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バフェット流はもう時代遅れなのか? 一流の投資家が見誤った産業構造の変化=東条雅彦

バフェット流投資のセンターピンは「消費者独占型企業に投資する」ことになりますが、これが最近では難しくなってきています。

ざっくりと言えば、オールドエコノミー企業がハイテク企業からモロに攻撃を受けることになってしまって、強固に見えたワイドモート(競争優位性)が崩れる事態が生じるようになりました。このような変化の激しい現代において、バフェット流投資を貫く場合、投資家はどのような対応をしていけばいいのでしょうか?

本稿ではその答えのヒントを提示していきたいと思います。(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』東条雅彦)

バフェット流に未来はない? 投資家も変化を求められる時代へ

安泰ではなくなったバフェット銘柄

バフェットの投資法は、消費者独占型企業を長期間保有して、複利マジックによって資産を増やしていくという手法です。複利マジックは発動までに多くの時間が必要なので、長期にわたって繁栄を続ける企業に投資しなければいけません。

そのため、バフェットはより強固なワイドモード(競争優位性)を持った企業を選定しています。長期保有によって複利マジックを炸裂させようとしているのに、途中で他社に事業が破壊されてしまうと、それができなくなります。他社に破壊される心配のない企業に投資するのが大切です。

しかし、近年は産業構造の変化によって、バフェット銘柄と言えども、安泰でなくなってきました。

この産業構造の変化はざっくりとした言い方をすれば、「経済の主体が物理空間から情報空間にシフトしてきた」ことに起因しています。

<資本主義の構造の変化>

出典:資本主義の終焉と歴史の危機

「アマゾンエフェクト」という言葉に代表されるように、ハイテク企業がオールドエコノミー企業の事業を破壊する流れが決定的になった今、バフェット流投資でどのように収益を上げていけばよいのでしょうか?

本稿では消費者独占型企業の定義を確認しながら、バフェット流投資で勝つための方法を探っていきます。

<アマゾンエフェクトとは?>

ネット通販の巨人、アマゾン・ドット・コムの攻勢の影響により、業績や株価の低迷、不振にあえぐ企業が増えていることを指し、「アマゾンが全てを飲み込む」といった意味合いで使われている。

消費者独占型企業の「4タイプ」

バフェット流投資における消費者独占型企業には、以下の4つのタイプに分類されます(出典:書籍『億万長者をめざすバフェットの銘柄選択術 P71』)。

<タイプ1>

長期使用や保存が難しく、強いブランド力を持ち、販売業者が扱わざるをえないような製品を作る企業

<タイプ2>

他の企業が事業を続けていくために、持続的に使用せざるをえないコミュニケーション関連事業

<タイプ3>

企業や個人が日常的に使用し続けざるをえないサービスを提供する事業

<タイプ4>

宝石・装飾品や家具などの分野で、事実上地域独占力を持っている小売事業

これら4タイプの消費者独占型企業のうち、経済の主体が物理空間から情報空間にシフトしたことによって、最も影響を受けているのはタイプ4の小売事業者です。

アマゾン等のハイテク企業によって、ワイドモートが破壊されてきており、今後もその傾向が続きます。

かつて、バフェットの得意分野だった「小売業」への投資は今ではアマゾンエフェクトを恐れて、新規案件には手を出していません。

Next: 通用しなくなってきたバフェット流。ブロックチェーン革命の影響は?



ブロックチェーン革命によって銀行業も影響を受ける?

