マネーボイス メニュー

ニトリにとどめを刺された「大塚家具」、久美子社長が犯した2つの戦略ミスとは=栫井駿介

大塚家具<8186>の経営がかなりまずいところまで来ています。久美子社長の就任から3年の間に何が起きたのでしょうか? その敗因と今後の再建余地を考えます。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

この3年間で何が起きたのか? もはや自力での再建は不可能に…

久美子氏の就任から3年。経営はかなりまずい…

大塚家具<8186>の決算短信に「継続企業の前提に関する注記」が付けられました。これは、企業が継続して事業を行える可能性について疑義が生じたという、ざっくり言うとかなりまずい状態です。

創業者の大塚勝久氏が追い出され、娘の久美子氏が社長に就任してから3年。その間に何が起こってしまったのでしょうか。

社長交代劇がなくても結果は同じだった

大塚家具の近年の業績を見ると、苦しい状況がよくわかります。2017年12月期まで2期連続で赤字を計上し、今年度も3期連続となる赤字見通しとなっています。2015年に久美子氏が社長に就任してからは見事なまでの右肩下がりです。

この結果を受けて、父の勝久氏や彼を支持していた人たちは「それ見たことか」と思っているかもしれません。確かに、親子喧嘩が大塚家具の衰退を促進した部分はあるかもしれませんが、現実を見ると仮にそのままでも厳しい状況にあったことがわかります。

大塚家具は、1979年に勝久氏が創業した会社です。当時としては画期的だった、メーカー直接仕入れや大規模店舗が顧客に受け入れられ、2000年代まで業績を伸ばし続けました。しかし、時代の流れは刻一刻と変わっていきます。

ニトリの登場で、大塚家具は「中途半端に高い店」に

家具業界で最大の変化は、何と言ってもニトリ<9843>の登場です。自ら商品の製造を行うSPA(製造小売業)モデルで安い商品を大量に供給し、業績を伸ばしました。長く続いたデフレの影響もあり、単価の高い家具であっても低価格の商品が定着していきます。

よく誤解されますが、大塚家具は決して「高級家具」のジャンルを扱う店舗ではありません。ターゲットはもともと幅広く一般の「マス層」であり、その中の品揃えとして高級家具も置いているだけにすぎません。

出典:アニュアルレポート 2018

ニトリの登場までは家具が高いのは当たり前だったため、大塚家具はメーカー直接仕入れによる「安さ」を強調していました。ところが、安さではニトリに敵うわけもなく、価格に敏感なマス層の消費者は大塚家具を「中途半端に高い店」として敬遠するようになります。

マス層を奪われると、それまで強みだった点がことごとく裏目に出ます。

Next: 首が回らなくなってきた大塚家具。久美子氏に足りなかった覚悟とは?



大きすぎる「固定費」が経営を圧迫

同社は丁寧な接客が売りで、勝久氏の時代には会員制を敷いていました。しかし、いくら素晴らしい店員がいても、来店する顧客が少なければ手が余ってしまいます。彼らの人件費は、確実に業績を圧迫します

大規模店舗も重荷になりました。広すぎる店舗は、顧客が来なければただ家賃を払い続けるだけの金食い虫になってしまいます。単なる賃貸なら撤退すれば良いのですが、大塚家具はその大部分が解約不能の長期契約だったのです。

こうして、人件費と賃料などからなる固定費が経営を圧迫します。売上高販管費率は、ニトリが38.6%なのに対し、大塚家具は63.6%にのぼります。固定費がこれだけ高いと、いくら頑張ってもなかなか利益を出すのは難しいと言えます。

勝久氏が社長にとどまり、会員制を残していれば顧客離れも起きなかったかもしれません。しかし、それは問題の先送りにすぎず、遅かれ早かれ同じような状況に陥っていたと考えられます。

久美子氏に足りなかった「覚悟」

久美子氏が打ち出した戦略は、次世代店舗網の構築(専門店・小型店)、インターネットショッピングの強化、BtoBの強化、中古品の販売・レンタルなどでした。確かに、いずれも時代の流れを意識した戦略のように思えます。

しかし、本当に必要だったのは、紛れもなく人員削減を含むリストラでした。これがないことには、よほど急激に売り上げが伸びない限り、赤字を垂れ流し続けることは火を見るよりも明らかだったのです。

【関連】新・大塚家具、久美子社長はなぜ「過去最悪赤字」に追い込まれたのか?=栫井駿介(2017年3月28日配信)

私も久美子氏の就任後に銀座の店舗を訪れましたが、日曜にもかかわらず店内はガラガラで、手持ち無沙汰の店員たちがおしゃべりをしていました。よほどの秘密がない限り、素人目に見ても「これでは駄目だ」と気づくのではないでしょうか。

もちろん、久美子氏もリストラが必要なことは認識していたのかもしれません。しかし、社長就任の経緯もあり、ここでリストラを行うと一気に人心が離れてしまう可能性があるほか、マスコミから何を言われるかわかりません

