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貴乃花親方「惨敗」の裏側。投票を記名式に変更して、裏切り者あぶり出しか=近藤駿介

貴乃花親方が理事選で惨敗した要因の1つは、投票方式が直前で「記名式」に変えられたことだろう。不思議なことに、それを伝えるメディアや専門家はごく一部だ。(『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』近藤駿介)

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プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。

なぜ直前に「記名投票」に変えられた? 絶望的になった相撲改革

「僅か2票」の背景

自身への支持票を得られていない中で日本相撲協会の理事選挙への出馬に踏み切った貴乃花親方だったが、他の一門の固い結束によりサプライズを起こせなかった。

注目されたのは、貴乃花親方が獲得できた票が僅か2票の惨敗だったこと。若手親方の中には「隠れ貴乃花支持者」がかなりおり、落選するにしてももっと票を得るだろうと言われていたが、終わってみれば自身の票以外には1票しか入らなかった。それも、貴乃花親方の長男の嫁の父親で親戚関係である陣幕親方だと見られており(他の見方もある)、実際には貴乃花親方に対する支持は全く広がらなかった結果となった。

貴乃花親方が惨敗した理由としては、造反を警戒した他の一門が引き締めを強めたことや、理事解任理由にもなった日馬富士による貴ノ岩に対する暴行事件に対して頑なに発言を拒み、協会執行部への非協力的な姿勢を取り続けたことが、他の親方衆の理解を得られなかったことなどが挙げられている。

専門家たちは「貴乃花親方の求心力低下」を主張するが…

相撲の専門家の間では、結果的に貴乃花親方が僅か2票しか獲得できずに惨敗したことで、今後貴乃花親方は角界と貴乃花一門内両方で求心力を失っていくだろうという見方が強まっているようだ。

相撲界を長年取材してきた専門家たちの目には貴乃花親方の求心力が低下していくことは必至のように映っているかもしれないが、果たしてそうなるだろうか。

注目された理事選で貴乃花親方が僅か2票しか得られなかったという衝撃的な結果が出た直後であることから、「貴乃花親方、惨敗」という結果に必要以上に注目が集まってしまっているが、貴乃花親方の主張が見直されるまでそれほど多くの時間は必要ないかもしれない

理事選報道に感じる違和感

今回の理事選の報道を見ていて奇異に感じることは、理事選の投票方法が事前に報道されていたものと異なっていた可能性が高いことがほとんど報道されていないことである。

一門と無所属の親方を合わせて基礎票が11票しかない貴乃花一門が阿武松親方を理事候補として立てることを決めたなかで、貴乃花親方が「1票でいい」という覚悟を持って理事選に打って出たのは、少なからず他の一門の「隠れ貴乃花支持者」からの支持が得られる可能性があると踏んでいたからのはずである。

貴乃花親方がそう考えるに至った前提条件は、理事選が「無記名投票」で行われることだったはずだ。

「無記名投票」というのは、予め候補者の名前が印刷されている投票用紙に〇を付けていく投票方法である。この投票方法の長所は、誰がどの候補者に投票したのかを特定し難く、投票者の自由な意思が反映されやすいことである。

日本相撲協会の理事選でも2010年からこの「無記名投票」方法がとられて来ており、今回の理事選でも同様の方式で行われると思われていた。少なくとも、メディアに連日登場していた相撲界の専門家達もそうした前提でコメントを出していた。

しかし、今回の理事選は「記名投票」で行われたようである

Next: なぜか報じられない「記名投票」への変更



なぜか報じられない「記名投票」への変更

「ようである」としたのは、今回の理事選の投票方法が「記名式」で行われたことを報じているメディアはごく一部に限られているからである。

親方はあいうえお順で名前を呼ばれて、まず投票用紙を受け取りました。そしてパーテーションで仕切られた投票所に移動。先日、投票用紙に記載された候補者の名前に〇を付けるとお伝えしましたが、そうではなく投票用紙に名前を書き込む形でした。

出典:テレビ朝日報道ステーション(2月2日放送)

