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ユーフォリアの中の醒めた目、株価暴落を見通した人たち 平成バブル崩壊の真相(後編) – 山崎和邦 わが追憶の投機家たち

投資歴54年の山崎和邦氏による本連載。前回に引き続き、「平成バブルの絶頂と崩壊」をテーマに、当時の世相や、金融当局・企業・投資家・メディアそれぞれが犯した過ちを振り返ります(後編)。
大蔵省証券局と三重野日銀の大罪 平成バブル崩壊の真相(前編)はこちら

「頭脳に極度の変調をもたらす」バブル崩壊を見通した人の共通点

前編で述べたように、平成バブルは、歴史上幾多のバブルのご多分に漏れず「異常」づくしだったが、ごく一部には醒めた見方のできる人もいた。バブル大天井の2ヶ月前に全株を売り切った私や、野村総研の高尾義一氏である。

高尾義一氏はバブル崩壊の直後に中公新書から『平成金融不況』を著し、これは将来の大変事の予兆だと主張し、「未だ中間報告にすぎない」と言って、失われた20年の警鐘を株式市場のシグナルから読み取るべきだと主張した。

私は主として株式市場のバカさ加減から、1989(平成元)年の10月から売り始め、11月には全株を売り切ってしまった(史上最高値は12月30日)。なぜ、私は醒めていたのか、それは拙著『常識力で勝つ 超正統派株式投資法』(角川学芸出版)の冒頭に詳しく述べた。

株価は下がるべくして下がる、上がるときは予測もしてなかった外部要因が突如出て急騰することがある。これを兜町では「理外の理」と言ってきた。だが下げにはマグレはない。下げるべくして下げる。

これを「上げにマグレの上げあり。下げにマグレの下げなし」と言う。ちょうどプロ野球の野村監督が「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」と言っていたが全く同じ意である。

バブル9合目の1989(平成元)年7月に出た経済白書では、資産大国日本について「株価・地価にバブル的要素がある」と述べ、我が国のストック経済化が、本来あるべき物と違った形になっているとの警告を発していた。これは勿論、無視された。

ガルブレイスの書いた分かり易い読み物に『バブルの物語』(ダイヤモンド社)がある。またジョン・トレインの『金融イソップ物語』(日本経済新聞社)などもバブルの最中から出てはいた。醒めていた者は皆、これらを読んでいた。

世界のバブルに共通するのは、ユーフォリア(陶酔的熱病)の拡大である。これを防ぐのは意外に簡単である。常識があることと、世界の各種の失敗談を読むことだ。成功談からはヒトは学ばない。ヒトは市場では必ず失敗から学ぶものだ。

私は若い頃の青春の痛手が効いていた。だから、旨くコトが運んだあとは必ず失敗談を探して読み漁った。

さて元来、バブルのユーフォリアとはガルブレイスの言う通り、「頭脳に極度の変調をもたらすもの」であるから、経済白書の一文が無視されても驚くことではない。とはいえ始末が悪いのは、無教養なマスメディアの報道であった。

Next: 嘘八百がまかり通ったバブル前後のメディア報道を例証する


山崎和邦(やまざきかずくに)

1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院特任教授、同大学名誉教授。

大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴54年、前半は野村證券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。

趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12を30年堅持したが今は18)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。

著書に「投機学入門ー不滅の相場常勝哲学」(講談社文庫)、「投資詐欺」(同)、「株で4倍儲ける本」(中経出版)、近著3刷重版「常識力で勝つ 超正統派株式投資法」(角川学芸出版)等。

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嘘八百がまかり通ったバブル前後のメディア報道を例証する

平成バブル前後のメディア報道を少し例証しよう。

当時、当代一級のエコノミストの集まりだった経済企画庁の中にも変な者がいて、当時の内閣調整局長の吉冨勝氏は(経企庁自ら出した「白書」の中で前述のように警告を発しながらも)、92年5月の『週刊東洋経済』誌で「資産デフレは実体経済に響かない」と自らの無知蒙昧をさらけ出している。

景気動向指数が明確に下降しているときに「日本経済のレベルは高い」と主張し、「レベルか方向か」というレトリックで景気理論を混迷に誤導した。

次に大蔵省だ。悲観的な景気判断が財政出動を必要とすることを、本能的に彼らは嫌う。「景気後退」という言葉を許さず「調整」と言わせた。

国土庁もバブルに油を注いだ。1985(昭和60)年、つまりバブル開始の2合目で「首都改造計画」とを出して、こう説いた。

「東京都区部に於いてだけでも昭和75年までに5千ヘクタール(山崎注:超高層ビル250棟分に匹敵する)の床面積の需要が発生しると予告される」

これが霞が関ビル250棟分と意訳されて、このアナウンスメント効果により嵐のようなオフィスビルラッシュが始まった。「山手線の内側を日本のマンハッタンにしよう」と時の中曽根総理は呼びかけた。

