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ビットコインの凄さと危うさ。仮想通貨に人々が心酔しはじめた理由=中島聡

ビットコイン価格の高騰が止まりません。なぜ今、世界中が仮想通貨に熱狂しているのでしょうか?その背景をメルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者で世界的プログラマーの中島聡さんがわかりやすく解説します。

※本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2017年11月28日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:中島聡(なかじまさとし)
ブロガー、起業家、ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)、MBA(ワシントン大学)。 NTT通信研究所、マイクロソフト日本法人、マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発に携わっている。

お金を革命する技術。熱狂するビットコイン相場の根拠とは何か?

ブロックチェーンという大発明

ブロックチェーンを活用した仮想通貨が投機対象になりバブル状態にあることは、このメルマガでも何度も指摘してきましたが、「ブロックチェーンとは何か」を分かりやすく説明するのは結構難しいので、これまで躊躇してきました。今回はそれにチャレンジしてみようと思います。

ブロックチェーンという技術は、2008年に、Satoshi Nakamoto と名乗る人が、”Bitcoin:APeer to Peer ElectronicCash System”という論文を発表したことにより、世の中に知られるようになった技術です。

この論文で、彼は、「デジタル通貨の二重使用問題(分散システムにおいて、デジタル通貨が同時に別々のところで使われてしまう可能性を排除出来ない問題)を暗号化技術とゲーム理論を使って解決した」と発表しました。

通常の紙幣や硬貨と違い、デジタル通貨は簡単にコピーが可能なので、(これまでのやり方では)分散システムで管理するのが不可能で、1つのデータベースで一元管理する必要がありました。

例えば、Paypal上のデジタル通貨は、Paypalという会社が管理するデータベース上に作られた「電子元帳」上のレコードであり、Paypal抜きに取引することは不可能です。別の言い方をすれば、私が$100のデジタル通貨を持っていることを証明できるのはPaypalだけなのです。

銀行に預けたお金も基本的にはPaypalと同じで、「私のUFJ銀行の普通口座の残高が10万円だ」という事実は、UFJ銀行が管理する「電子元帳」上に記録されており、それを証明できるのは、UFJ銀行だけなのです。

すべての取引がPaypal上で成り立っていれば問題ありませんが、問題は金融機関をまたがった取引にあります。Paypalに口座を持っているAさんが、UFJ銀行に口座を持っているBさんに送金しようとした時には、別々の会社が管理する「電子元帳」に同時に変更を加えなければならないため、これに非常に大きな手間とコストがかかるのです(銀行振込の手数料が「他行向け」の方が高いのはそれが理由です。実際のコストは、同じ銀行内の振込手数料は無料であるべきぐらいに違います)。

Next: ブロックチェーンはデジタル通貨の弱点をどう克服したのか?



デジタル通貨の弱点をどう克服?

分散通貨システムとは、Paypalや銀行のような会社抜きに、分散型の「電子元帳」でデジタル通貨を管理しようというアイデアで、利用者はデジタル情報(0と1の集まり)で表現されたデジタル通貨さえ持っていれば、どこででも使える、というアイデアです。こうすることにより、Paypalのような「管理者」(もしくは金融機関)を排除し、はるかに低コストで通貨の交換ができることになります。

アイデア自体は素晴らしいのですが、分散システムならではの欠点があります。デジタル通貨の二重使用を防止することが非常に難しいのです。分散システムは、それぞれのサーバーに「電子元帳」のコピーが存在するため、1つのコピーに生じた変更を他のコピーに伝搬する仕組みがありますが、その伝搬の遅延を悪用すれば、二重使用ができてしまうのです。

例えば、分散システムがS1からS10の10個のサーバーで構築されていた場合、S1には(100ドルしか持っていない)Aさんの口座から100ドルを(なんらかの対価の代金として)Bさんの口座に移し、S2にはAさんの口座から100ドルをCさんの口座に移すという指示をほぼ同時に出した場合、実際には100ドルしか持っていないAさんが200ドル送金することを許してしまうことになるのです。

もちろん、こんな不整合はS1上の「電子元帳」への変更と、S2上の「電子元帳」への変更を後に融合しようとした時に発見できますが、その時には、AさんはすでにBさんとCさんから100ドルのお金に対する対価を受け取ってしまっていれば、後の祭りです。

Satoshi Nakamotoは、従来型のシステムは、それぞれのサーバーに置かれた「電子元帳」の変更が簡単すぎるのが問題だという点に着目したのです。簡単すぎるために、同時期に別々のサーバーにアクセスされると、「電子元帳」間の不整合(同じ通貨が2度使われてしまうなどの状態)が簡単に生じてしまうのです。

そこで、Satoshi Nakamotoは、「電子元帳」への取引の追加を「ものすごく難しく(=計算量を多く)」することにより、この問題を解決しました。それも単に計算量が多いだけでなく、運にも左右される仕組みになっているため(膨大な計算をして、正しい追加の方法を「発見」しなければならないようになっています)、ユーザーからアクセスされたサーバーが単体でできるものではなく、(分散システムを構築する)他のサーバーに協力を仰がなければならないように設計したのです。

つまり、「特定のデジタル通貨の所有者が、AさんからBさんに移る」という事実を「電子元帳」に記録するためには、(分散システムを構築する)サーバーすべてが協力しなければ、それができない仕組みになっているのです。

Next: 現在の「ブロックチェーン・バブル」が行き着く先は?



現在の「ブロックチェーン・バブル」が行き着く先は?

しかし、それだけでは、サーバーを管理する人たちにとって何も良いことがないので、最初に「正しい追加の方法を発見したサーバーには、報酬として新たなデジタル通貨を与えることにした点が、Satoshi Nakamoto の「発明」であり、「ゲーム理論」の応用なのです。

この「報酬システム」の存在故に、報酬を欲しい人たちが競ってサーバーをシステムに追加し、それによって、システム全体の信頼性が高まり(サーバーの数が多いほど不正取引が難しくなる設計になっています)、二重使用が事実上不可能になっているのです。

ブロックチェーンでは、報酬目的で「電子元帳」への取引の追加のための計算の協力することをマイニング採掘)、そんなサーバーを運営する人たちをマイナー採掘者)と呼びますが、これはブロックチェーン特有の偶然に大きく左右される計算方法の特徴をよく表しています。貴重な鉱石を見つけるために土を掘っている姿に似ているからです。

ちなみに、Satoshi Nakamotoは、実名ではなくペンネームであるため、「その正体は誰か」というのが業界ではしばしば話題になります。私の名前(Satoshi Nakajima)がたまたま似ているため、「本当は君がブロックチェーンの発明者なんじゃないの?」と尋ねられることもしばしばですが、残念ながら違います。

このように、ブロックチェーンは技術としては本当に画期的で、(HTTPやHTMLに並ぶ)ソフトウェア業界の最大の発明の1つと言って良いぐらいの素晴らしい技術です。しかし、それが今や投機対象となってバブルが生じ、数多くの金融詐欺の被害者を生み出していることはとても残念です。

このブロックチェーン・バブルの行き先がどこになるのかを予想するのはとても難しいのですが、どのバブルとも同じで、その中で(上手なタイミングで売り抜けて)莫大な利益を得る一部の人たちと、(トータルで)莫大な損害を被る大勢の人たちが生まれることだけは確実だと思います。

どうしても「ブロックチェーンで一儲けしたい」と言う人の気持ちも分かりますが、あくまでこれは(バブルに乗じた)ギャンブルだと割り切って、「なくなっても人生に影響のない額にとどめるべきだと思います。

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週刊 Life is beautiful』(2017年11月28日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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