マネーボイス メニュー

中国はなぜビットコインを潰しにかかったのか? 不都合な規制の裏側(前編)=高島康司

仮想通貨が下降をはじめた発端は中国による規制にある。なぜそこまで強固に規制するのか。その背景を読み解くと、世界覇権を巡る熾烈な戦いが見えてくる。(高島康司)

※有料メルマガ『未来を見る!ヤスの備忘録連動メルマガ』好評配信中。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

規制の裏でブロックチェーン技術を支援。中国は何を恐れている?

下降トレンドの発火点は「中国による規制強化」

ビットコインをはじめあらゆる仮想通貨が大幅に下げている。CoinDesk社などによると、12月には92兆円ほどの時価総額だったのが、2月2日の時点では46兆円となった。50%程度の下落である。仮想通貨の暴落は、それこそ毎日がリーマンショックと形容されるほど頻繁に起こっている。暴落するたびにビットコインは消滅するのではないかと言われるが、今回も同様の悲観論が席巻している。

今回の暴落の背景は、インド財務相による仮想通貨取引の全面的な禁止を連想させる発言、日本の大手取引所「コインチェック」の580億円にのぼるNEMの不正送金、そしてレートが米ドルに固定された仮想通貨「Tether(テザー)」の発行元の米商品先物取引委員会(CFTC)による捜査などだ。

特にテザーは、ビットコインの規制強化以降、中国の富裕層が資産を海外に移転するための手段として利用されている。テザーを使って流出した資金で、ビットコインをはじめ他の仮想通貨を買うのである。その発行元が捜査され、テザーの将来性に疑念が生じると、仮想通貨市場に流れ込む中国富裕層の資金が減少するので、仮想通貨の相場全体が一層下落する恐れがある。

このように、ビットコインをはじめとした仮想通貨にはかつてないほどの逆風が吹いている。やはりこうした下降トレンドの発火点となったのは、中国の金融当局によるICOやビットコインの徹底した規制である。

昨年の9月、中国当局はICOを突然と禁止した。さらに、ビットコインの取引所も規制し、実質的な閉鎖に追い込んだ。現在でもビットコインの店頭取引(OTC取引)は行われているものの、オンライン取引が規制されているので、取引される規模はかなり縮小しているのが現状だ。

最近の歴史から見えてくるもの

資産として認める方向にある日本やアメリカなどの国々と比べると、中国のビットコインに対する規制は突出している。そこには中国特有の理由がある。ちょっとこれまでの歴史を振り返って見ると、それが見えてくる。

中国が改革開放の旗印のもと、市場経済を全面的に導入し、特徴ある社会主義の体制へと舵を切った1978年以降、(天安門事件による人権抑圧の制裁として中国製品の全面的な禁輸が課せられ停滞した1989年から1991年の時期を除いて、)中国は国内の安い労働力を外国資本に解放し、生産拠点が集中する世界の工場として発展した。毎年10%に近い成長率を実現した。

しかし、世界の工場としての発展に決定的な打撃となったのは、2008年から2010年頃まで続いたアメリカ発の金融危機であった。中国の最大の輸出先であったアメリカ、そしてEUの市場の縮小の煽りを受けて、世界の工場たる中国経済も大きく減速した。

これは中国にとって、社会的な危機の始まりを意味した。中国経済の安い労働力の中核は、発展が遅れた内陸部から出稼ぎで都市にやってきた農民工とよばれる人々であった。その数は2億人を突破すると見られた。もし世界的な金融危機の影響で経済が落ち込み、企業の倒産が多くなると、膨大な数の失業した農民工が生まれることになる。

もともと農民工は格差のない毛沢東時代の中国に強い郷愁を抱く傾向があった。そのため失業率の増大は、市場原理を導入した現在の共産党に対する非難の爆発を誘発し、深刻な社会不安を引き起こす可能性があった。共産党政権の安定にとって、これはなんとしても回避しなければならない大変な脅威であった。

そこで当時の胡錦濤政権は、実質的にゼロ金利政策を採用して企業に大量の資金を投入し、企業倒産を徹底して回避する道を選んだ。この政策により農民工の失業は回避されたので、共産党政権を脅かすほどの深刻な社会不安は回避された。

しかし他方、市場に流れた資金は不動産バブルを引き起こすと同時に、理財商品と呼ばれる怪しい金融商品に殺到し、これを販売する陰の銀行を出現させた。さらに、倒産を回避するため実質的に無制限に資金が企業に流れたため、競争力のない企業が多数残存することになった。これは中国の過剰生産の原因となった。

2010年以降政府は金利を徐々に引き上げ、バブルの沈静化に乗り出したものの、一旦過熱したバブルは収まらず、また多くの企業が整理されなかったので、過剰生産状態が長く続くことになった。いつ破綻してもおかしくない不動産バブルと理財商品バブル、そして過剰生産というのが、2009年以降の中国経済の一般的な状態になった。

Next: なぜ「ビットコイン」が中国共産党の支配を解くのか?



