世界各国で中央銀行によるデジタル通貨の発行が研究されているが、発行されるとどんな弊害があるのだろうか? 日銀・雨宮副総裁の見解を引用しながら考えたい。(『牛さん熊さんの本日の債券』久保田博幸)
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中央銀行がデジタル通貨を発行するとどうなる? 日銀の見解は
個人や企業が中央銀行に直接口座を持つことになる
日銀の雨宮副総裁は、IMF・金融庁・日本銀行共催「FinTechコンファレンス」における挨拶のなかで、中央銀行が発行するデジタル通貨に関してコメントしていた。
日本銀行を含め多くの中央銀行は、歴史的には、支払決済手段の濫立やこれに伴う混乱に対処するために誕生しました。(中略)
中央銀行の登場により、それまでの、「数多くの支払決済手段の信頼性をいちいち調べなければいけない状況」から脱却することができました。支払決済システムにおける情報処理コストは大きく低減しました。
出典:「デジタル時代と中央銀行~IMF・金融庁・日本銀行共催 FinTechコンファレンスにおける挨拶の邦訳」 – 日本銀行ホームページ(2018年4月16日配信)
日銀が発行する日銀券を用いて支払いを行った場合には、相手がその受け取りを拒絶することができない。
言い換えれば、日銀券は「法貨としての強制通用力」を持っている。これはつまり日本国内で円を使う場合に、日銀券は制限なく使用できることになる。
中央銀行は、銀行券と中央銀行預金の供給に特化する一方で、民間銀行はこれを核とする信用創造活動を通じて、広義マネーとしての預金通貨を供給しています。(中略)
中央銀行と民間銀行による二層構造は、通貨制度の安定性と効率性を両立させる、歴史的知恵であったと言えます。
出典:同上
中央銀行がデジタル通貨を自ら発行するとなると、単純化していえば、一般の家計や企業が中央銀行に直接口座を持つことになります。そうなると、只今申し述べた通貨制度の二層構造や、民間銀行を通じた資金仲介などに、大きな影響を及ぼす可能性があります。
出典:同上
Next: 各国で研究が進む官製デジタル通貨。効率化を重視して失うものとは?
官製デジタル通貨の弊害は
南米ウルグアイの中央銀行はブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用した「法定デジタル通貨」の試験運用を開始した。スウェーデン中銀による「eクローナ」構想、中国人民銀行による「法定数字貨幣」の計画、オランダ「DNBcoin」の開発、カナダの「CAD-coin」など世界各国で研究が進んでるとされ、日銀も研究は進めていると思われる。
しかし、現実的に我々が日銀に口座を持って、決済を行うということは技術的なものだけでなく、民間銀行の業務の在り方にも大きな影響を与えかねない。
歴史によって生まれた通貨制度の二層構造が、いまのところ金融経済にとってはベターなものであり、そこに利便性の面だけで、中央銀行がデジタル通貨を発行するとなれば、金融のシステムが大きく変化する可能性もありうる。
また、それによって効率的ではあるものの、個人や企業の資金の流れが一元管理されてしまうということにもなりかねない。
現状ではキャッシュレス化の流れは必要なのかもしれないが、そのために中央銀行がデジタル通貨を発行するということは、あまり現実的なものではないと思われる。
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『牛さん熊さんの本日の債券』2018年4月18日号より
※記事タイトル・リード文・本文見出しはMONEY VOICE編集部による
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