいません。しかしそんな中で唯一、安倍政権の経済アドバイザリーである本田悦朗駐スイス大使が次期日銀総裁への色気を出している点には注意すべきでしょう。

Next: 黒田総裁の去就と関係なく、本田氏の「口先」が波乱要因になる理由



黒田総裁の去就は関係なし。本田氏の「口先」が波乱要因に

本田悦朗氏に「注意すべき」というのは、氏の就任後の金融政策がリスクという意味ではなく、就任を意識したようなスタンドプレー的な発言がメディアに出るたびにマーケットがかく乱される可能性が高い、という意味です。

この本田氏は日銀関係者でもないのに、メディアを使って、さも内部情報を知っているかのような物言いで日銀の金融政策に言及したり、人事について口出ししています。

例えば、昨年5月から7月にかけて、本田氏は日銀がヘリマネを検討しているかのような発言を度々メディアに流したため、特に7月の参院選以降、日銀がヘリマネを導入するかのような見方で日本株が大幅に動きました

本田氏の思わせぶりな発言が正しかったかどうかは、今に至るまでヘリマネが導入されていないのを見れば火を見るより明らかですが、その本田氏が今度は黒田日銀総裁の後任に色気を出しはじめたわけです。

今月9日、ロイターをはじめとする各紙が本田氏へのインタビューを報道しましたが、その中で氏は、「自身が次期日銀総裁に就任したら、全力でデフレ脱却を実現する」「現行日銀執行部ではデフレ脱却は不可能なので退任すべし」と述べています。

自身が次期総裁になるのが相応しい上に、まるで就任の話が出ているかのような物言いをしたことで、9日のマーケットはヘリマネのような極端な政策をする人物が総裁になる可能性が出たことから、日経平均は860円も乱高下してしまいました。

ヘリマネの妥当性をここで議論するつもりはありませんが、黒田日銀の超緩和策ですら、すでに大きな弊害が出てきて出口戦略が議論されているというのに、いくら経済アドバイザリーと言っても、日銀関係者でもない人物が日銀の人事や金融政策に口を挟むのは問題があります。

アベノミクス「3本の矢」のうちの1つである積極的な金融緩和が黒田日銀総裁によってなされたことを考えると、黒田日銀総裁を変えるのは安倍政権にとってもリスクが大きいでしょう。

なので、現時点で、本田氏が就任する可能性は低いと思われますが、先日のインタビューのように、日銀総裁就任に色気を出しているとしか思えない発言を撒き散らかすと、氏が就任しようがしまいが、正式に来年4月以降の日銀総裁が決まるまでマーケットが乱高下する可能性が高くなってしまいます。

Next: 本田氏の「余計な発言」には逆張りスタンスが吉



「余計な発言」には逆張りスタンスが吉

マーケットが乱高下しても、結局落ち着けば良いと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。多くの投資家がリスクを考えずに買いから入っているからこそ、今の株高はあるのです。

日本株に限らず、米国株も歴史的な低ボラティリティになっていますが、この結果、債券や為替より株式に投資する方がリスクリターン特性は良好になっているので、機関投資家のマネーも株式に流れ込んでいるのです。

そうである以上、本田氏の不用意な発言でマーケットのボラティリティが上昇することになれば、変動を嫌う投資家が少しずつ市場から退出することで、株価の上値追いは困難になりますし、ちょっとしたネガティブ材料で大きく下落する可能性が高まってしまうでしょう。

このように、黒田日銀総裁が再任されるのはノーサプライズというより、むしろ材料出尽くしに繋がるかと思われますが、黒田日銀総裁が再任されるかされないかに関わらず、本田氏が次期日銀総裁を意識して余計な発言をすると、マーケットをかく乱しかねないので要注意といえるでしょう。

ただ、安倍政権サイドが早期に黒田氏退任を明言することはないと思われるので、もし、本田氏が余計な発言をしたら、氏の発言で上がったところは売り、下がったら買いといった逆張りスタンスが有効になりそうです。

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自身が就任すればデフレ脱却を速やかにすると本田氏はおっしゃっていますが、自身の不用意な発言で目先の期待インフレ上昇の芽を摘んでいるということを少しは認識したほうがよろしいのではないでしょうか?

image by: Wikimedia Commons

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年11月14日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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