脱出策としての一帯一路

バブルの破綻と過剰生産不況の可能性は、大変に深刻な問題である。国民の反発から、共産党政権の命取りにもなりかねない深刻な問題である。そのようなとき、2013年に国家主席となった習近平は大胆に方向を転換した。欧米先進国を主要な輸出先とした「世界の工場」としてのかつての発展から、鉄道網や海路の整備によって新しい市場を開拓し、特に内陸部を重点的に発展させる方向へのシフトである。これは、外需依存の発展から内需による発展へのシフトでもある。

それが、現在急速に拡大している一帯一路である。周知のように一帯一路とは、中国西部から中央アジアを経由してヨーロッパに至る1万1000キロの鉄道網の「シルクロード経済ベルト」と、中国沿岸部から東南アジア、スリランカ、アラビア半島の沿岸部、そしてアフリカ東海岸を結ぶ「21世紀海上シルクロード」の2つの地域で、インフラを整備して貿易と投資を促進する国家プロジェクトである。さらにこれには、北極海航路と北米航路も含まれている。

この一帯一路によって、安い労働力を提供し、世界の工場たる中国の発展を支えた農民工の出身地である遅れた内陸部は、中央アジアとヨーロッパに鉄道網で直接結ばれた。そして一帯一路による市場の拡大は、2009年以降次第に深刻になっていた製造業の過剰生産を解消する可能性が見えてきた。この結果中国は、ユーラシア全体を包含する広大な中華経済圏の中心として発展する方向が明確になった。もちろんこの発展を加速することで、共産党政権への支持は高まり、政権は安定する。

資本を国内に循環させるためのビットコイン規制

逆に見るとこれは、中国共産党の支配が今後も継続できるかどうかは、一帯一路の成否にかかっていると言ってもよいかもしれない。このような背景を前提にして、中国のICOやマイニング、そしてビットコインの禁止や規制を見ると、その真意がよく見えてくる。

一帯一路の拡大には莫大な資本と投資が必要になる。中国政府はこれを強力に後押ししているものの、国内の資本が確実に一帯一路のさまざまなプロジェクトへと投資される循環を形成しなければならない。そのため政府は、人民元を高値安定させ、さらに国内の富裕層の資金の国外移転を防止する目的で、5万ドルを越える外貨の購入を実質的に禁止している。

一方ビットコインは、この規制の抜け穴として機能した。最近までビットコインによる送金は規制の範囲外だったので、富裕層はビットコインの購入を経由してドルなど他の外貨に交換した。一時ビットコイン取引の9割は中国になるほどだった。これは一帯一路を発展させるために資本の国外流出を警戒している政府とっては、由々しき事態であった。

さらに7割が中国に集中しているマイニングの利益のほとんどは、やはりビットコインを経由して外貨の購入に向かい、中国国内に再投資されることはほとんどなかった。

こうしたことが、中国政府がマイニングやビットコインの規制に動いた背景なのである。それは、一帯一路の発展に支配の安定がかかっている中国共産党にとっては、非常に重要な問題だったのである。

Next: 規制と同時にブロックチェーン技術の発展を後押し? その目的とは



ブロックチェーンと産業革命、そしてデジタル通貨創造へ

しかし、中国政府の動きを見ると興味深いことに気づく。ビットコインに対する警戒心と裏腹に、ブロックチェーンのテクノロジーの発展は強力に後押ししているのだ。政府が新しいブロックチェーン研究所を支援している事実が、ビットコイン取引の取り締まりの数日後に発表された。

さらに中国人民銀行は、独自のデジタル通貨研究所を開設して、すでにデザインの候補を公表している。デジタル通貨では、中国は世界をリードしつつある。

これはなにを意味するのだろうか? 実はこれは、いま始まっている第4次産業革命の世界覇権を巡る熾烈な戦いと関係している。(中・後編に続く)

続きはご購読ください。初月無料です

ビットコイン規制の理由

ブロックチェーンとデジタル通貨には積極的

法定デジタル通貨

農村部で拡大著しいオンラインショッピング経済

クレジットカードを使わない独自なシステム

次の段階、仮想通貨の導入

ブロックチェーンを担う企業

image by:360b / Shutterstock.com

※有料メルマガ『未来を見る!ヤスの備忘録連動メルマガ』好評配信中。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。2月9日に配信された中編や、月内の後編も配信され次第すぐ読めます

【関連】ビットコイン「ガチホ時代の終焉」と計画的急落。株式市場の連鎖崩壊は起こるか?

【関連】FRBの最強通貨「Fedコイン」とビットコイン、NSA(米国家安全保障局)を結ぶ点と線

【関連】日本を襲う新たな貧困「ブロックチェーン格差」の自己責任を乗り越えろ=鈴木傾城

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2018年2月4日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中

未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ

[月額880円(税込) 毎週金曜日]
いま私たちは先の見えない世界に生きています。これからどうなるのか、世界の未来を、政治経済のみならず予言やスピリチュアル系など利用可能なあらゆる枠組みを使い見通しを立ててゆきます。ブログ『ヤスの備忘録』で紹介しきれない重要な情報や分析をこのメルマガで配信します。『ヤスの備忘録』とともにお読みください。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。