ユーフォリア(陶酔的熱病)というものは、かかった当初は心地ちがよい。そして自覚症状なく病魔に侵されて一億総バカ化するのだ。

鈴木淑夫、日銀理事から野村総研常務理事になった人物、この男は1991(平成3)年11月、景気動向指数が明確に下降に入った頃、日経新聞に「不況感なき景気後退」という一文を載せた。さらに『日本経済 日は、まだ高い』という本を出して物笑いの種になった。

日は高くとも(レベルの問題でなく)方向が下向きなら注意すべきなのだ。吉冨勝と同様に方向とレベルを混同している。このタイプは株式投資をすると必ず損をするタイプだ。

一橋教授だった野口悠紀雄も、1992(平成4)年6月の『週刊東洋経済』誌で「バブル崩壊は実体経済と無関係だ」と述べている。これまた「失われた20年」を読みそこなったケースであった。

Next: 自分を安全地帯に置くには、まず「バブルとは何か」を学べ


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自分を安全地帯に置くには、まず「バブルとは何か」を学べ

人類の歴史と共にあった「バブル」とは何か。それは通俗的には、資産価格が実体価値を大きく離れて取引されている状態とされる。

しかしこの考え方に私は昔から賛成しなかった。「実体価値」とは誰がいかなる尺度でいつ決めるのか?

これではバブルはその最中には気がつかず、グリーンスパンが言う通り「あとになってみなければ解らない」ものとなる。

いっぽう筆者のバブルの定義は単純だ。

  1. 長期的に持続しそうもない高値で資産が取引され
  2. しかも通常時より大量に取引され
  3. 且つ、誰もが当然と思っていて
  4. それを理路整然と説明したがる者が多く出る

この状態を言う。さらに付け加えれば

  1. 誰かが気がついて「今はバブルだ」と言うと皆にバカ扱いされる

この5番目の条件が重要だ。その代表は1929年秋のNY大暴落とその後の長期の世界恐慌を暴落の前に言い当てて講演し、NY中から失笑と爆笑を買ったロジャー・バブソンだ。

株式市場で金融資産を作れる者とそうでない者との差は実は一歩の違いであろう。だがその一歩を知るためには、百里の半ばを九十九里とする超算術を知らねばならない。

それは8合目で全部を売り切って、その後の9合目から10合目の爛熟相場の一番旨いところを食わずに我慢することだ。これはやむを得ない。そのかわり、大量のキャッシュポジションを取って暴落過程を絶好の買い場近しと、好機到来を楽しみながら待てる。

ヒト様が青くなっている最中に好機到来を待つのだから、爛熟相場の旨みを捨てた代償としては充分にオツリが来る。

Next: バブルは「常識力」の試金石。いまの日本、そして中国の今後は?


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バブルは「常識力」の試金石。いまの日本、そして中国の今後は?

さて、足元の日本市場では、6月10日の衆院財政金融委員会で黒田総裁が「金融市場について『バブルの動きは観察されていない』と話した」(日経新聞6月16日)。

また、その1ヶ月前には甘利経産相が「ミニバブルなら制御可能である。ミニバブルはむしろ歓迎するところである」とテレビで語っている。

とはいえ、現時点で日本が、いわゆる「バブル」の異常に足を踏み入れていないことは、本稿をお読みいただいた後なら明白であろう。

目下のバブル崩壊は眼の前の中国で起きている、と言える。上海株は一日の売買代金が20兆円、日本の10倍だ。6月12日に最高値5178ポイントをつけた後、7月上旬にかけ大幅下落し一時3500ポイント割れまで示現した。

これはNYダウに例えれば5000ドル以上の下げに匹敵し、仮にそうなれば日経平均は5千円くらいは下がっても不思議はない。現に平成になってから1年内に日経平均が5000円下がったことは7回あった。

ところが上海暴落でも日本が平気でいられるのは、中国金融市場が如何に信用されてないか、の裏返しであろう。

聞くところによると居住中の自宅を信用取引の担保にしてもいいのだそうだ。笑える話だが、実はアメリカも2007年までは字も読めない移民に住宅ローンを契約させて債権化し世界中に売りまくった。その罰はサブプライム破綻と言う形で現れてリーマンショックの淵源を作ったのである――。

ともかく、このようにして平成バブルは崩壊すべくして崩壊し、その後の「失われた20年」を作った。投資家は勿論のこと、政治家、中央銀行、大蔵省の全てが「異常」だったのだ。

ただし、これまでもこれからも、バブルとは、グリーンスパンの言うような「後になってみなければわからない」ものでないことは強調しておきたい。

「バブルとは何か」を常時わきまえ、古今東西の失敗事例を研究する投資家なら、事前に安全地帯に身を置くことも充分に可能だった。平成バブルの崩壊は、そのような「常識力」の試金石でもあったのである。

山崎和邦(やまざきかずくに)

1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院特任教授、同大学名誉教授。

大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴54年、前半は野村證券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。

趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12を30年堅持したが今は18)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。

著書に「投機学入門ー不滅の相場常勝哲学」(講談社文庫)、「投資詐欺」(同)、「株で4倍儲ける本」(中経出版)、近著3刷重版「常識力で勝つ 超正統派株式投資法」(角川学芸出版)等。

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