産業構造の変化はタイプ4以外にも影響を与えています。今まで有償だった商品やサービスがハイテク企業によって破格の安さまたは無料で提供されるようになったりして、「安泰」と言い切れる事業が以前よりも狭まってきています。

例えば、タイプ3の「企業や個人が日常的に使用し続けざるをえないサービスを提供する事業」に該当する銀行業を見ていきます。

銀行業と言えば、バフェットが小売業と並んで重宝していた分野です。今後は仮想通貨及びブロックチェーン技術の登場によってどういう影響が受けるのかがとても不透明になってしまっています。

もちろん、金融業の持つ「信用創造」は今後も他社には真似できないはずですが、少なくとも国際的な送金業務は仮想通貨に市場を取られる公算が高い。仮想通貨のことをパチモンだと思っている人は認識を変えた方が良いと思います。

バンクオブアメリカやサンタンデール銀行、カナダロイヤル銀行、ウニクレディット等、既に90行以上の銀行が仮想通貨リップルのプラットフォームを採用しています。つまり、銀行自身が仮想通貨を認めている状況なのです。

そして、一番、銀行にとって怖いのが、顧客が銀行を経由しないで直接、顧客同士で仮想通貨を用いて送金されることです。今のところはほとんど影響は出ていないのですが、近未来においてはわかりません。

明らかに「仮想通貨」を過小評価しているバフェット

バフェットは2018年1月10日、CNBCとのインタビューで、「仮想通貨は総じて悪い結末に至るだろうと、ほぼ確信を持って言える」と発言しました。

資産家のウォーレン・バフェット氏は、自身はビットコインのような仮想通貨のファンではないとし、それらの価値急上昇は短命に終わると確信すると述べた。

バフェット氏は10日にCNBCとのインタビューで、「仮想通貨は総じて悪い結末に至るだろうと、ほぼ確信を持って言える」と発言。

「それがいつ起こるのか、どのように起こるのかなどは分からない。ただし、これだけは分かっている。全ての仮想通貨について5年物のプットを買うことができるなら、私は喜んでそうするだろうが、10セント分すらもショートにすることは決してない」と述べた。

出典:バフェット氏:仮想通貨、悪い結末を迎えるのは確実 – Bloomberg(2018年1月11日配信)

この記事の中では特に技術的な話はなく、とにかく仮想通貨を一方的に否定しています。

もちろん、仮想通貨の中には1年で価格が100倍以上に急騰しているものもあり、誰がどう見ても不自然な価格推移です。「バブル」だと見られても仕方がないと思います。

ただ、長期で見れば、通貨にブロックチェーンの仕組みが組み込まれる流れはほぼ確定的です。

それは前述の通り、既に90行以上の銀行が仮想通貨リップルのプラットフォームを採用していることからも、そう断言できます。少なくとも、大手銀行の経営陣は仮想通貨の仕組み自体を否定していません。

むしろ、真似して自前で仮想通貨を発行する銀行もあるぐらいです。例えば日本では三菱東京UFJ銀行が2017年5月に「MUFGコイン(仮想通貨)」を発行しました。本当に仮想通貨がパチモンだったら、こんなことはしません。意味があるから、どの銀行も真剣に仮想通貨と向き合っているのです。

Next: 今の「仮想通貨バブル」は「ドットコムバブル」に似ている



今の「仮想通貨バブル」は「ドットコムバブル」に似ている

2000年前後に発生したドットコムバブルと今の仮想通貨バブルは、とても良く似ています。ドットコムバブルの時は、会社名に「ドットコム」という名前がついているだけで、株価が暴騰しました。

今の仮想通貨バブルもそんな感じになっています。「仮想通貨」であれば、どんな仮想通貨でも暴騰するという奇妙な現象が発生しており、次から次へと新種の仮想通貨が誕生しています。

2018年1月時点で、仮想通貨の種類はなんと1500種類にも及ぶといいます。これらの1500種類の仮想通貨が未来において全て生き残っているとは到底思えません。どう考えても、そんなに多くの種類の仮想通貨は世の中に不要です。

だから、経済的に需要のない仮想通貨は消えていきます。でも、1500種類の仮想通貨が未来において「全て」消えているということはないでしょう。いくつかは生き残っているはずです。

仮想通貨バブル崩壊後に、本物の通貨革命がやってくる

2000年前後に生じたドットコムバブルでは、人々はインターネット上で買い物をするようになって、リアルな店舗は淘汰されるようになるという、嘘か本当かわからない怪しい話が出回っていました。当時はまだ夢物語だと思われていたのです。

