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「年収1,000万円いじめ」取れるところから取る大増税が日本を滅ぼす=川瀬太志

政府は「所得税改革」として、年収850万円超えの会社員を対象に増税する方針を固めました。このまま高所得者への増税が続けば、国力を落としかねません。(『ハッピーリッチアカデミー 私的年金をつくろう』川瀬太志)

プロフィール:川瀬太志(かわせふとし)
ハイアス・アンド・カンパニー株式会社 取締役常務執行役員。1967年、愛知県生まれ。慶応義塾大学商学部卒。大手都市銀行、経営コンサルティング会社チーフコンサルタント、住宅・不動産関連会社取締役を経て現職に。住宅・不動産を個人が納得し安心して取引できる環境をつくり、個人の持つ資産の価値を守るためのサービス開発に従事。

日本を蝕む不公平。わずか4%の高所得者が支える所得税の実態

年収850万円超の人は増税に

高所得者層への税負担が、またまた重くなるようです。不公平感が出ないといいのですが…。

自民党の宮沢洋一、公明党の斉藤鉄夫両税制調査会長は11日午前、都内で会談し、2018年度税制改正の所得税改革を巡り協議した。

所得税増税になる会社員の年収の線引きを850万円超にすると合意した。公務員を含む給与所得者のうち200万人程度が対象になる。

出典:所得増税、年収850万円超に 政府・与党が縮小合意へ – 日本経済新聞(2017年12月10日配信)

具体的には、まず納税者全員が対象になる「基礎控除」を一律で10万円増やします。控除額が増えるのでここは減税です。

一方、給与所得者(いわゆるサラリーマン)向けの「給与所得控除」は、年収850万円を境にして、850万円以下の人は10万円減らし、850万円を超える人は控除の上限を引き下げます。

つまり、年収850万円以下のサラリーマンは、基礎控除が増えて給与所得控除が減るので税負担は変わりません。しかし、年収850万円超のサラリーマンは、給与所得控除の減額分が多くなるので増税になるということです。

この増税で、所得税は900億円の増収を見込んでいるとのことです。

税金に無関心なサラリーマン

働いている人のおよそ3分の2がサラリーマンです。所得税収は年間およそ10兆円程度ありますが、その約8割はサラリーマンが負担しています。それだけ負担しているにも関わらず、多くのサラリーマンは税金に無関心です。

なぜかというと、ほとんどのサラリーマンは自分で納税申告をせずに、会社に徴収から納税まで代わりにやってもらっているからです。いわゆる「源泉徴収制度」ですね。このため、サラリーマンの所得は完全に国に把握されていますし、100%もれなく徴税されています。

まぁ、国からしたら税金を取りやすいわけですね。実際、サラリーマンの所得税負担は増えていて、高所得者からはじまって徐々に下の層にまできています。だから、すべての給与所得者の皆さんは、関心を持ってみておいた方がいいと思います。

サラリーマンにかかる税金は?

おさらいしておきます。

まず、収入と所得の違いからです。事業で考えると、売上高が「収入」です。そこから仕入原価とか経費を引いて残ったものが「所得」です。税金は所得税も住民税もこの所得に対してかかります

サラリーマンで言うと、いわゆる年収が「収入」です。そしてサラリーマンは収入から差し引ける経費の額が決まっています。スーツとか靴とか、サラリーマンにも仕事に必要な経費はあるのですが、いちいち計算していられないので定額なのです。これが「給与所得控除」です。この給与所得控除額は、年収ごとに分かれています。

Next: 「4%の高所得者層」が所得税の半分を負担している



「二極化」するサラリーマンの税負担

今回の税制改正で検討されているのは、年収850万円以上の人の給与所得控除額を引き下げよう、つまり、サラリーマンの人に認めていた「収入から差し引ける経費」を少なくしようということです。つまり増税ですね。

実は、前述したように、これまでも給与所得控除額は高所得者から順に年々減らされてきています。2013年以前は、年収1,500万円以上の人は年収に対して5%の所得控除が認められていましたが、2013年に年収1,5000万円以上は一律で上限が245万円とされました。年収が2,000万円だろうが1億円だろうが、サラリーマンの経費は「どれだけ年収が多くなっても一緒」ということになりました。

これがさらに2016年に230万円(対象は年収1,200万円超)、2017年は220万円(対象は年収1,000万円超)と、毎年控除の上限金額と対象年収を下げてきました。

