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日本郵政グループ3社上場に想う~アベノミクス相場とNTT上場のあの頃 – 山崎和邦 わが追憶の投機家たち

投資歴54年の山崎和邦氏が思い出の投機家や重大事件を振り返る本連載、今回のテーマは日本郵政グループ上場。山崎氏は、NTTやJTなど過去の大型上場の経験も踏まえ、郵政上場は「すでにピークをつけたかもしれない」安倍政権やアベノミクス相場の今後を占う重要なカギになるとします。

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人気いま一歩の郵政3社とNTT、JTを比較すれば

いよいよ郵政グループ3社の上場が近づいてきた。「見せ場」が終わり「正念場」を迎える安倍内閣、これを乗り切れなければ「修羅場」だし、下手をすると「土壇場」を迎えることになる。

米利上げを巡る怖気は今後も第2波、第3波と広がろう。しかし週報(有料メルマガ『投機の流儀』)で何度も言ってきたが、お化けは実際に姿を現せば怖くなくなる。

その中で10月に日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の値決め(仮条件決定7日、ブックビルディング8~23日)があり、11月4日に上場の段取りだ。これは大袈裟に言えば嵐の中での船出となろう。

発足以来ツキまくってきた安倍内閣は、宿願の安保の強行採決の後、市場から試されるまさに正念場を迎える

引き合いに出されることの多い昭和62(1987)年2月のNTT上場は、バブル相場の6合目だったし世間も浮かれていた。国が売り出すものなのだから国民に損をさせるはずがない、という理屈が真顔でまかり通り、その結果は売り出し価格119.7万円に対し初値160万円、高値は300万円超。何も知らずに買ったOLたちや小父さん小母さんたちが大いにトクをした。

もっとも、第2次、第3次の売り出しでは、柳の下にドジョウは居なかったが。

そしてバブル崩壊後の1994(平成6)年10月、不良債権山積みの中で上場を果たした日本たばこ産業(JT)は売り出し価格143万円を深く割り込み初値119万円となり、5年後の1999年には一旦売り出し価格を抜いたものの大勢に抗しきれなかった。その後、所謂「小泉相場」に乗って株価を回復し、2倍を超えたのは上場13年後のことだった。そして今では3倍以上となってはいる。

さて、郵政3社上場には1.4兆円が要る。全株を売り出すと4兆円になる。9月第3週の週初は通信株の下落率が大きかった。これらが人並み以上に下落したのは10月にブックビルディングがあり11月4日上場の郵政3社に1.4兆円が要るからその準備であろうかと勘繰りたくもなる。が、実は安倍首相による携帯電話料金を下げるべしとの鶴の一声が原因らしい。

はては、10月にブックビルディングをやる3社の株価を安くさせ、上場後の上昇を成功させるのだという“陰謀説”まで出だしている。

通信株の時価総額はNTTドコモ、KDDI、NTT、ソフトバンクの時価総額上位4社だけで33兆円だから東証1部時価総額の6%を占めてしまう。だが通信株は郵政3社の類似業種比準方式で株価を決める場合に類似業者ではない。

郵政3社は今の地合いでは人気はいま一歩だ。とはいえJTは上場当時、煙草などという不健康なモノを政府が上場企業として公開することに批判もあり人気がなかったが、しかし後で大幅に上がった。静かに生まれたものが後で育つ、ということを市場は知った。

いっぽうでNTTの第2次売り出しは抽選になるほどの人気ぶりだったが報いられなかった。人気だけで一概に判断はできない。

Next: アベノミクス相場の命運を握る郵政3社上場の要点


山崎和邦(やまざきかずくに)

1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院特任教授、同大学名誉教授。

大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴54年、前半は野村證券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。

趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12を30年堅持したが今は18)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。

著書に「投機学入門ー不滅の相場常勝哲学」(講談社文庫)、「投資詐欺」(同)、「株で4倍儲ける本」(中経出版)、近著3刷重版「常識力で勝つ 超正統派株式投資法」(角川学芸出版)等。

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アベノミクス相場の命運を握る郵政3社上場の要点

郵政グループ3社上場の要点を整理しておこう。

先日成立した安保法案を除けば、市場にとって今からの4大事件・最大の関心事は、

  1. 米利上げのゆくえ
  2. 郵政グループ3社上場
  3. 中国懸念のゆくえ
  4. 黒田バズーカ砲3の有無

となろう。この4つとも、例えばケネディの金利平衡税の創設、ポンド暴落、ニクソンショック、オイルショック、鉄鋼輸入の関税創設、911テロ、リーマン・ショック、311原発事故などのように「突如出てきた事件性の材料」ではない。「前々から市場で言われていた材料」だ(強いて言えば、中国の景気減速が想像以上の大きさになるかもしれないということに「事件性」があろう)。

このような中で、郵政グループ3社上場の成否は、株価と連動してきた安倍政権、アベノミクス相場の命運を占う重要なカギになると考えられる。

安倍政権の支持率は今後いくら政策を出しても完全にピークアウトしたと思われる。故にすでに2.4倍になったこの大相場もピークアウトした恐れがあることは週報で述べてきた。それを占うのが郵政上場という位置づけである。