間もなく、ドットコムバブルが崩壊して、「やっぱりインターネットにはそこまで大きな経済的な価値はなかった」と人々は目が覚めました(しかし、後に認識を再度、改めることになります)。

そして、18年が経過した2018年現在、気がつけば、世界の時価総額企業トップ10社のうち、ハイテク企業は7社を占めるようになりました。

<世界時価総額ランキング(2017年12月末時点)>

しかも、今では「売上高の拡大」「利益の拡大」といった経済性を備えており、「バブル」だと言えなくなってきています。

実際に、アマゾンエフェクトによって、オールドエコノミー企業の売上高はほとんど伸びなくなってしまい、どんどんハイテク企業に市場シェアを奪われ続けています。

そして、バフェットの好む「ワイドモートを持つ企業」という定義そのものがぐらつく事態にまでなってしまっています。

今から思えば、「ドットコムバブル」はAI革命の前哨戦でした。ここで振るいに掛けられて生き残ったハイテク企業が現在、AI革命を主導しています。

今の「仮想通貨バブル」もこれとまったく同じ構図です。後に、「本物の通貨革命」がやってきます。現在はその前哨戦なのです。

・ドットコムバブル=AI革命の前哨戦
・仮想通貨バブル=通貨革命の前哨戦

Next: 仮想通貨には確かな「経済メリット」がある



仮想通貨には確かな「経済メリット」がある

通貨には3つの機能があります。

  1. 価値の交換・支払いの手段
  2. 価値の尺度(ものさし)
  3. 価値の蓄積・保存

私達が日常で使っている法定通貨は概ね上記の3つの機能を満たしています。

一方、仮想通貨は「(1)価値の交換・支払いの手段」については役割りを果たせそうですが、「(2)価値の尺度(ものさし)」と「(3)価値の蓄積・保存」については、うまく役割りを果たせない可能性が高い。

仮想通貨は1日で10%以上、値段が上がることもあれば下がることもあります。ものさしがこんなに大きく伸び縮みしていたので、価値の尺度にはならないし、価値の貯蓄・保存にも向いていません。

しかし、仮想通貨には法定通貨を上回る大きなメリットがあります。それはインターネット回線を通じて、ほぼフリーで価値の交換・支払いができる点です。

法定通貨で海外送金をする場合、国内の銀行と現地の銀行との間に、海外送金処理を行う「コルレス銀行」という機関が入ります。各銀行が手数料を徴収するため、海外送金をするのに、ネットバンク系で2000円、メガバンクで5000円ぐらいの手数料が生じます。

仮想通貨で海外送金した場合、中間搾取する銀行が介在しないため、コストは数百円以下に収まります。さらに、ものの数分で海外送金が完了します。

法定通貨を海外に送金した場合は1日から1週間程度の日数が必要です。仮想通貨を海外送金した場合、ものの数分で完了するので、実は海外送金という限定した目的で使用するのなら、価格変動もそれ程、大きな問題にはなりません。

さらに、将来的に仮想通貨のオプション取引等ができるようになると、価格変動のリスクを抑えることもできるでしょう。

仮想通貨をそのまま法定通貨の代替えに使おうとすると、使い物にならないという結論になりますが、海外送金のように、明らかに経済的なメリットがある部分についてはおそらく普及してくるはずと予想します。

仮想通貨の普及は銀行にとってはとても脅威になるはずです。もちろん、銀行側も自前で仮想通貨を作って対抗しようとしていますが、今までのように海外送金に関わる手数料で儲けることはできなくなるでしょう。

バフェットが鉄板とみなす銀行業も、長期的には不確実性が高くなったと私は認識しています。銀行業の本筋は「信用創造」になるので、根幹は崩れない。でも、その周辺の事業は仮想通貨によって破壊される可能性があります。