そして今回、さらに控除額を減らすとともに、その対象も年収850万円まで下げるようです。

一方で、所得が695万円以下の税率はこの15年間、ほぼ変動していません。つまりサラリーマンの負担は二極化しているのです。

「4%の高所得者層」が所得税の半分を負担している

実際、所得税の約半分は年収1,000万円超の給与所得者が負担しています。2014年の「民間給与実態調査」(国税庁)によると、

合計すると全体の3.9%しかいない年収1000万円超の高所得者のみなさんが、所得税の48.9%(約4兆2千億円)を負担しています。

所得税は、所得が多くなればなるほど高くなる「累進課税」です。これは「所得の再分配」といって、所得階層を固定化させないために社会保障や税制で高所得者から低所得者へ富を分配するという考え方ですが、それにしてもこの負担割合を見ると、すでにかなりの負担を高額所得者のみなさんにしてもらっていますよね。

この高所得層への負担増は、いったいどこまで行くのでしょうね。

Next: 高所得者は静かに受け入れ、そしていなくなる?



「たくさん稼いでいる人からたくさん取ろう」という風潮

高齢化で社会保障費が増え続ける日本は、「もっと税収を増やさないといけない」ということを国民のほとんどは理解しています。

だた、企業の国際競争力を落とさないために法人税は引き下げないといけないし、消費税を増税するので、それによって負担感を感じる低所得者層に対して所得税率を上げるわけにもいきません。

結果、いちばん取りやすい高所得者層の負担がどんどん増えてしまっています。

まさに、「取れるところから取る」という言葉がふさわしいですね。高所得者への所得増税以外にも相続税たばこ税もそんな印象です。

高所得者や富裕層向けの課税強化は、政策として国民のウケも悪くない印象があります。「たくさん稼いでいる人やたくさん持っている人からたくさん取ればいい」という風潮があるようにも感じます。政府税調の議員さんも、「高所得者からたくさんとって社会保障に充てる」と言えば、これでもう反対は出ません

高所得者は静かに受け入れ、そしていなくなる?

また、高所得者側からの反発もそれほどありません。高額所得者が集まってデモをするとか見たことないですからね。ただ黙々と受け入れています。

しかし、あまり高所得者ばかりに負担が行き過ぎるのもどうなんでしょう。高額所得者のみなさんって、お医者さんとか経営者とか、大企業の部長さんとかだと思いますが、努力して、リスクも取って、頑張って働いて、所得が増えたら増税ですよ。

これが行き過ぎてしまうと、高所得者とか富裕層は日本からいなくなってしまうかもしれません。また、若い人たちが、これから頑張って働いて、リスクも取って収入を増やそうという、前向きなモチベーションが下がってしまうかもしれません。これはひいては国力を落とすことにもなりかねません。

高額所得者へのリスペクトは必要だと思います。そうしないと、高額所得者や富裕層はひそかにささやかな節税などして、最後は日本から出ていってしまうかもしれません。

もし、所得税の半分以上を支払っている高額所得者がいなくなったら税収は下がりますから、結局そのしわよせは中低所得者層にまで行き渡りますね。誰しも他人ごとではないのです。

Next: 課税の三原則は「中立・公平・簡素」



課税の三原則は「中立・公平・簡素」

納税は国民の義務ですから、誰もがちゃんと払います。賢く使ってくれるように政府を信頼して払います。しかし、そこに不公平感があってはいけません。課税の原則は「中立・公平・簡素」ですからね。

国が所得を把握する割合は、「給与所得」がおよそ9割、「事業所得」が6割、「農業所得」が4割と言われ、通称「クロヨン(9・6・4)」などと言われています。現実には給与所得は9割というか100%です。完全にガラス張りです。

今回の所得税の改正では、基礎控除額は10万円引き上げですから、自営業者や農業者は減税です。高額給与所得者だけが増税です。そこに不公平感はないかの目配りは必要でしょうね。

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税制を刷新するアイデアが必要

しかし、そもそも税制そのものを変える発想がそろそろ必要なのではないかとも思います。

所得税、法人税というフローをちょこちょこと改善しても、そもそも経済成長もしていないし、所得もそれほど増えていないのだから、安定的な税収増は見込めません

間接税や資産課税を中心に、税制全体の再設計が必要だと思います。増税が延々と続く国には誰もいられませんからね。

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ハッピーリッチアカデミー 私的年金をつくろう』(2017年12月12日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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