それでも、リーダーは時に厳しい決断をしなければならない場面に直面します。久美子氏に必要だったのは、社員やマスコミから何と言われようと会社を立て直すという「覚悟」だったように思えます。きれいごとだけでは会社は経営できないのです。

一部報道によると、危機的な状況に陥った現在においても社長の地位に固執していると言います。もし本当にそうだとしたら、いまだに覚悟ができていない社長の姿は悲劇のヒロインにもなりません。

Next: 久美子氏が犯したもう1つの間違いとは? デッドラインは目前に…



現金が底をついたらアウト。デッドラインは目前に

久美子氏が犯したもう1つの間違いは、勝久氏との委任状争奪戦の過程で配当を2倍に引き上げたことです。これによって、毎年7.5億円の追加的なキャッシュアウトが発生することになりました。

今回の「継続企業の前提に関する注記」が記載される要因は、現金が底をつきそうなことです。6月末時点で残っている現金は22億円ですが、上半期だけで営業キャッシュフローが20億円のマイナスになっています。店舗や有価証券の売却、銀行借入により何とかしのいでいる状況です。

大塚家具はこれまで無借金経営を続けてきました。自己資本比率は60%と高く、一見健全な財務状況に見えます。

しかし、企業の財務を見る上で重要なのは、最終的には利益や自己資本比率ではなく、現金です。どれだけ利益が出ていて、どれだけ資本が厚かろうと、現金がなくなれば必要な支払いができなくなり、経営は破綻してしまいます。これが黒字倒産が起きる仕組みです。

逆に言えば、現金さえ確保できれば生き残ることができるのですが、これほどまでに経営状況が悪化した企業に多額の資金を提供してくれる銀行はなかなかないでしょう。現金がなくなってしまったら、経営は完全にアウトです。デッドラインは目前に迫っています。

もはや自力での再建は不可能に

引き上げた配当をすぐにでも下げていれば、もう少し資金に余裕があったかもしれません。問題の先延ばしにしかならないとは言え、現金はこの会社の生命線であり、それだけ久美子氏に危機感がなかったことが伺えます。

現金の流出が続き、リストラもできないとすれば、もはや自力での再建は客観的に不可能です。生き残るためには、身売りして外部の資本を入れてもらうしかありません。

目下、貸会議室のTKP<3940>や台湾企業の能率集団と提携交渉をしていると報道されています。知名度や流通ルートなどを利用してシナジーを出せれば、お互いにメリットになることもあるかもしれません。

しかし、そう簡単に出資してもらえるかというと、そうは問屋が卸さないと思います。

大塚家具の経営状況は日に日に悪化しています。それは、株価の推移にも表れています。

大塚家具<8186> 週足(SBI証券提供)

出資者の立場になって考えると、少しでも安い価格で会社を買えたほうがより有利に決まっているからです。

Next: 「経営破綻して欲しい」買収する側の思惑とは?



誰が買うのか。関係者たちのチキンレースが始まった

さらに言うならば、このまま民事再生法や会社更生法を申請してもらった方が、より望ましい条件になると言えます。

新しい経営者に代わったとして、やはりまず必要なのはリストラでしょう。単純な出資後のリストラだと「乗っ取り屋」のレッテルを張られかねませんが、経営破綻してしまえばその大義名分ができます。

日本航空<9201>も、会社更生法の申請でリストラを敢行できたからこそ、のちの復活につながりました。

経営破綻すると、ほとんどの場合100%減資を行いますから、既存の株主がいなくなり、資本政策も行いやすくなります。新たなオーナーとしては理想的な展開です。

どの買い手候補も、少しでも安く買おうと思って交渉を焦らしていることでしょう。しかし、どうしても買収したければ、ライバルに先手を打たなければなりません。久美子社長としても、他の交渉相手の影をちらつかせてより有利な条件を引き出そうとするでしょう。

関係者の中では、まさにチキンレースが行われているのです。

大塚家具の株式は、上場したままスポンサーが付けば株価が持ち直す可能性がありますが、一方で経営破綻のリスクもあります。株式の取引は、もはや本業の強さとは関係のない賭博場と化しているのです。

一か八かにかける「投機家」でなければ、同社の株式への投資は控えたほうがよさそうです。親子喧嘩に端を発したこのドラマは、いよいよ佳境を迎えています。


つばめ投資顧問では、株式投資による資産増加にとことん付き合うプロジェクト「スノーボール計画」を実施しています。確かな資産形成を目指すあなたのご参加をお待ちしています。

※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。

【関連】ひとり負けの「かっぱ寿司」、好調のスシロー・くら寿司とどこで差がついた?=栫井駿介

【関連】ただの食い物屋になってしまった「鳥貴族」、客数と株価を落とした戦略ミスとは?=山田健彦

【関連】中国勢の引き上げで湾岸タワマンは売れ残りへ。いつ家を買うのが正解なのか?=午堂登紀雄

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2018年8月30日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

無料メルマガ好評配信中

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問

[無料 ほぼ 平日刊]
【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。