今回の理事選が「無記名投票」ではなく「記名投票」で行われたのは、相撲協会の主流派が「隠れ貴乃花支持者」が貴乃花親方に投票することを阻止するためだったことは想像に難くない。言い換えれば、相撲協会の主流派は投票方法の変更を迫られるほど、貴乃花親方支持が増える可能性を感じていたということである。

問題なのは、「記名投票」に変更になったことをメディアも、連日メディアに出演している専門家達がほとんど触れないことである。

貴乃花親方「大相撲は誰のものか?」

貴乃花親方は理事選に立候補を表明した2月1日のブログで、立候補の理由として次のことを述べている。

相撲協会の現状を見てみると、社会的な責任を果たすよりも協会内の事情や理屈が優先され、公益性から逸脱しているのではないかという大きな疑念を抱いております。大相撲は誰のものか? その公益性の意味を我々は考え直し、正す時期に来ているのではないかと思います。

出典:貴乃花親方からのメッセージ – 貴乃花部屋 TAKANOHANA BEYA(2018年2月1日配信)

今回の理事選が突然「無記名投票」から「記名投票」に変更されたことはもとより、投票方法の変更がどのようなプロセスを経て組織決定されたのかも一切明らかにされていないという現実は、貴乃花親方の「撲協会の現状を見てみると、社会的な責任を果たすよりも協会内の事情や理屈が優先され、公益性から逸脱している」という指摘を正当化するものである。

Next: 隠れ貴乃花支持者を「完封」した相撲協会。今後の焦点は?



評議員会は正常に機能するのか?

今回の理事選で貴乃花親方が僅か2票しか得られずに惨敗したことは、皮肉にも現状の相撲協会が貴乃花親方の指摘する通り「社会的な責任を果たすよりも協会内の事情や理屈が優先され、公益性から逸脱している」現実を表す結果となった。

貴乃花親方が惨敗したのは、貴乃花親方の支持が広がらなかったからではなく、日本相撲協会が協会内の事情や理屈によってそれを阻まれたからということになる。

今後の焦点は、日本相撲協会の「協会内の事情や理屈が優先され」た結果選ばれた理事候補を評議員会がすんなりと認めるかとなる。

1月4日の貴乃花親方の降格を決めた評議員会後の記者会見で、池坊委員長は2月の理事候補選挙で貴乃花親方が当選した場合の対応として「評議員会は、理事会とは別個に相撲協会の管理運営などに対して正しく行われるようにする機関。その時、評議員みんなが知恵を出し合いながら進めていきたい」と発言している。

今回の理事選では、部屋での過去の暴行事件を相撲協会に報告しなかった春日野親方や、不祥事が相次ぎその管理能力に疑問が付けられている八角親方などが理事候補に選ばれた。こうした候補者が相撲協会の理事として相応しいのかについて「評議員みんなが知恵を出す」ような運営をするのか、それとも貴乃花親方でないという理由で何の議論もなく候補者を理事として認めるのかは注目されるところ。

また、「理事会とは別個に相撲協会の管理運営などに対して正しく行われるようにする機関」である評議員会が、理事候補選の投票方法が「無記名投票」から「記名投票」に変更になった理由その決定プロセス、さらには、理事選で落選した候補が降格になるという物言えぬ雰囲気を作り出す相撲協会の慣行などについてどのような見解を出すのかも注目されるところ。

「わずか2票」が改革への第一歩となるか

評議員会の対応の仕方によっては、貴乃花親方の「相撲協会の現状を見てみると、社会的な責任を果たすよりも協会内の事情や理屈が優先され、公益性から逸脱している」という指摘が説得力を増し、世の中の理解を得ることになる可能性は否定できない。

その時には、投票方法の変更やその決定プロセスに一切言及しようとしない多くのメディアや専門家達も「協会内の事情や理屈を優先し、公益性から逸脱した相撲協会のインサイダー」だという誹りを免れなくなるだろう。

今回の理事候補選挙で貴乃花親方が2票しか得られなかったことが惨敗したのか、それとも大きな勝利への第一歩となったのか。その真の結果が出て来るのはこれからである。

image by:Wikimedia Commons

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2018年2月4日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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