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また「失われた10年」がやってくるのか。黒田続投で日本経済は未知なる領域へ=栫井駿介

異例とも言える黒田日銀総裁の続投ですが、日本経済にとって大きなリスクとなる可能性があります。日銀がインフレ目標を掲げ続ける理由とあわせて解説します。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

やがて来るハイパーインフレ。私たちがいま準備すべきことは?

黒田総裁の続投は「茨の道」

黒田総裁は、アベノミクスの主砲と言っても過言ではありません。これまでに例のない金融緩和やマイナス金利の導入を決定し、その後の円安・株高の展開を導いたのです。続投によりサプライズはないものの、金融緩和継続の見通しから市場の反応は概ね好調です。

出典:Yahoo!ファイナンス

長らく続いたデフレからの脱却を宣言したことは、日本経済にとって大きな転換点となりました。中期的に見れば、金融緩和を主導した黒田総裁の功績は大きかったと言えるでしょう。

しかし、ここからの続投は誰も想像することのできない茨の道と言えます。

日銀が本来目指しているインフレ率2%の見通しは一向に達成できそうにありません。市場もすっかり懐疑的になり、インフレ期待により進んだ円安は終焉しかけています

なぜインフレ目標は維持されるのか?

日銀はなぜかたくなにインフレ目標を維持しようとしているのでしょうか。それには大きく2つの課題があると考えます。

1つは、円安の維持です。デフレの国の相対的な通貨価値は上昇しますから、インフレ目標を取り下げると、待っているのは円高です。アベノミクス以前に1ドル=70円台まで円高が進んだのは、長引くデフレによる影響が否定できません。円高になると企業業績が低迷して株価も下落する可能性が高く、政権への打撃は必至でしょう。

2つ目は、政府債務比率の抑制です。インフレの状態であれば、名目上の税収やGDPは増え、相対的な債務残高を抑えることができます。日本政府の債務対GDP比率は200%を超え、先進国で最悪の水準です。これを少しでも抑えなければ、安定的な金融・財政政策に支障が出ることは間違いありません。
※参考:世界の政府総債務残高(対GDP比)ランキング – 世界経済のネタ帳

それなら、これまでうまく行っていることだし、金融緩和を継続すればいいじゃないかと思いますが、そうは問屋がおろしません。

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金融緩和の効果はやがてなくなり、副作用は高齢者を直撃する

金融緩和は「カンフル剤」です。元気のない人(経済)にカンフル剤を打てば元気を取り戻しますが、効果がずっと続くわけではありません。そして、経済は循環するものですから、いつか好景気が終わり不景気が訪れます。

金融緩和を続けたままでいると、やがてカンフル剤が効かなくなります。そんな時に不景気の波に襲われると、打つべきカンフル剤がなくなってしまい、経済はその後長期低迷を迫られる可能性があるのです。そうなると、再び「失われた10年」がやってきてもおかしくありません。

さらに大きな恐怖が財政問題です。日銀がやっている国債の買い取りは実質的に「財政ファイナンス」(国債を中央銀行が引き受けること。先進国は一般的に禁止している)ですから、これが続くと国債や円に対する信頼が失われてしまいます。

外国人投資家は、すかさず国債や円を売るでしょう。すると、急激な円安・金利高騰・インフレに見舞われます。物価も上昇し、ハイパーインフレのような状態になってしまう可能性があるのです。そんなことは起きないと言う人もいますが、論理的に考えると決して荒唐無稽な話ではありません。

ハイパーインフレは、確実に一部の人にとって悪い影響を及ぼします。働き口のある人は物価の高騰に比例して給与も上昇するため影響は限定的ですが、預金や年金で生活している人は物を買えなくなってしまいます

実際にルーブル安・物価高が続くロシアでは、年金生活のお年寄りは電車代が払えないためひたすら歩いたり、家庭菜園で何とか食いつないでいるのです。同じような状況が日本で起こらない保証はどこにもないのです。

このような状況に備えて私たちができることは、まずはしっかりと働くこと、そして蓄えた資産をインフレに強い株式や不動産、海外資産にすることです。割安な優良株や外国株は、比較的手の届きやすい資産防衛手段となるでしょう。


つばめ投資顧問は相場変動に左右されない「バリュー株投資」を提唱しています。バリュー株投資についてはこちらのページをご覧ください。記事に関する質問も受け付けています。

※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。

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バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2018年2月20日号)より
※太字はMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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