郵政グループの時価総額は10兆円規模が見込まれ、昭和62(1987)年のNTT上場以来のインパクトとなる。初回の売り出し額1.4兆円もNTTの2兆円に次ぐ。

もっとも、あの時は平成バブル相場への6合目であって今とは事情が違う。しかもこの年の秋にはブラックマンデーがあって、結果的には中間反落を入れて相場を長持ちさせることに寄与した。

とはいえ、今回の超大型上場も、アベノミクス相場の命運を左右する可能性が十分にある。郵政3社の時価総額はトヨタの約半分となろうが、3社合計の株主数は100万人に達するらしいからトヨタの2倍である。

総資産額は、ゆうちょ銀行がメガバンクの三菱より小さく三井より大きい。三菱286兆円、ゆうちょ銀行208兆円、三井183兆円。かんぽ生命保険の総資産は84兆円で第一生命の49兆円を遥かに凌ぐ。日本郵政グループ全体の総資産額は比較する業種がないが295兆円という巨大なものだ。

Next: 郵政上場で予想される「4つの懸念」慌てずその時に備えよ


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郵政上場で予想される「4つの懸念」慌てずその時に備えよ

郵政グループの上場にあたって懸念され得るポイントは4つある。今から頭の片隅に置いておき、いざそれが出た時に慌てないようにしたい。

(1)初値とその後の推移
公開価格を上回って株価がつくか、その後の推移はどうなるか。NTTの場合、1回目の売り出しはバブル相場への6合目だったから派手すぎるくらいに成功したが、2回目以降は失敗した。

今回は11月4日公開を想定しているが、その頃の地合いにも左右される。売り出し値を低く抑えれば上手くいく問題だが、政府はそのカネを東北復興資金等にするとしており、当然、高値を希望してくる。ここは主幹事証券団とのせめぎ合いになろう。

(2)全体相場の需給
約1.4兆円の資金が吸い上げられるから、他銘柄にとっては売り要因となり得る。昨年1年を通しての新規上場による資金調達は約9800億円だったから、一度でこれを上回る大型案件ということになる。

昨年全体の新規上場の1.5倍に相当する本件が、どのようなインパクトを与えるか?

(3)利益相反の問題
親子会社間の利益相反の問題があり得る。将来的に、親会社の意向により子会社の株主が不利益になるようなことが起きれば、市場の信頼を一挙に喪失する。利益相反問題が発生しやすいビジネスモデル同士である。

(4)今後の成長性
ゆうちょ銀行への貯金と、かんぽ生命の保険契約は、併せて222兆円。これは個人金融資産の13%を占め、ちょうど個人金融資産における株式資産の割合に相当する。野村証券の預かり資産より大きい。

これは国の信用を背景にして積み上がったものだが、では今後、どこまで事業拡大が認められるか、成長が望めるかとなると不透明である。いくら政府系企業と言えども、成長が望めなければ株価は衰退する。

Next: 「裏の裏は表になる」から「結論は買いだ」となるか?


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「裏の裏は表になる」から「結論は買いだ」となるか?

郵政上場の売却益は東日本大震災の復興財源に充てると言うからまさに国策である。

これは財政出動なしで財投効果をもたらしケインズの乗数が掛かってGDPに対し1倍以上に効いてくることになる。

そうすると「国策に売りなし」「結論は買いだ」という平凡な言い分に落ち着くが――。しかしながら、10日に発表された16年3月期の純利益予想は3社とも芳しくないのである。

日本郵政とゆうちょ銀行は2ケタ減益、3%増益を見込むかんぽ生命も経常利益は3割減益の予想であった。減益企業である上に、相場の地合いも必ずしも良いわけではない。

郵政3社の想定価格は控えめの水準となろう。ゆうちょ銀行が約6兆3千億円になり三井住友と同等になると見る。

PBRは3メガバンクの0.7倍に対して、ゆうちょ銀行は0.5倍の見込みだ。日本郵政のそれは0.4倍で、3社とも東証1部平均の1.3倍より大幅に低い。

紆余曲折はあろうが、小さく産んで大きく育てることを当事者は望むことになると見える。日本郵政のPERが16倍弱で決まれば、これは類似業種の物流大手ヤマトホールディングス(ヤマト運輸)より低い。

ちなみに、裏の裏は表になる、という命題については、シャーロック・ホームズシリーズ『最後の問題』における悪の天才モリアーティ教授とホームズの駆け引きを題材に、週報や拙著『あなたはなぜ株で儲けられないのか―市場と株式投資の人間学』(ダイヤモンド社)でも詳述している。

「裏の裏は表か」については本稿でも次回以降触れるが、関心のある方はそちらもあわせてご参照いただければと思う。

【関連】私の見た「幸福な富裕者と不幸な富裕者」その決定的違い(前編)=山崎和邦

山崎和邦(やまざきかずくに)

1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院特任教授、同大学名誉教授。

大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴54年、前半は野村證券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。

趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12を30年堅持したが今は18)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。

著書に「投機学入門ー不滅の相場常勝哲学」(講談社文庫)、「投資詐欺」(同)、「株で4倍儲ける本」(中経出版)、近著3刷重版「常識力で勝つ 超正統派株式投資法」(角川学芸出版)等。

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