Next: 何が何でもバフェット流投資を貫くという選択肢も



何が何でもバフェット流投資を貫く方法

今のように、産業構造が大きな変化している中でも、バフェット流投資を貫き、やはり「消費者独占型企業」に投資したい! そう考えている人は多いと思います。

その方法は2つあります。

<方法1>

ハイテク企業が破壊できない(または破壊しにくい)消費者独占型企業に投資する

<方法2>

ワイドモートを持つハイテク企業に投資して、AI革命を推進する側に回る

方法1を採用する場合、冒頭で述べた消費者独占型企業の4つのタイプのうち、最も狙い目はタイプ1の企業です。

<タイプ1>

長期使用や保存が難しく、強いブランド力を持ち、販売業者が扱わざるをえないような製品を作る企業

タイプ1に該当する企業の多くはハイテク企業の事業伸長とは無関係な立ち位置にいます。例えば、ハイテク企業がディズニー、ナイキ、ルイヴィトン、エルメス、グッチのようなブランド企業を破壊することは不可能です。

現在、バフェットが保有している銘柄では、コカ・コーラがタイプ1に該当する企業となります。ただし、コカ・コーラは世間的な健康志向の高まりを受けて、以前よりも事業が伸びなくなっています。今から投資するには不適切なのかもしれません。

<補足事項>

今となってはコカ・コーラよりも、ペプシ・コーラの方が財務的には教科書的バフェット銘柄です。

もう1つの方法は、思い切って「ハイテク企業」に投資するという方法です。実は、現在、バフェットが最も力を入れているアップルはこのタイプ1に該当する企業で、かつ、ハイテク企業でもあります。つまり、方法1と方法2の両方を実践していることになります。バフェット自身も産業構造の変化に対応しようとしています。

Next: 台頭するハイテク企業~ブランド価値が高い企業トップ50



経済は日々、変化している

バフェットは2000年後のドットコムバブルに乗らずにうまく回避しました。しかし、今ではその成功体験が足かせになっているように見えます。

経済は日々、変化しています。先程、タイプ1のブランド企業に投資すべきという話をしましたが、実はそのブランド企業も気がつけば、トップ4位までハイテク企業が占領しています。

<フォーブス ブランド価値ランキング2017(トップ50)>

ざっくりと言えば、上位陣はハイテク企業が多く、下位陣はオールドエコノミー企業が多いという構図になっています。このランキングを見れば、なぜバフェットが慌ててアップルを取りに行ったのかがわかると思います。

経済は変化しています。そのため、「おれはハイテク企業には投資しない」とか、変な拘りを持っている人はおそらく損します。

なぜなら、今はまだAI革命が本格的に起動する前の状態であり、むしろ投資チャンスはこれからの方が多いと考えられるためです。

2020年代に入れば、実業務で使える量子コンピューターが登場してもっと大きく勢力が変わる可能性も高い。こういう革命期はバフェット流投資のアプローチ方法も大胆に変更していくべきです。

Next: まとめ:変化する経済に合わせて、投資家も変化していくべき



本稿のまとめ

<1>

経済の主体が物理空間から情報空間に遷移することで、あらゆる産業分野で変革が起きる。

<2>

現在の仮想通貨の暴騰が仮にバブルだったとしても、その後に、本物の通貨革命がやってくる。
・ドットコムバブル=AI革命の前哨戦
・仮想通貨バブル=通貨革命の前哨戦

<3>

バフェットが好んでいる金融業も今後は不確定要素が多い。仮想通貨は少なくとも「海外送金」の分野では経済的なメリットがあるため、仮想通貨が普及していく可能性が高い。銀行は今までのように多額の仲介手数料を徴収することは難しくなると予想される。

<4>

産業構造が大きく変化している現代において、消費者独占型企業の選定が難しくなってきている。対応方法として、次の2つの方法が有効だと思われる。

方法1:ハイテク企業が破壊できない(または破壊しにくい)消費者独占型企業に投資する

方法2:ワイドモートを持つハイテク企業に投資して、AI革命を推進する側に回る

<5>

ブランド企業のランキング上位はいつの間にかハイテク企業ばかりになってしまった。経済は変化しているので、投資家も変化しなければいけない。

image by:Wikimedia Commons

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ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』(2018年2月4日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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